ペットの幸せってなんだろう

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野生には戻れない伴侶動物

仲良しな犬と猫

 

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

犬は1〜3万年前から、猫は9,500〜1万年前から人間と一緒に暮らしてきたといわれており、その長い年月を通して人の手による選択的交配が繰り返され、人と一緒に暮らすことを前提とした動物へと生まれ変わりました。

 

それだけではありません。少し前までは一方的に愛情を注ぐ「愛玩」の対象であるペット(愛玩動物)だったワンちゃんや猫ちゃんたちは、今では「家族の一員」である伴侶動物へと、家庭内での位置付けも変わってきました。

 

と同時に、人間と関わりを持つ全ての動物たちを飼養する方への義務基準として提唱されている動物福祉(アニマルウェルフェア)の考え方や、そこからさらに発展したワンウェルフェア(社会福祉と動物福祉の連携)といった考え方も、日本の中に少しずつ浸透してきています。

 

そこで、今回は動物福祉の考え方を中心に、もはや野生に戻ることはできなくなってしまったワンちゃんや猫ちゃんたちの幸せについて考えてみたいと思います。

 

動物愛護と動物福祉の違い

猫をかわいがる女性

 

「動物愛護」は、皆さんご存知の言葉だと思います。「動物の愛護及び管理に関する法律」や「動物愛護週間」など、国が定めた法律や啓蒙活動の名称にも使われている言葉なので、身近なのではないでしょうか。また、愛護とは「かわいがる」という意味なので、「動物をかわいがる」という言葉に違和感を覚える方は少ないでしょう。

 

しかし「動物福祉(アニマルウェルフェア)」という言葉は、まだあまり馴染みがないという方が多いかもしれません。この言葉は1960年代にできた言葉で、英国で家畜を物のように扱うことを批判した「アニマル・マシーン」という書籍から生まれ、欧州で広く知られるようになった言葉です。つまり、もともとは家畜に対する考え方だったのです。

 

しかし今では、人間が関わっているすべての動物に対して広く求められる世界標準の考え方として、世界中に広まりました。家畜はもちろん、実験動物、動物園で飼育されている展示動物、ご家庭で暮らしているペットたちの全てに対して、「動物福祉」が求められているのです。

 

では、動物愛護と動物福祉の違いは何でしょうか?それは、客観的な視点の有無です。動物愛護の場合は、人間の感情がメインでした。「かわいがる」という観点がメインでしたので、それは当然のことかもしれません。しかし、動物福祉は客観的に評価できることが求められており、大切なのは「動物」です。つまり、どんなに基準を守っていたとしても、実際の動物が客観的に望ましい(幸せである)と評価できる状態でなければ、それは良い状態ではないと判断されるということです。

 

たしかに人間側の感情だけを重視してしまうと、思い込みが勝ってしまって実際に動物が幸せな状態なのかどうかを見誤ってしまうかもしれません。そのためには、客観的に評価できる指標も必要なのだという考え方には納得がいきます。

 

では、具体的に動物福祉の基本として提唱されている「5つの自由」について見ていきましょう。

 

5つの自由

シェルターの犬

 

動物は「物」ではなく、人間と同じように命があり、感情も感覚も持っています。そのため、人間と同じように、快適に暮らすために必要とされるニーズが満たされなければなりません。つまり、人間の飼育下または人間によって制限された環境で暮らす動物たちに対して、人間は下記の5つの自由を保障しなければならないという考え方です。

 

<5つの自由>

1.飢えと渇きからの自由(Freedom from Hunger and Thirst)

2.痛み・ケガ・病気からの自由(Freedom from Pain, Injury or Disease)

3.恐怖や苦悩からの自由(Freedom from Fear and Distress)

4.不快からの自由(Freedom from Discomfort)

5.正常な行動をする自由(Freedom to Express Normal Behavior)

 

上記を人間への視点から簡単に説明すると、下記のようになります。

 

「飢えと渇きからの自由」とは、動物が健康を維持するために必要な、適切な食事と新鮮な水を与えなければならないということです。

 

「痛み・ケガ・病気からの自由」とは、動物がケガや病気をしないように予防をし、またケガや病気の場合には充分で適切な獣医療を受けさせなければならないということです。

 

「恐怖や苦悩からの自由」とは、恐怖や苦悩となるような過度なストレスを与えず、また他からも受けないように守らなければならないということです。

 

「不快からの自由」とは、人間と動物の感覚の違いを考慮し、動物が不快に感じない環境を用意しなければならないということです。環境の中には、適切な温度・湿度・明るさなどの他に、騒音の排除、十分なスペースや衛生的な状態、安心して眠れる場所や隠れられる場所の確保などが含まれます。

 

「正常な行動をする自由」とは、その動物の習性・生態に即した正常な行動を行えるようにしなければならないということです。例えば、猫がソファや壁紙で爪とぎをすることは人間にとっての問題行動ですが、猫にとっては正常な行動です。猫の爪とぎという行動と飼い主様ご家族の生活を、いかにうまく共存させるかという工夫をしなければならないということです。

 

一番重要なのは目の輝き

見つめる犬

 

前述の5つの自由については、細かい基準が定められているわけではありません。しかし、飼い主様が「基準を満たしている」と思っていればそれで良いというわけでもありません。その子にとって本当に適切な食事や新鮮な水が与えられ、ケガや病気の予防や治療が適切に行われ、過度なストレスが与えられることなく、その子の感覚に適した環境が整えられ、自由にその子本来の行動が許されているかという評価は、「その子の状態」を客観的に見て判断しなければならないからです。

 

もちろん、その子自身に直接聞くことができればよいのですが、それは無理な話です。そこで、ワンちゃんや猫ちゃんの目が輝き、力がみなぎっているかどうかを常に確認していただくのが良いのではないかと考えます。ワンちゃんも猫ちゃんも、目が輝き力に満ちている時は、心身ともにポジティブな状態だと考えられるからです。

 

ワンちゃんや猫ちゃんがポジティブな状態でいられるのであれば、それはきっと生き生きと自分らしく幸せに暮らせていると判断してよいのではないでしょうか。細かいこともしっかりと考え、管理する必要はありますが、あまり考えすぎて頭を悩ませてしまうのではなく、常に目の前のワンちゃんや猫ちゃんの状態を確認しながら、できるだけのことをしてあげられれば、きっとワンちゃんや猫ちゃんも、そして飼い主様ご家族も、みんなで幸せに暮らしていけるのだと信じています。

 

そして、私達動物病院のスタッフは、いつでもそのお手伝いができるように願っています。ワンちゃんや猫ちゃんがケガや病気のときだけではなく、健康管理や生活環境、日々のお世話のことなど、不安なことや困っていることがあれば、何でもお気軽にご相談ください。スタッフ一同、心よりお待ちしております。

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