猫の尿路結石

犬猫の病気や症状

 

猫に多い泌尿器系の病気:尿路結石

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

猫と一緒に暮らしている方であれば、尿路結石という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

尿路結石は、慢性腎不全と並んで猫に多い泌尿器系の病気です。

今回は、猫の尿路結石(尿石症)についてお伝えしたいと思います。

 

尿路結石の概要

トイレの前に座る猫

 

尿路結石とは、名前の通り尿路に結石ができる病気です。尿路とは尿が作られて排出されるまでの、尿の通り道のことです。

泌尿器系の臓器としてみなさんがご存知なのは、腎臓と膀胱だと思います。

腎臓は腰のあたりで、背中側に左右一つずつあり、ここで尿を作ります。

そして、猫が排尿するまでの間尿を溜めておくのが膀胱です。

 

しかし、尿路はそれだけではありません。腎臓で作られた尿を膀胱まで運ぶ尿管と、膀胱から尿を排泄させる尿道があるのです。

また、腎臓と尿管を合わせて上部尿路、膀胱と尿道を合わせて下部尿路とも言います。

 

これらの器官にできた結石を、それぞれ腎結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石と言い、これらを総称したものが尿路結石なのです。

つまり、「尿路結石」と言っても4つの病気を指していますので、愛猫のどこに結石ができているのかによって、症状や治療方法が異なるということを覚えておいてください。

 

では、なぜ結石ができるのでしょうか。

実は、結石ができる原因も複数あるのです。

食餌の中のミネラル成分や体内の水分バランスが崩れたことにより、尿の濃度やpH、イオン濃度などが変動し、塩類の沈殿が生じます。

そして、尿路感染症などによって剥離した粘膜上皮などを核として、結石が形成されていくのです。

 

尿路結石の症状と治療

具合の悪そうな猫

 

では、それぞれの症状や治療法などを見ていきましょう。

 

【腎結石】

腎臓は2つありますので、片方の腎臓にだけ結石ができる場合と、両方にできる場合があります。

いずれにしても、腎結石の場合はあまり顕著な症状が出ないため、気付きづらいというのが特徴です。

X線検査や超音波検査で発見できるので、健康診断で偶然発見されるということが多いようです。

治療として手術による結石の摘出も可能ですが、腎臓の切開は猫の体に与えるダメージが大きいため手術を回避する場合が多く、食餌内容を見直す事で再発防止のための予防措置に力点をおきます。

 

【尿管結石】

腎臓と膀胱をつないでいるのが尿管で、腎臓が2つありますので、尿管も2本あります。

尿管は直径1mm程度のとても細い管なので、ここに結石が詰まると尿路が閉塞してしまい、腎臓に尿が溜まってしまいます。

これが進行すると、水腎症という病気になります。

尿管結石が片方だけの場合はあまり症状が出ないことが多いのですが、両方に尿管結石ができた場合で、しかも尿管が完全に閉塞してしまった場合は、急激に体調が悪化します。

元気や食欲がなくなり、次第に虚脱、昏睡、全身のけいれんへと症状が進行していき、最終的には死に至りますので早期に動物病院に連れてきてください。

画像検査が必要ですが、X線検査や超音波検査だけではなく、CT検査をしないとみつけづらい場合が多いです。

内科療法としては、尿道を動かす薬の投与や輸液を行なって尿量を増やします。

外科療法としては、最近では尿管にステントを挿入する術式の他、SUBシステムといって、腎臓と膀胱を人工のチューブで繋ぐことで人工の尿路を確保するという術式も増えてきており、当院でも症状に応じてステント、SUBシステムの両方を行っています。

なお、SUBシステムは、術後も定期的な洗浄が必要です。

 

【膀胱結石】

膀胱に結石ができると、結石が膀胱の粘膜を損傷させるため、膀胱炎を引き起こします。

膀胱炎になると、頻尿や血尿、排尿痛、トイレ以外の場所に排尿するといった症状が出ます。

そのため、飼い主様が気付きやすいのが特徴です。

膀胱炎の場合、残尿感があるため膀胱は空になっていてもトイレに入るため、膀胱内には尿がほとんど溜まっていないのも特徴です。

膀胱結石は、X線検査と超音波検査を組み合わせて診断します。

治療法は食事療法と外科療法の2つになります。

結石の成分がストルバイト(リン酸マグネシウムアンモニウム)で砂状の場合は、食事療法で結石を溶解させます。

しかし、シュウ酸カルシウムの場合は食事で溶解させることができませんし、ストルバイトの場合でも結石の状態になってしまうと溶解するまでに数ヶ月も要しますので、手術で摘出することになります。

つまり、フードや薬で治療できる場合もあれば、フードや薬での治療だと時間がかかりなかなか解決しないため手術をおすすめする場合もあるということです。

治療方針については、飼い主様が納得されるまで獣医師に説明してもらってください。

理解できないことや心配されていることを積極的に質問してくださると、獣医師は飼い主様が何について心配されているのかが分かるため、積極的な質問は大歓迎です。

 

