犬や猫にもある誤嚥性肺炎に注意しましょう
手術前の絶食はなぜ必要?
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
ワンちゃんや猫ちゃんをお家に迎えてしばらくすると、去勢・避妊手術をされる飼い主様が多いと思います。その時に、病院から「当日はご飯を抜いてきてくださいね。」と言われたのではないでしょうか。
なぜ手術だと絶食しなければならないのかというと、誤嚥性肺炎を予防するためなのです。ワンちゃんや猫ちゃんの手術は、多くの場合全身麻酔をかけて行います。胃の中に未消化物が残っていると、手術中や麻酔から覚める時に嘔吐してしまう事があります。麻酔中は意識がなく体に力が入らない状態なので、吐瀉物を誤嚥してしまって誤嚥性肺炎を引き起こすリスクがとても高いのです。
今回は、犬や猫にも多い誤嚥性肺炎についてお話します。
誤嚥性肺炎とは
<誤嚥が肺炎に至る経緯>
食事をする時に飲み込んだ(嚥下した)食べ物は、食道を通って胃に運ばれます。その食道のすぐ隣には、呼吸で吸い込んだ空気を肺に運ぶ気道が並んでいます。呼吸時には食道は閉じていて、食べ物を飲み込む時だけ食道の入口が開きます。さらに、飲み込んだ食べ物が誤って気道に入らないように、弁が閉まって気道を塞ぐ仕掛けになっています。
しかしこの仕掛が上手く機能せず、嚥下した物が誤って気道に入ってしまうことがあります。これを、誤嚥といいます。
万が一誤嚥してしまっても、咳をして吐き出せれば肺にまで届きませんが、咳ができない状態の時や、咳をしても吐き出せなかった時は、肺に達してしまうこともあります。
肺にウイルスや細菌、真菌(カビ)、寄生虫などが感染して炎症を起こした状態を肺炎といい、さまざまな原因で発症します。誤嚥した食べ物に付着していた細菌や、一緒に肺に入ってしまった口の中の常在菌などが感染して起こった肺炎が、誤嚥性肺炎です。
<誤嚥性肺炎を起こしやすい条件>
誤嚥性肺炎を起こしやすいのは、幼齢や高齢のワンちゃん、猫ちゃんです。誤嚥してしまった食べ物を吐き戻す力がなく、また免疫力も低いからです。特に病気治療中や介護中の高齢犬・猫の場合は、注意が必要です。投薬時や、自力で嚥下できなくなって強制給餌をした際に、誤嚥しやすいからです。
また年齢に関係なく、巨大食道症や食道憩室などの、食べた物を逆流させてしまう症状の疾患を持っている犬・猫も、誤嚥しやすいため注意が必要です。
<肺炎の症状>
基礎疾患の有無によって症状はさまざまなのですが、肺炎にかかってしまった犬や猫に見られる主な症状は、下記の通りです。
・咳き込む(咳の後に嘔吐することも)
・呼吸が荒くなる
・呼吸時にゼーゼーとかヒューヒューといった異常な音がする
・元気消失
・食欲減少
・発熱
・呼吸困難
・チアノーゼ(目や口内の粘膜が白っぽく、または青紫色になる)
誤嚥性肺炎の診断と治療
<誤嚥性肺炎の診断>
誤嚥性肺炎かどうかを診断するためには、下記のような検査を行います。
・問診
・聴診
・口の中の視診
・血液検査
・X線検査 など
肺炎だということが分かっても、誤嚥性かどうかを見極めるのは難しいです。そこで重要になるのが、問診です。誤嚥性肺炎の殆どは急に発症するため、飼い主様に発症前後の状況を詳しくお聞きして、誤嚥の可能性を判断します。そのため、できるだけ発症前後の状況を詳しく説明できる方に連れてきていただけると助かります。
また、誤嚥性肺炎の診断には、胸部のX線検査が重要になります。X線画像で発症部位が確認できるため、誤嚥性肺炎の好発部位である左右の肺の前葉や右中葉での発症を確認したり、誤嚥性以外の原因を特定したりするのに役立つのです。しかし、非常に呼吸の状態が悪い場合は、負担が少ない肺エコー検査で代用することもあります。
<誤嚥性肺炎の治療>
中心となる治療は内科治療です。
細菌を抑制するためには、抗菌薬を投与します。感染している菌を特定し、適した抗菌薬を投与するのが理想ですが、菌を特定するための検査に耐えられない状態の場合が多く、その場合は、効果の幅が広い薬を選択します。
脱水症状の改善が必要な場合には、輸液治療も行います。食欲低下や飲水量の低下、荒い呼吸は脱水を招くためです。
呼吸の状態が非常に悪い場合は、酸素を投与して呼吸状態を改善します。この治療は、酸素不足による臓器障害の予防や、呼吸するのに努力を要するような状態の場合の苦痛を緩和する効果が期待できます。
その他、基礎疾患の有無や呼吸状態、各種症状などにより、適宜必要な治療を行っていきます。
誤嚥性肺炎の予防
誤嚥性肺炎を予防するということは、食事の際の吐き戻しを予防するということです。そのため、特に高齢のワンちゃんや猫ちゃんに食事をさせる際の注意点をご紹介します。
<自力で食べられる場合>
・食器を台の上に置く等で、頭の位置を高くして飲み込みやすい姿勢で食べさせる
・1回の食事量を少なくし、食事の回数を増やす等で空腹感を抑えて早食いを防止する
・食事介助をする場合は、飲み込んだことを確認してから次を与える
・ふやかす、とろみをつける、介護用のフードにするなどで食べやすくする
・食後に歯磨きを行い、歯垢や舌苔を除去して口腔内細菌を抑える
・巨大食道症などの場合は、立位で食事をさせる
<強制給餌の場合>
・寝たままではなく、上半身を起こしてクッション等で固定し、頭を高くして給餌する
・呼吸が苦しそうな場合は、時間をかけてゆっくりと給餌する
・特に猫の場合は、一口の量を0.5〜1ml程度にし、1回の食事量も少なめに抑える
ポイント
ポイント
・誤嚥性肺炎は死に至ることもある病気で、犬や猫にも多く見られます
・誤嚥性肺炎は、幼齢、老齢の犬・猫に多いです
・巨大食道症のように食べたものを逆流させる症状の病気も、誤嚥を起こしやすいです
・誤嚥性肺炎の診断には、飼い主様から伺う発症前後の情報が大切です
・高齢の犬・猫の食事では、誤嚥させないための注意が必要です