ワクチンで防げる感染症〜猫編〜

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猫の感染症の発生状況

具合の悪い猫

 

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

前回に引き続き、今回は猫ちゃんの感染症についてお話したいと思います。まずは前回ご紹介した、伴侶動物ワクチン懇話会が2013年9月〜2015年8月にかけて行った調査の中の、猫の感染症に関する結果をご紹介します。

 

調査対象となった動物病院は、全国の600軒です。発生件数の調査対象となった感染症は、猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症、猫汎白血球減少症です。調査の結果、全国でいずれかの感染症が確認された動物病院は、96.5%に上ったことが分かりました。

 

猫に関しても、公開された各感染症発生件数の県別数字を全国、関東、神奈川県で集計し、表にまとめてみましたので、ご紹介します。

 

感染症発生状況

 

前回ご紹介した犬の感染症発生率は、全国で56.8%、関東で53.5%、神奈川県で44.4%と、調査対象病院の半数前後での発生という状況でしたが、猫の場合は全国が96.5%、関東で95.1%、神奈川県でも90.7%と、いずれも殆どの病院で感染症が発生していることが分かります。

 

同じ伴侶動物ワクチン懇話会の調査では、日本の猫のワクチン接種率はわずか10%でした。前回ご紹介した犬の接種率25%も少ない数値でしたが、その半分にも満たない状況です。猫の感染症発生率の高さは、やはりワクチン接種率と関連があると考えても良いでしょう。

 

猫のワクチン接種率が低い原因は、お散歩にも出ず完全室内飼いをされている飼い主様が多いためだと思います。しかし外に出ない猫も、飼い主様が外から病原体を衣服や靴に付けて帰宅してしまうことがあり、感染リスクがゼロにはなりません。さらに多くのペット保険が「ワクチン接種で予防できる感染症の治療費は補償の対象外」としています。猫ちゃんのためにも医療費軽減のためにも、かかりつけの動物病院に相談して定期的にワクチンを接種されることをおすすめします。

 

動物病院では、お住いの地域特性や猫ちゃんの生活スタイルに合わせて、最適なワクチン接種のご提案をいたします。

 

感染症とワクチンの種類

予防接種を受ける猫

 

日本には、猫に対してワクチン接種を義務付ける狂犬病予防法のような法律はありません。しかしワクチンの種類に関しては、犬のワクチンと同様に、すべての猫に対して接種を推奨するコアワクチンと、お住まいの地域環境や生活スタイルから接種するか否かを判断するノンコアワクチンがあります。ワクチンで予防できる主な猫の感染症を挙げると、下記になります。

 

<コアワクチン>

・猫ウイルス性鼻気管炎

・猫カリシウイルス感染症

・猫汎白血球減少症

 

<ノンコアワクチン>

・猫白血病ウイルス感染症(FeLV)

・猫クラミジア感染症

 

猫のワクチンにも混合ワクチンが用意されています。混合ワクチンの種類はいくつかありますが、主流となっているのはコアワクチンを混合した3種混合ワクチンと、コアワクチンにノンコアワクチンを加えた混合ワクチンです。当院では、基本的に外に出ない猫ちゃんには3種混合ワクチンを、外に出かけることもある猫ちゃんには6種混合ワクチン(2種類のカリシウイルスに対応しているため)をおすすめしています。

 

中には、ワクチンの副反応が怖いのであまり猫ちゃんにワクチンを打たせたくないと考えておられる飼い主様もいらっしゃるでしょう。ワクチンの副反応については、次回のブログでお話したいと思います。

 

コアワクチン

診察中の猫

 

コアワクチンで予防できる感染症について簡単にご紹介します。

 

<猫ウイルス性鼻気管炎>

・感染経路

病原体の猫ヘルペスウイルス1型は、感染した猫のくしゃみや分泌液などを介して感染します。経路としては、直接接触や飛沫感染の他、食器の共有などによる関節接触でも感染します。

厄介なのは、このウイルスは猫の体内に免疫ができても殺されずに、神経細胞の中に隠れてしまうという点です。そのため免疫力が低下すると再発します。再発しても再度免疫が上がるため無症状のことも多いのですが、免疫がウイルスを体外に排出してしまうため、知らず識らずの内に感染源となってしまいます。

・症状

いわゆる猫風邪の一種なので、人間の風邪のような症状が出ます。通常は3〜4日で元気や食欲がなくなり、発熱して次第に鼻水やくしゃみが出、結膜炎を起こしたりよだれを垂らしたりするようになります。さらに3〜4日で最も激しい症状に達し、その後1週間程度で快復します。子猫などの場合は重症化し、結膜炎から失明する、肺炎などを併発して命に関わるといった状態になることもあります。

・治療

ウイルスに直接有効な治療法がないため、脱水対策の点滴や栄養補給、二次感染防止のための抗生剤投与といった対症療法が主となります。

前述の通り、一度感染してしまうと繰り返し再発したり、他の猫への感染源となったりしてしまうため、ワクチン接種による予防が大切になります。

 

<猫カリシウイルス感染症>

・感染経路

原因となる病原体の猫カリシウイルスは、感染した猫の分泌物を介して直接口や鼻につくことで感染します。またこのウイルスは生存力が強いため、飼い主様の衣服や靴に付着したり、感染猫と食器を共有したりといった間接接触でも感染します、

