特定の品種に多い病気

犬猫の病気や症状

好発品種という言葉の意味

DNAの二重らせん

 

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

犬や猫の病気について調べていると、「好発品種」という言葉を目にすることがあると思います。「好発」とは、病気などが発生しやすいことを表す言葉で、人間にも「〇〇という病気の好発年齢は○歳である」などのように使われます。

 

犬や猫には元々祖先となる種がいました。そこから人間の手で計画的に繁殖を行うことで、特定の能力に秀でていたり、個性的な見かけをしたりといった品種を作出してきました。その過程では近親交配も進められ、その結果目的に適った特徴が品種として固定しましたが、同時に特定の病気を発症させやすい遺伝子も固定してしまったため、特定の品種に多く発生する病気があるのです。

 

今回は、人気犬種や猫種に多い病気(遺伝性疾患)をいくつかご紹介します。遺伝として先天的に持っている病気なので、発症した場合は治るということはなく、一生治療や緩和ケアが必要となります。また、致死率が非常に高い病気もあります。

 

もしもこれから一緒に暮らすパートナーを選ぼうとされているのであれば、その品種に好発する遺伝性疾患の有無や、どういった病気なのかを事前によく調べてから選んでください。事前に知っていれば、ケアや生活上の注意、健康管理なども十分に行えるからです。

 

遺伝性疾患って何だろう?

遺伝の仕組みの図解

 

肌の色や髪の毛の質、瞳の色などの見た目の形質や、性格、また癖などの仕草などは、親から子へと引き継がれます。そのため、親子や兄弟姉妹は、顔つきや体つきを始め、性格なども似ている点が多いです。

 

こういった特質は、体を構成している何十兆個もの細胞一つひとつの中に格納されている遺伝子により、親から子へと引き継がれていきます。遺伝子は、二重らせん構造になっているDNA上にあるのですが、このDNAが折りたたまれた状態となっているのが染色体です。

 

染色体は対になっていて、人では23対の46本、犬では39対の78本、猫では19対の38本があります。染色体の内の1対がオスかメスかを決める性染色体で、残りは常染色体です。対の片方は母親から、もう片方は父親から引き継いだものです。

 

遺伝子には優性(顕性)と劣性(潜性)があり、優性の場合は1個でもあればその遺伝子の内容(形質や病気)が出現しますが、劣性の場合は2個揃わないとその遺伝子の内容が出現しません。

 

そのため、ある病気の原因が1つの遺伝子だけで、かつ劣性遺伝だとすると、母親と父親の両方から劣性遺伝子を引き継がなければ病気は発症しないということになります。しかし優性遺伝の場合は、母親と父親のどちらか一方から優性遺伝子を引き継ぐと発症してしまうということになります。

 

例えば、劣性遺伝の場合で両親が共に発症している場合は、その子も100%病気を発症します。しかし片親だけが発症している場合、子が発症する確率はもう片方の親の遺伝子が優性+優性の対なら0%、優性+劣性の対なら50%ということになります。

 

このように、病気の原因が1つの遺伝子だけ(単一遺伝子疾患)だったとしても、病気が発症する確率は異なります。また、繁殖させる前に双方の遺伝子検査をすることで、遺伝性疾患を持っている子を産ませないようにコントロールすることも可能です。

 

ただし、多因子性疾患といって複数の遺伝子と環境要因が関与する疾患の場合は、事前の遺伝子検査だけでコントロールするのは難しい場合があります。

 

人気犬種に多い病気

トイプードル

 

日本の犬種登録団体の老舗ともいえるジャパンケネルクラブの登録数で見ると、日本で人気の犬種上位5品種はプードル、チワワ、ダックスフント、ポメラニアン、フレンチ・ブルドッグで、この5品種にも、それぞれ品種好発性の疾患があります。主なものをご紹介します。

 

<プードル>

・糖尿病(遺伝性)

インスリンの働きが弱い、または分泌されないために血液中のブドウ糖を利用できず、その結果持続的に血糖値が高くなる病気です。

初期症状は多飲多尿で、進行すると食欲があるのに体重減少が見られるようになります。重症化すると神経障害や昏睡などを起こして死に至ることもあります。

プードルの他、ダックスフント、ゴールデン・レトリーバー、ジャーマン・シェパードなども好発品種です。

 

・大腿骨頭壊死症(レッグ・カルベ・ペルテス病)

太ももの骨の上端にある、骨盤と連結している部分を大腿骨頭といいます。この部分が壊死して関節炎や骨折を起こす病気です。

症状としては、股関節の痛みによって後肢の歩き方に異常が見られます。

 

・膝蓋骨脱臼

後肢の膝にあるお皿のような骨(膝蓋骨)の位置が内側または外側にずれてしまう病気です。

無症状から歩行困難まで、症状により4段階のグレードに分類されます。グレード1では無症状なことがほとんどで、時々スキップするような歩き方をすることがある程度です。グレード4では一時的に元の位置に戻ることもなくなり、足を曲げた姿勢で歩く、足を上げたままにするといった歩き方になります。

プードルの他に、チワワやポメラニアンにも好発します。

 