【尿道結石】

尿道には性差があります。メスの尿道は比較的太くて真っ直ぐで短いのですが、雄の尿道は細くてカーブしているので長いです。

そのため、特に雄の場合は結石が尿道に詰まってしまい、尿道閉塞を起こしやすいという特徴があります。

尿道結石の場合の一般的な症状は、トイレに行くけれどもおしっこが出ないというものになります。

尿道結石の症状として、頻尿、血尿、排尿痛、トイレ以外の場所で排尿してしまうということもありますが、尿道結石の方が膀胱結石(膀胱炎)よりも緊急度が高くなります。

膀胱結石の場合とは異なり、尿道結石の場合は膀胱に尿が溜まってパンパンになっているからです。

なお、尿道結石の診断にも画像検査が必要です。

尿道結石の場合は迅速な治療が必要なので、尿道フラッシュといってカテーテルを尿道口から入れ、カテーテルの反対側から生理食塩水を勢いよく流し入れて、尿道の結石を膀胱に押し戻し、尿道閉塞の状態を解除します。

また何度も繰り返す子には、尿道の先を切断し、会陰部に付け替えることで尿道口を太く、そして尿道を短くする尿路会陰造瘻術という手術を行います。

 

結石の成分

治療を受ける猫

 

ここで、結石の成分の違いについて少し説明しましょう。

前述のストルバイトとシュウ酸カルシウムの他に、尿酸塩という成分もあります。

だいたいシュウ酸カルシウムが42%、ストルバイトが41%、乳酸塩が5%で、残りの12%がその他の成分という発生比率になります。

 

以前は、ストルバイトが圧倒的に多かったのですが、キャットフードメーカーがストルバイト対策を施したため最近は減少傾向になり、逆に増えてきているのがシュウ酸カルシウムです。

 

ストルバイトは一度結石として形成された後も、溶解するというのが特徴です。

そのため、砂状の場合は食事療法で溶解させられます。

しかし、ある程度の大きさになると溶解するまでに長い期間が必要となり、その間のダメージを考慮すると、手術を選択する場合も多いです。

また、ストルバイトは5歳未満の比較的若い猫に多く、また雄よりも雌の方が発症しやすい傾向にあります。

そして、肥満や室内飼いで水を飲む量が少ない場合や、マグネシウムの多い食餌で発症しやすいという傾向もあります。

 

シュウ酸カルシウムは、近年獣医師の間でも問題視されていて、一度結石になると溶解しないというのが特徴です。

そのため、治療として必ず手術による摘出が必要になります。

また、7歳以上の猫に多く、雌よりも雄の方が発症しやすい傾向にあります。

肥満や室内飼いで水を飲む量が少ない場合に発症しやすいのはストルバイトと同じですが、食餌成分としては、高ナトリウム、高カルシウム、高シュウ酸の場合に発症しやすい傾向にあります。

さらに、ペルシャ、ヒマラヤン、バーミーズに好発の傾向があるようです。

 

尿酸塩は、前述の2つに比べて非常に発生率が低いですが、尿酸塩結石がある場合は基礎疾患のあることが多いので、注意が必要な結石だと言えます。

高齢の猫に多く、水を飲む量が少ない猫に多いのは、前述の2つと同じです。

食餌の成分としては、高プリン体(高タンパク)の場合に多く発症する傾向があります。

 

尿路結石の予防

食事をする猫

 

今まで説明してきた通り、尿路結石にはさまざまな原因がありますので、「これだけやっていれば大丈夫」というような予防策はありません。

しかし、愛猫がいつでも新鮮なお水を好きなだけ飲めるようにしておくことと、食餌内容を見直すということはおすすめできる予防策です。

 

お水をたくさん飲んでもらえば、尿の量が増えます。

尿の量が増えれば尿中の結石成分の濃度が下がりますので、結石の形成を防げるからです。

 

また、食餌内容の見直しについては、下記に注意してみてください。

1. キャットフードを与えている場合、「一般食」だけを与えてはいませんか

猫缶の多くは「一般食」つまり、人間のメニューで言うとおかずにあたるものです。

必ず「総合栄養食」をメインに与えるようにすることで、猫に必要な栄養をバランス良く与えることができます。

 

2. ミネラル成分の多いおやつをたくさん与えていませんか

猫は煮干しが好きというイメージがあり、実際に煮干しを好んで食べる猫も多いですが、このようにミネラル成分の多いおやつを少量に抑えることで、結石の形成を抑制する効果があります。

 

飲水量を増やす工夫や食餌内容の見直しは、今すぐにでもできる対策です。

猫の飼い主様は、ぜひ一度ご検討されることをおすすめします。

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