大型犬のがん検査はエコーよりCTがおすすめ

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犬に多いがん

具合の悪い犬

 

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

私達人間も含めて、動物の体は実に絶妙なバランスの上に成り立っています。動物の体は、数多くの細胞の集合体です。細胞は個々に生死を繰り返しながら、一個体としての一生を支えているのです。その細胞が、全体のバランスと無関係に勝手に増殖を繰り返すようになってしまった病的な状態が、腫瘍です。

 

犬の場合、腫瘍性疾患が病気全体に占める割合は50〜60%程度だという報告があります。そして、犬の死因の50%以上はがんが占めているともいわれています。

 

犬によく見られる血管肉腫という悪性腫瘍があります。血管の細胞にできますので体中のどこにでも発生する可能性があるのですが、その内の約80%が脾臓にできます。他にも肝臓や心臓、腎臓などにも発生し、病変部から出血することで失血死のリスクが高い腫瘍です。特に中高齢のジャーマン・シェパード・ドッグ、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバーといった大型犬に多いことも特徴の一つです。

 

犬は他者に自分の不調を隠そうとします。特に信頼している飼い主様の前では元気に振る舞い、さらに大型犬にとっての1年は人間の7年程に匹敵するため、飼い主様がワンちゃんの不調に気付いた時にはがんがかなり進行しているというケースも少なくありません。

 

今回は犬のがん検査について、体格の違いにも少し着目してお話しようと思います。

 

がんの発見から治療まで

お腹を触診される犬

 

まずは、がんの発見から治療を開始するまでの一般的な流れをまとめておきましょう。

 

<発見>

がんはできるだけ早期に見つけることが大切です。なぜなら成長スピードが速く、かつ一箇所に留まらずに体内の離れた場所にも広がっていってしまうからです。

多くは「体を撫でていたら皮膚や体内のしこりに気が付いた」「ワンちゃんの出血に気が付いた」といった飼い主様による発見と、「ワクチンなどの来院時の身体検査で見つかった」「定期的な健康診断で見つかった」といった病院での検査による発見になるでしょう。

 

<検査>

「しこりの発見=がん」という訳ではありません。発見したら、検査によりしこりができている正確な場所、腫瘍なのか、腫瘍なら元の細胞は何だったのか、どの程度進行しているのかといったことを調べます。検査については、次の項目でもう少し詳しくご説明します。

 

<診断>

最終的に確定診断を行うためには、病理検査が必要になります。病理検査とは、腫瘍の細胞を切除して検査機関に送り、専門医に細胞組織を診てもらって腫瘍の種類を特定してもらうという検査です。基本的には、病理検査を経て初めて腫瘍の種類(元の細胞が何か)、良性か悪性かといったことが確定できるのです。

 

<治療計画>

当院では、診断結果に基づいてワンちゃんに適した治療計画を複数立て、リスクも含めて飼い主様にご説明をいたします。そして飼い主様と話し合いながら、ワンちゃんや飼い主様にとって最もふさわしいと思われる治療方法を選ぶようにしております。

ワンちゃんの状態によっては確定診断のための細胞採取ができず、確定診断が行えない場合もあります。その場合も、最善と思われる治療計画案を飼い主様にご提示し、ご相談した上でより良い治療方法を選ぶようにしております。

 

<治療>

治療計画の段階で飼い主様と一緒に選んだ治療を開始した後も、適宜ワンちゃんの状態を検査しながら、投薬内容などの微調整、治療計画の見直し等を行いながら、治療していきます。

 

検査の大切さ

X線写真を見る獣医

 

ここからは腫瘍発見後の検査についてお話していきましょう。病気を治療するためには、病気に関するできるだけ多くの情報が必要です。ワンちゃんへの負担をできるだけ減らしながら、病気に対して有利に戦うための情報を得るために行うのが検査です。

 

だからこそ、腫瘍細胞の元がどこの細胞だったのか、現在の進行状況はどのくらいなのか、転移しているか否かなどを知ることが大切なのです。それらをより正確に知るためには、まず現在腫瘍ができている場所を特定することが大切です。場所を特定し、状態を把握することで、確定診断の可否も検討できるのです。