<チワワ>

・水頭症

脳の周囲や脳の中の空洞に溜まってクッションの役割をする脳脊髄液が、頭蓋内に過剰に溜まることで脳が圧迫されてさまざまな神経症状が出る病気です。

症状には、けいれん発作、強い刺激を与えないと目覚めずに眠り続ける嗜眠、意識障害、斜視、眼球が意識に関係なく揺れ動く眼球振盪や運動障害、視力障害などがあります。

 

ダックスフント

 

<ダックスフント>

・椎間板ヘルニア

背骨をつないでいる椎間板が変性を起こして背骨の中の脊髄を圧迫する病気です。脊髄が圧迫されるため、痛みや足の麻痺などの神経症状が表れます。

症状の重さにより5つのグレードに分類され、最も軽いグレード1では、痛みだけが見られます。グレード3以上が重症で、麻痺が強くなり立ち上がれなくなります。

ダックスフントの他にも、ペキニーズ、ビーグル、フレンチ・ブルドッグなどにも好発する疾患です。

 

<ポメラニアン>

・気管虚脱

気管が押しつぶされたように変形して、呼吸障害を起こす病気です。

症状としては、咳の他に、アヒルの鳴き声のようなガーガーといった音が喉から聞こえることもあります。進行すると呼吸困難を起こし、チアノーゼで舌の色が紫になったり、失神を起こしたりすることもあります。

 

<フレンチ・ブルドッグ>

・短頭種閉塞性気道症候群

頭蓋骨の長さに比べて鼻が短い品種を短頭種といいます。短頭種は鼻から気管にかけての気道が狭くなりやすいため、暑い時や興奮した時の呼吸がしにくくなります。これに付随して生じる諸症状を短頭種閉塞性気道症候群といいます。

運動時、興奮時の呼吸困難の他、安静時にもガーガーという呼吸音がしたり、睡眠時に大きないびきをかいたりもします。重症化すると失神することもあります。

 

人気猫種に多い病気

スコティッシュフォールド

 

大手ペット保険会社のアニコムに登録されている猫種の上位6品種は、混血猫、スコティッシュフォールド、アメリカンショートヘア、マンチカン、ノルウェージャン・フォレスト・キャット、日本猫です。おそらく混血種にはいわゆる日本猫も多数含まれていると思われますので、この5品種に好発する主な遺伝性疾患をご紹介します。

 

<混血猫(日本猫)、アメリカンショートヘア>

日本猫や混血猫、アメリカンショートヘアには、遺伝性疾患といわれている疾患はありません。

 

<スコティッシュフォールド>

・骨軟骨異形成症

スコティッシュフォールドに特徴的な折れ耳は、骨軟骨異形成症による奇形を固定したものです。そのため、折れ耳の猫にはほぼ100%の確率で何かしらの症状が出ると言われています。

症状としては、多くの場合四肢に瘤のようなものが見られます。また、痛みにより跛行が出たり、痛みを緩和するために体重をかけずに後肢を前に突き出して人間のおじさんのように座る、いわゆる「スコ座り」と呼ばれる座り方をしたりします。

この病気は優性遺伝なので、この病気の遺伝子を1個だけ持っている場合(ヘテロ)でも、原則発症します。ただし、不完全優性遺伝のため、ヘテロでも発症しない場合もあります。いずれにしろ、最も発症リスクの高い優性遺伝子を2個持つ(ホモ)猫を誕生させないためには、片親は必ずヘテロまたは正常遺伝子のホモにしなければなりません。

 

マンチカン

 

<マンチカン>

・骨軟骨異形成症

マンチカンに特徴的な短足も、骨軟骨異形成症による奇形を固定したものです。

マンチカンの短足も優性遺伝ですが、病気の遺伝子を2個持つホモの場合は致死性のため生まれてきませんので、正常遺伝子のホモかヘテロのみしかいません。

 

<ノルウェージャン・フォレスト・キャット>

・糖尿病(遺伝性)

病気や症状の説明は、プードルの糖尿病と同じです。

 

・ピルビン酸キナーゼ欠損症

ピルビン酸キナーゼとは、赤血球のエネルギー代謝に必要な酵素で、これが不足することにより赤血球の寿命が短くなり破壊されて貧血を起こす病気です。

貧血を起こすので口の粘膜や舌の色が薄く、白っぽくなります。また、食欲の低下、疲れやすい、呼吸や脈が速い、尿の色が赤茶色などの症状が出ます。

ノルウェージャン・フォレスト・キャットの他に、アビシニアンやソマリ、ベンガル、メインクーンなどにも好発します。

 

ポイント

パグ

 

ポイント

・犬や猫の遺伝性疾患の多くは、人が作り出しました

・遺伝性疾患を発症した場合は治るということはなく、生涯治療や緩和ケアが必要です

・単一遺伝子疾患の場合、交配前に双方の遺伝子検査をすることで、病気を発症する子猫を産ませないようにコントロールすることも可能です

・自分のパートナーとなる品種に多い遺伝性疾患を事前に知っていれば、日常的なケアや生活上の注意、健康管理などを十分に行えるでしょう

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