室内犬の健康を維持する運動不足やストレスの解消方法教えます
犬の本能を満たす意義
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
どんな動物にも、本能が備わっています。本能とは、生まれつき備わっている行動様式なので、理屈で考える前に自然と体が動いてしまったり、やらずにはいられない欲求になったりするものです。この本能のおかげで、動物は生き延び、子孫を残すことができるのです。
私たちと一緒に暮らしているワンちゃんにも、祖先から受け継いだ本能が備わっています。中でも狩猟本能と運動本能は、ワンちゃんにとってとても大きな意味を持つ本能だと考えられています。
昭和の終わりから平成初期にかけての日本では、ワンちゃんはまだ外飼いが一般的でした。犬小屋はあっても過酷な自然環境に晒されるため、安全性や快適性はあまり良くなかったでしょうが、自然や地域で暮らす人々、動物たちなどからのたくさんの刺激を受けることであまり退屈せず、また庭で自由に遊ぶこともできるなど、その頃は狩猟本能や運動本能を自然と満たすことができていたように思います。
しかしその後、日本でも犬の室内飼育が一般的になりました。外に出るのは散歩の時くらいで、1日のほとんどを家の中で過ごすようになったワンちゃんは、刺激が少なく退屈しがちな、また場合によっては運動不足になりがちな暮らしになってきているのかもしれません。
完全室内飼いのワンちゃんにも、狩猟本能や運動本能を満たし、ストレスを溜め込んだり運動不足になったりせずに暮らせることが大切です。そのために、飼い主様が工夫できるストレスの解消方法についてお話しします。
代表的なストレスのサイン
ワンちゃんは、言いたいことがあっても言葉でそれを飼い主様に訴えることはできません。その代わりに、カーミングシグナルと呼ばれる仕草や行動で、飼い主様にストレスが溜まっていることを知らせてくれます。まず飼い主様は、このカーミングシグナルを察知できるようになりましょう。
<犬の代表的なストレスのサイン>
・1日の多くを、前足やお腹などの毛繕いに費やしている
・落ち着きがなくなり、室内をウロウロしたりソワソワしたりする
・ちょっとしたことで、唸ったり攻撃的になったりする
・家具、床、椅子の脚など同じ場所をしきりに舐める
・食欲が低下または増加する
・頻繁に吠える、または吠えなくなる
・人目を避けて静かに過ごすことが増える
・特定の状況になると、緊張したり震えたりする
ワンちゃんに上記のような行動が見られるようになった場合は、狩猟本能や運動本能が満たされずにストレスが溜まっている可能性が高いので、注意するようにしてあげましょう。次章から、ワンちゃんのストレスを解消する方法や注意事項についてお話ししていきます。
散歩を充実させる
散歩は、もしかすると飼い主様が考えている以上にワンちゃんにとって大切なものかもしれません。なぜなら、散歩をすると運動本能を満たせるだけではなく、さまざまな刺激を受けることで感覚器官や脳が活性化され、やる気に満ちた気持ちになれるからです。
○適切な運動量の確保
まずは、ワンちゃんに必要な運動量が確保できるような散歩を実現してあげましょう。小型犬やシニア犬は1日15〜30分、中型犬は1日30分〜1時間、大型犬や活動量の多い犬種は1日1時間以上といった目安がありますが、必要な運動量は体格や犬種だけではなく健康状態や性格などにもよります。ワンちゃんの様子をよく観察しながら、適量を見極めてあげるようにすると良いでしょう。
散歩から帰った後すぐに遊びたがる場合は、運動量が足りません。散歩時間の延長や、起伏の激しい散歩コースへの変更などを検討してみましょう。散歩の途中で動けなくなるようなら、前述の目安時間より短くても、少し軽い内容に変えたほうが良いかもしれません。散歩から帰宅するとしばらくウトウトするくらいが適量です。
○バラエティに富んだ散歩コース