 

<画像検査>

腫瘍ができている場所やその大きさなどを明確にするために、ワンちゃんの体の中を確認するための検査が、画像検査です。X線や超音波、磁力などを利用して、体の中の状態を画像化することで確認します。画像検査の種類ごとの詳細は次項でご説明します。

確定診断のためには、実際の腫瘍組織を採取する必要があります。その際にワンちゃんに掛かる負担の大きさや、転移させてしまうリスクが高い場合には、腫瘍組織の採取を断念せざるを得ない場合もあります。そういったことを判断するためにも、順を踏んでしっかりとした検査を積み上げていくことになります。

 

<病理検査のための組織採取を兼ねた検査>

≫腹腔鏡検査

お腹の表面に1cm前後の小さな穴を開け、そこからカメラを入れてTVモニター上に映し出した映像を見ながらお腹の中の状態を調べる検査です。同じ穴から鉗子などを入れることで、ごく簡単な処置や手術を行うことができ、切除した組織を病理検査に回すことも可能です。

全身麻酔が必要なため、麻酔リスクの高いワンちゃんには行えない場合もあります。

 

≫開腹手術

腹腔鏡検査とは異なり、検査のために本格的な開腹手術を行う場合もあります。患部の状態を目視で確認すると供に、腫瘍をできるだけ摘出し、その組織を病理検査に回して最終的な確定診断を行うことに繋げます。

この検査も、ワンちゃんへの全身麻酔が必要です。

 

画像検査の特徴

CT装置と津田院長

 

<X線検査(レントゲン検査)>

X線を利用して、胸やお腹の中、骨などの外からでは見えない部分にある腫瘍を探します。X線が通過しやすい空気などの部分は黒く、通過しにくい骨の部分は白く写ります。通常、角度を変えて平面写真を2枚以上撮影します。基本的に麻酔は必要ありません。

 

<エコー検査(超音波検査)>

体の表面からお腹の中に超音波を照射して、超音波の反応を画像化することによってお腹の中の臓器や心臓の状態を確認します。骨に覆われている部分は観察できないため、脳や脊椎、また骨盤の中などの検査には向きませんが、動きに強く、特に心臓の検査や小型犬の内臓の検査には優れています。この検査も麻酔は必要ありません。

ただし、大型犬の場合は胸やお腹が深くて超音波が届きにくいため、画像が見えにくいという難点があります。そのため当院では、大型犬の場合はCT検査をおすすめしています。

 

<CT検査>

レントゲンと同じくX線を利用した画像検査です。体の周囲を360℃回転してスキャンしますので、一度に大量の画像データを撮影し、そのデータをコンピュータ処理によって立体像に再構築できることが大きな特徴です。

CT検査で腫瘍の発生場所を特定したり、実際に手術が必要になった場合の有力な設計図となったりします。また大型犬の胸やお腹の中もしっかりと撮影できるため、大型犬の腫瘍の検査には強力な武器になり得ます。

一度に大量の撮影を行うため、基本的には全身麻酔が必要な検査ですが、当院で導入しているCTは80列160スライスの画像を1回転0.5秒でスキャンできるため、無麻酔での撮影が可能です。低被ばく撮影ができるため、ワンちゃんへの負担も軽くてすみます。

 

<MRI検査>

磁力を利用しているため、X線が通過しづらい骨に囲まれている脳や脊椎などの神経系の検査に適しています。ただし、全身麻酔が必要になるため、麻酔リスクの高いワンちゃんには、実施できない場合もあります。

また、現在国内でMRI検査ができる動物病院はごく限られていますので、当院のCT検査だけでは不十分だという場合は、別途MRI検査のできる動物病院をご紹介しています。

 

ポイント

大型犬と小型犬

 

ポイント

・犬の場合、腫瘍性疾患が病気全体に占める割合は50〜60%程度です。

・犬の死因の50%以上はがんが占めています。

・腫瘍性疾患は早期発見・早期治療が大切です。

・しこりを発見したら、検査により腫瘍性疾患かどうかの検査を行います。

・大型犬には、エコー検査よりもCT検査をおすすめします。

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