老化による後ろ足の弱体化対策

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目指せ!歩ける高齢犬猫

散歩する老犬

 

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

最近、ご高齢者向けの「歩く」ことをサポートするためのサプリメントのCMをよく目にします。「老化は足から」という言葉もよく聞かれ、実際に何もない所でつまずいたり、階段を降りる時に不安を感じたりして「年をとったなぁ」と実感されている方も多いのではないでしょうか。

 

私たちと一緒に暮らしているワンちゃんや猫ちゃんも、加齢によって筋力が低下し、特に後ろ足が弱くなってきます。でも、ちょっと不思議ではありませんか。ワンちゃんや猫ちゃんは四足歩行といって、前足と後ろ足の4本の足で歩きます。なのに、なぜ後ろ足が弱くなっていくのでしょうか。

 

基本的に、私たち人間は直立二足歩行をすることで、前足を歩くことに使うのをやめました。高等なサルは二足歩行することもできますが、ナックルウォークと呼ばれる握りこぶしを地面につける四足歩行が中心です。そしてワンちゃんや猫ちゃんたちは、完全に四足歩行で移動します。

 

直立二足歩行の人間は全体重を足で支えています。ナックルウォークのサルは、前半身(人間の上半身に相当)を後半身よりも高くする姿勢をとるため、前足で約40%、後ろ足で約60%の体重を支えています。そして四足歩行の動物は、重い頭部を支えるため、前足で約60〜70%、後ろ足で約30〜40%の体重を支えています。

 

四足歩行の場合、体を上に持ち上げるという重要な役割は前足が担い、後ろ足は進むための勢いをつけます。そのため、ワンちゃんや猫ちゃんたちが歩く時の意識のほとんどは、前足に向いていると考えられています。意識があまり向かない後ろ足の筋肉は固くなりがちで、加齢による筋力の低下に伴い思ったように上がらなくなって、つまずいたりよろけたりしやすいのだと考えられています。

 

そうは言っても、「犬や猫も年を取ると筋力が低下して、後ろ足が弱くなるのは仕方がないのか…」と諦めないでください。そのまま放置していたら、筋力の低下はどんどん進み、やがて寝たきりの生活につながってしまうからです。寝たきりの生活は、ワンちゃんや猫ちゃんにとってもつらいですし、介護をされる飼い主様にとってもつらいことです。年を取っても、できるだけ長く元気に歩けるワンちゃんや猫ちゃんを目指しましょう。

 

勝手な思い込みは危険

あまり動かなくなった猫

 

老化による筋力の弱体化を放置するなというお話しをしましたが、「老化現象なので運動をさせて筋力をつけさせよう」という思い込みだけで行動してしまうのは危険です。なぜなら、ワンちゃん・猫ちゃんの後ろ足に症状が現れる病気はたくさんあるからです。

 

ここでは簡単に、ワンちゃんや猫ちゃんの後ろ足に症状が現れる主な病気をご紹介します。

 

<ケガ>

ワンちゃんも猫ちゃんも、全身を豊かな被毛に覆われています。しかし、肉球は直接皮膚が地面に触れるため、ケガの他、皮膚炎、やけど、凍傷などになりやすい部位です。伸びすぎた爪が刺さってケガをするというケースもあります。

また転倒や落下、交通事故などが原因で、骨折することもあります。特に高齢で筋力が低下した猫ちゃんは、高所に上がったものの上手く降りられずに骨折することも考えられます。

 

<骨格系の病気>

膝蓋骨脱臼という膝のお皿の骨(膝蓋骨)があるべき場所からずれてしまう病気があります。ワンちゃんによく見られる病気ですが、猫ちゃんがかかることもあります。軽症の場合は自然に骨の位置が戻ることもありますが、進行すると痛みが出て足を引きずるようになります。

また老化により、関節の軟骨がすり減って痛みが生じる変形性関節症や、背骨同士がくっついて可動域が狭くなる変形性脊椎症など、歩き方に変化をきたす、痛みで活動性が低下する、後ろ足の麻痺でふらつくといった症状が現れます。

 

<脳・神経系の病気>

脳腫瘍、脳炎などの脳の病気は、発症した部位とその程度により現れる症状や進行の速さが異なりますが、歩行時の足の上げ方がおかしい、ふらつく、けいれん発作を起こす等の症状が現れます。場合によっては急激に症状が悪化して命を落とすケースもあり得ます。

脊椎や脊髄などの病気で神経系に異常が生じた場合も、後ろ足に力が入らなくなったりよろけたりという症状がみられます。椎間板ヘルニアや馬尾症候群、環椎・軸椎不安定症、ウォブラー症候群といった病気がよく知られています。

 

このように、後ろ足にふらつきなどの症状が現れ、「老化による筋力の低下かな?」と思わせるような病気はたくさんあります。シニア期に入ったワンちゃんや猫ちゃんの後ろ足にふらつきや震え、歩き方の変化や姿勢の変化などを見て、「老化現象なので筋肉をつけよう!」と勝手に運動させてしまうと、病気を見逃し、悪化させてしまうかもしれません。