また散歩のコースも、時々変えることをおすすめします。散歩では、ワンちゃんは家の中では経験できないような音を聞き、ニオイを嗅ぎ、風を受け、動物や人や自動車などに接します。舗装道路や芝生、土の上など、足の触感も家の中とは全く異なります。こういった多様な刺激が、ワンちゃんの五感や脳を活性化させます。これは、生き生きとした気持ちにつながる大切なことです。
1つの散歩コースにあらゆる刺激を盛り込むのは、無理でしょう。ご近所の環境をよく見た上で、異なる刺激を受けられるような散歩コースや時間帯をいくつか見つけておき、時々コースや時間帯を変えることで、ワンちゃんにたくさんの刺激を体験させてあげましょう。
遊びを充実させる
ワンちゃんのストレスを解消する方法は、散歩だけではありません。室内や屋外でできるさまざまな遊びを充実させることも、有益なストレス解消方法になります。
○室内でできる飼い主様との遊び
いくら大切な散歩でも、嵐や吹雪の中を無理に散歩することは、危険なのでおすすめできません。室内でできるゲームで体を動かしたり、普段使わないような頭の使わせ方をさせたりすることで、ワンちゃんのストレスを解消させてあげましょう。
≫引っ張りっこ
丈夫で長さのあるロープ状のおもちゃを使い、片方を飼い主様が掴み、もう片方をワンちゃんに咥えさせてお互いに引っ張り合いっこをする遊びです。
遊びながら、「放せ」等の指示で咥えているものを放すようにしつけると、誤飲防止やおもちゃ遊びの上手な終わらせ方ができるようになるので、一石二鳥です。
≫トリックトレーニング
トリックとは、飼い主様の指示に合わせて芸を行うことです。「お手」や「ハイタッチ」、「回れ」などを上手に教えてあげれば、夢中で覚えてくれるでしょう。
ただし、教えるのは簡単ではありませんし、繰り返し練習をしなければ忘れてしまいます。飼い主様とワンちゃんが時間をかけて何度も練習することで、お互いの関係を深めることにも繋がります。
≫宝探しゲーム
おやつや、好きなニオイをつけた布・おもちゃなどを隠して、ニオイで見つけさせるゲームです。ルールを覚えるまでは少し時間がかかると思いますが、最初は見つけやすい場所に隠し、「探せ」という指示を出して上手に探すよう誘導しましょう。何度も繰り返せばルールも覚えられ、大好きな遊びになることでしょう。
犬にとって嗅覚はとても重要な感覚器官で、ニオイで獲物を見つける遊びは狩猟本能を満たすことにも繋がります。少しずつ難易度を上げていくことで、飽きることなく長期にわたり夢中になって遊べるゲームです。
○休日を利用した屋外での遊び
休日を利用し、ドッグランや犬用プールなどの施設で、いつもとは異なる運動や遊びを楽しませることができます。飼い主様と一緒にドッグスポーツやドッグダンスに挑戦するのも良いでしょう。新しいことを覚えるのは、犬にとっても楽しいことです。ワンちゃんの性格に合う楽しい遊び方を見つけて、一緒にどんどんチャレンジしていきましょう。
ストレス解消の注意事項
散歩や遊びを工夫して充実させることは、ワンちゃんのストレス解消にとても役立ちます。しかし同時に、ワンちゃんの暮らす環境を整えることも大切です。飼い主様にとっては普通の明るさや音の大きさ、良い匂いなどが、ワンちゃんにとってはストレスになることも多いです。リビングでよく使われているフローリングは、ワンちゃんには滑りやすいため、足腰を痛める原因になりやすいです。
こういったことにも配慮して、飼い主様にもワンちゃんにも、暮らしやすくて安全な、落ち着いて過ごせる環境にしてあげることも忘れないであげましょう。
ポイント
・本能的な欲求を満たせないと、犬はストレスを溜めてしまいます
・特に狩猟本能と運動本能は、犬にとって大きな欲求になります
・愛犬の健康維持のために、日頃からストレス解消を意識してあげましょう
・ストレス解消方法
-散歩で愛犬に適した運動量を確保する
-バラエティに富んだ散歩でたくさんの刺激を与える
-引っ張りっこ、トリックトレーニング、宝探しなど室内ゲームを行う
-休日を利用してドッグラン、プール、ドッグスポーツなどを楽しむ
-愛犬が安全・安心に暮らせる環境を整える