内視鏡検査で分かる犬や猫の消化器疾患|症状から検査方法まで獣医師が解説
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
愛犬や愛猫に、いつもと違う食欲や排便の様子が見られると、「消化器の病気かもしれない」と不安になる飼い主様も多いかと思います。嘔吐や下痢、食欲不振といった症状は、日々の診療でもよく相談を受ける内容です。ただし、これらの症状の原因はさまざまで、見た目だけでは判断できないケースも少なくありません。
こうしたときに有効なのが、内視鏡検査です。人と同様に、犬や猫でも内視鏡を用いて消化管の中を直接観察することで、より正確な診断につながります。体への負担が少なく、粘膜の変化まで確認できるため、消化器疾患の診療において非常に有用な検査です。
今回は、内視鏡検査の流れや適応となる症状、診断できる疾患などについて、飼い主様にもわかりやすくご紹介します。
内視鏡検査とは?特徴と検査の流れ
内視鏡検査とは、いわゆる胃カメラです。犬や猫には主に以下の2種類があります。
〈上部消化管内視鏡検査〉
口から挿入し、食道・胃・十二指腸を観察します。誤食があった場合や、嘔吐や食欲不振、黒色便が見られる子に対して実施されます。
〈下部消化管内視鏡検査〉
肛門から挿入し、大腸や直腸を観察します。血便や粘液便、慢性的な下痢がある場合に適用されます。
検査には全身麻酔が必要です。これは、犬や猫が動いたり緊張したりすると正確な検査ができないため、安全を確認したうえで麻酔を行います。
つだ動物病院では、「電子内視鏡システム」を導入しています。動物の大きさや検査部位に応じて、太さ3.3mm、5.4mm、9.2mmの3本のスコープを使い分けており、体格の小さな犬や猫にも対応可能です。最も細い3.3mmスコープは、膀胱や鼻腔、気管支といった狭い部位の観察にも活用できます。必要に応じて粘膜の一部を採取し、病理検査(生検)を行うことで診断の精度を高めています。
内視鏡検査でわかる主な消化器疾患
内視鏡検査によって、以下のような消化器疾患の診断が可能になります。
・胃炎・胃潰瘍
慢性的な嘔吐や吐血、食後の不快感などの症状がある場合、胃粘膜に炎症や潰瘍があることがあります。内視鏡で赤みやびらん、潰瘍を直接確認できます。
・十二指腸炎
十二指腸の炎症は、食欲不振や体重減少の原因になることもあります。通常の画像検査では見逃されやすい部位ですが、内視鏡で詳細に観察可能です。
・大腸炎・直腸ポリープ
血便や便の形状異常がある場合に疑われます。病変を確認しながら、必要に応じて切除や生検を行います。
・炎症性腸疾患(IBD)
慢性的な下痢や嘔吐が続く場合に考えられます。内視鏡で腸粘膜を観察し、組織を採取することで確定診断につながります。
・消化器腫瘍(胃がん・大腸がんなど)
腫瘍の形や広がりを視認でき、生検によって良性か悪性かの判定も可能です。消化器腫瘍は早期に見つけることで、治療の選択肢が広がり、予後の改善が期待できます。
こうした疾患は、放置すると進行し、命に関わることもあります。早期発見・早期治療が何より大切です。「少し気になる症状がある」そんな段階での受診が、健康を守る第一歩になります。
内視鏡検査が特に有効なケース
以下のような症例では、内視鏡検査が特に有効です。
・長引く嘔吐や下痢があるとき
数週間以上続く場合は、単なる胃腸炎ではなく炎症性腸疾患や腫瘍が関係している可能性があります。
・レントゲンや超音波検査で原因がわからないとき
粘膜の細かな病変や軽度の炎症などは、内視鏡でなければ発見できない場合があります。
・異物の誤飲が疑われるとき
布や紐、竹串などの誤食は腸閉塞の原因になることがあります。内視鏡で発見・除去できれば、開腹手術を回避できることもあります。
・原因不明の慢性症状が続くとき
「何度も通院しているのに治らない」「検査してもはっきりしない」といった場合でも、内視鏡で診断がつくケースがあります。確かな診断がつくだけでも、飼い主様の安心感につながります。
検査前後に知っておきたいこと
内視鏡検査を受ける際には、事前に準備していただくことや、検査後の過ごし方に関していくつかの注意点があります。スムーズで安全な検査のために、以下の内容をあらかじめご確認ください。
・検査前の絶食・絶水
内視鏡検査では、胃腸内を空にしておく必要があります。前日の夜から食事を控え、当日朝からは水も制限します。
・検査時間と麻酔からの回復
検査自体は30〜60分程度、麻酔からの回復を含め全体で2〜3時間程度です。問題がなければ当日中、もしくは1日入院でご帰宅いただけます。
・検査後の注意点
検査後はしばらく安静が必要です。当日は激しい運動を避け、指示があるまでは食事を控えてください。また、麻酔の影響で一時的にふらつきや眠気、嘔吐などが残ることがありますが、通常は数時間で回復します。
・検査結果の説明
検査で確認できた病変については、写真をお見せしながら丁寧にご説明します。病理検査が必要な場合は、数日後に結果をご報告し、治療方針を一緒に決めていきます。
まとめ
・内視鏡検査は、胃腸の粘膜を直接観察できる精密な診断方法です
・胃炎や腫瘍だけでなく、異物誤食の除去といった治療にも活用されます
・レントゲンや超音波では判断が難しい慢性的な嘔吐・下痢の原因特定に有効です
・全身麻酔が必要ですが、動物への身体的負担は比較的少なく済みます
・消化器症状が続く場合は、早めにご相談いただくことで予後の改善につながります
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