感染した猫が快復して症状が何も見られなくなった後も、数ヵ月程度はウイルスを排出し続けます。多頭飼育の場合は、快復後もしばらく他の猫からは隔離しておく必要があります。

・症状

この感染症も猫風邪の一種なので、発熱、元気消失、くしゃみ、鼻水、食欲不振、涙目など人間の風邪のような症状が現れます。

猫ウイルス性鼻気管炎とよく似た症状のため、一見しただけでは区別が難しいのですが、猫カリシウイルス感染症では、舌や口腔の上側に水疱や潰瘍ができるのが特徴的だといえます。

・治療

有効な治療法がないため、猫ウイルス性鼻気管炎の治療と同じように、対症療法により感染した猫の体のバランスを整え、二次感染を予防しながら猫の免疫力の回復をサポートすることが主となります。

 

<猫汎白血球減少症>

・感染経路

病原体となるのは猫パルボウイルスで、感染猫の糞便を経て口からの摂取で感染します。とても強いウイルスなので自然環境中で数ヵ月以上生存し、飼い主様の衣類や靴などに付いて無意識の内に家の中に持ち込んでしまうリスクの高いウイルスです。実際、高層マンションで室内飼育されている猫での発病報告もあります。

猫パルボウイルスは普通の洗剤やアルコールでは消毒できないため、もしも感染してしまった場合はその猫ちゃんの使用した布類や食器などはブリーチで消毒し、同居猫からは隔離しなければなりません。

・症状

感染して数日後に白血球が急激に減少し、発熱、元気消失、食欲低下、水様または血様状の下痢、嘔吐、脱水が現れます。重篤な場合は、死に至るケースもあります。

・治療

他の感染症と同様に、主となるのは対症療法で、下痢止め薬の投与、点滴による脱水対策、抗生物質の投与と環境の整備、栄養管理を行うことで、免疫力の回復をサポートします。

 

ノンコアワクチン

舐め合う猫

 

ノンコアワクチンで予防できる感染症を簡単にご紹介します。

 

<猫白血病ウイルス感染症(FeLV)>

・感染経路

病原体は猫白血病ウイルスで、名前の通りに白血病を引き起こします。感染猫の唾液中にウイルスが排出されるため、感染した猫とのグルーミングなどの直接接触により感染します。

・症状

免疫抑制の状態になるため、さまざまな症状が見られます。感染初期では発熱、リンパ節の腫れが見られ、ウイルスが体内から排出されます。この時点で免疫力が弱い子猫などの場合はウイルスが排出されずに持続感染になってしまいます。

持続感染になると、食欲不振、元気消失、体重減少、貧血、口内炎、下痢、嘔吐、流産、死産などの症状が出て、リンパ腫、免疫介在性溶血性貧血などを発症してしまい、余命が2〜4年程度になるのが一般的です。

・治療

根本的な治療法が確立されていないため、症状や併発した病気に対応した治療を行うことになります。また多頭飼育の場合は感染した猫を隔離し、同居猫に対する検査とワクチン接種を行う、食器やベッド、トイレなどを共用しない、生活環境を消毒するといった対策が必要です。このウイルスの消毒薬への抵抗力は低いので、アルコール消毒や塩素系漂白剤、洗剤、加熱処理といった消毒で効果を得られます。

 

<猫クラミジア感染症>

・感染経路

病原体のクラミジアは細菌の一種で、感染猫の目ヤニを直接接触することで感染します。クラミジアは、他の生物の細胞内でしか生きられないため、間接接触による感染はないと考えて良いでしょう。

・症状

この感染症もいわゆる猫風邪の一種です。そのため、鼻水やくしゃみといった風邪のような症状が見られますが、主な症状は結膜炎や鼻炎で、目ヤニ、結膜の腫れ、目が赤くなる、涙目といった症状が特徴です。進行とともに元気や食欲が消失してきて、重症化した場合は肺炎になることもあります。また、生まれて間もない子猫の場合は重度の結膜炎になり、眼球癒着といって結膜同士がくっついてしまうこともあります。

・治療

猫クラミジアには、テトラサイクリン系の抗生剤を投与して治療します。内服薬の他に、結膜炎治療として点眼薬や眼軟膏を使用する場合もあります。健康な成猫が猫クラミジア単独に感染した場合は、2〜3週間で快復することが多いですが、抗生剤の投与を中途半端に中断してしまうと再発しやすく、その際に薬が効かなくなってしまうため、薬を止めるタイミングはかかりつけの獣医師の指示に従ってください。

 

ポイント

伸びをする猫

 

ポイント

・伴侶動物ワクチン懇話会の調査では、代表的な猫の3つの感染症の発生率が、全国では96.5%、関東では95.1%、神奈川県では90.7%でした。

・猫の感染症発生率の高さは、ワクチン接種率の低さが原因だと考えられます。

・室内飼いであってもすべての猫に接種すべきであるとされているコアワクチンは3種類、猫の生活スタイル等に合わせての接種が推奨されるノンコアワクチンは2種類あります。

・猫ちゃんに関しても、お住いの地域やライフスタイルをお伝えいただくことで、動物病院が最適なワクチン接種計画をご提案いたします。

・猫ちゃんの感染症にも優良な治療薬がなく、対症療法と猫ちゃんの免疫力が快復のための鍵となるものが多いため、完全室内飼いの場合でも予防がとても大切です。

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