 

若い頃からの生活が大切

砂浜を散歩する犬

 

若い頃から体重管理をしっかりと行い、毎日適切な運動をさせることがとても大切です。ワンちゃんであれば、たとえ小型犬でもできるだけ毎日お散歩に連れて行きましょう。足腰の筋力維持や、さまざまな刺激による脳の活性化などに、とても有効な手段です。

 

猫ちゃんの場合は、1回に15分程度でも良いので、おもちゃを使った狩りごっこをして遊んであげてください。できれば食事の前に行うと、狩りに成功した満足感と共に食事をできるでしょう。さらに、棚の上を開放したりキャットタワーを設置したりして、空間を立体的に使えるようにさせましょう。安心感を得られると共に、筋力維持にもつながります。

 

ワンちゃんや猫ちゃんの姿勢にも着目してください。これもまたTVCMのお話になってしまいますが、「ぽっこりお腹は姿勢が悪いせい」として、骨盤を立てて胸を張った正しい姿勢をサポートする下着や運動器具の宣伝を見かけたことはないでしょうか。

 

同じように、前足で体重の6割以上を支えているワンちゃんや猫ちゃんは、どうしても意識が前足の方に向いてしまいがちなため、後ろ足に意識が行かずに横から見ると前のめりな姿勢になってしまう場合があります。この姿勢の崩れが、股関節や後ろ足に不具合を生じさせやすい状況を作り出してしまうのです。

 

ワンちゃんや猫ちゃんが立っている時の姿勢を真上、側面、後方、正面からチェックしましょう。「傾いてきた」「後ろ足がくの字ではなく棒のように真っ直ぐになってきた」「お尻の位置が下がってきた」などの変化が、足腰の筋肉が衰えてきているサインです。写真に撮影しておくと、よりわかりやすいでしょう。

 

ワンちゃんの場合は、お散歩コースを工夫することで後ろ足の筋力を鍛えることができます。例えば砂浜や芝生、土手などの、足が埋もれたりクッション性が高かったりする地面を歩かせることで、足をしっかりと踏ん張って歩ける後ろ足の筋力づくりに役立ちます。また木の根っこがボコボコと地面に出ているところをまたぎながら歩かせることで、股関節周りの筋肉の強化につながります。室内でも、クッションを並べてその上を歩かせるといった工夫でトレーニングできます。

 

シニア期に必要なサポート

トイレに入る猫

 

人間のご高齢者の介護で難しいのは、プライドを傷つけずに介助することではないでしょうか。実はワンちゃんや猫ちゃんも同じです。飼い主様が何でもかんでも手伝ってしまうと、ワンちゃんや猫ちゃんはどんどん自信をなくし、やる気を失ってしまいます。

 

シニア期に入ったワンちゃんや猫ちゃんに老化の兆候が見られ始めたら、できるだけ今までできたことは自力でやり続けられるようなサポートをしてあげましょう。自力でトイレに行けるように、トイレや食事場所、寝床などを近づけて生活範囲をコンパクトに纏めるようにするのも良いでしょう。

 

ワンちゃんの場合は、毎日のお散歩も続けてください。歩くのが難しくなった場合は、カートに乗せて外に連れ出し、公園などで少し歩かせるといった程度でも構いません。歩くという運動だけではなく、外に出ることで音、空気、ニオイなどさまざまな刺激を得られることも、とても大切なのです。

 

猫ちゃんの場合は、ジャンプをして高いところに上れなくなってきます。ある程度の筋力が残っている場合は、ステップを設置するなどの方法で、上り下りのサポート環境を整え、落下しないように注意してあげましょう。

 

トイレに行くのが間に合わず粗相することが増えた場合も、すぐに「おむつ」に頼らないであげてください。まだ自分で歩いてトイレに行こうとする気力が残っている間は、トイレの周囲の床の広い範囲に防水シートとトイレシーツを重ねて広げ、出来る限りトイレで排泄させてあげることが望ましいです。猫ちゃんのトイレは深さがあるため、できるだけまたぎやすいトイレを選び、かつ入りやすいようなステップの設置なども工夫してあげましょう。

 

ポイント

寛ぐ犬と猫

 

ポイント

・四足歩行の動物は前足で体重の60〜70%、後ろ足で30〜40%を支えているため、意識が前足に行きがちになり、後ろ足が弱くなりやすい傾向があります。

・シニア期に入った犬や猫の後ろ足が弱くなってきたと感じたら、まずは動物病院で検査をし、その原因を見極めましょう。

・後ろ足の筋力を維持させるために、犬は毎日の散歩、猫はおもちゃを使った狩りごっこといった適切な運動を、若い頃から習慣づけましょう。

・砂浜や芝生、土手、木の根っこが露出しているような場所や並べたクッションの上などを歩かせることで、後ろ足の筋力を維持させることができます。

・シニア期の犬や猫の後ろ足に弱体化の兆候が見られたら、すぐに何でも手助けしてしまわず、今まで通り自力で行えるような介助法や環境の整備を工夫してあげましょう。

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