猫のまたたび反応には感染予防の効果が!

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猫のまたたび反応

またたびの枝で遊ぶ猫

 

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

愛猫にまたたびを与えた時に、まるで酔っ払ってしまったような状態になるのを見て驚き、少し心配になられた飼い主様もいらっしゃるかもしれません。多くの猫がまたたびに反応を示しますが、その反応の強さは、全く反応しないというものも含めて猫によりさまざまです。しかし、葉を舐めたり噛んだり、葉に頭や体をこすりつけたり、さらには床に転がって体をくねらせたりといった陶酔したように見える状態が5〜15分程度続くというのが一般的な反応で、これを猫のまたたび反応と呼んでいます。

 

猫のまたたび反応は、イエネコはもちろんですが、大学や動物園での実験により、ライオンやヒョウ、トラといった大型の野生動物も含めた、ネコ科動物に特有の反応だということが知られています。

 

猫のまたたび反応は、古くから世界中に知られていました。最古の文献は江戸時代にまで遡り、1704年に日本の植物学者が書いたものだそうです。また1859年に描かれた「猫鼠合戦」という浮世絵にも、鼠が武器として持っているまたたびが描かれているそうです。日本だけではなくイギリスにも、1759年に植物学者が書いた記録が残されているそうです。

 

またたび反応の意味

葉のニオイを嗅ぐ猫

 

またたびとは、マタタビ科のつる性の低木で、日本、中国、朝鮮半島などに分布しています。日本では北海道から九州までの山野などに自生しています。若いつるは褐色または赤紫色で非常に丈夫で、筏や吊り橋の縄として使うことができるほどです。卵型の葉は6〜15cmほどの長さで、縁にはギザギザが、裏面の葉脈には毛があります。つるや葉には辛味がありますが、若菜を天ぷらや和え物にして食べる習慣があります。

 

またたび反応はネコ科動物に特有のものですが、なぜネコ科動物だけが反応を示すのかについては、長い間謎とされてきました。しかし2021年及び2022年に、日本の岩手大学、名古屋大学、京都大学とイギリスのリバプール大学の共同研究グループにより、猫のまたたび反応に関して新しい事実が判明しました。

 

またたびは、ネペタラクトールとマタタビラクトンという物質を放出しています。組成比は、8割以上がネペタラクトールで、猫はこのネペタラクトールのニオイに反応してまたたび反応を引き起こすことが分かりました。猫はまたたび反応によって、顔や体をまたたびにこすりつけます。床に寝転がって体をくねらせるのも、床についているまたたびの成分を体につけるためだということが分かっています。これは、またたびの成分に蚊の防虫効果があるからだということも分かりました。

 

また、またたび反応によって猫に舐められたり噛まれたりして傷ついたまたたびの葉は、ネペタラクトールとマタタビラクトンの組成比が5:5に変わり、放出量も10倍以上になることが分かりました。そして、組成比が変わり5:5の比率で混ざりあったネペタラクトールとマタタビラクトンにより、蚊に対する防虫効果が大きく高まることも分かりました。

 

ちなみに、西洋またたびという別名を持つくらい猫がまたたび反応とよく似た反応を見せるキャットニップというハーブにも、蚊に対する防虫効果があります。主成分はネペタラクトンという、ネペタラクトールと構造が似ている物質です。こちらは葉を噛んで傷つけると放出量は増えますが、組成比率が変わることはありません。

 

いずれにしろ、猫はまたたびやキャットニップに対して、その効果をよく発揮するための行動を本能として備えていることが明確になったのです。

 

蚊をよけることの効果とは

人を吸血中の蚊

 

猫はマタタビ反応により、毛が薄くて地肌が虫にさされやすい顔を中心に、全身にまたたびの成分をつけることで、蚊よけをしていることが分かりました。蚊をよけることには、どのような意味があるのでしょうか。

 

ネコ科動物の多くは、草むらなどに身を潜め、獲物を待ち伏せするスタイルの狩りを得意としています。待ち伏せ中の猫は、蚊にたかられてもじっとしているしかありません。気配が察知されてしまうと、狩りが失敗してしまうからです。そのため、身近に生えている植物の成分を体にこすりつけることで蚊をよけ、身を守る必要があったのだと考えられています。

 

蚊に刺されるととてもかゆくなりますが、害はそれだけではありません。蚊はいろいろな病原体を媒介するからです。蚊が人に媒介する感染症には、デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症、日本脳炎、ウエストナイル熱、黄熱などのウイルス疾患や、原虫疾患のマラリアなどがあります。

 

蚊は、猫にも病気を媒介します。蚊が媒介する病気で猫が警戒しなければならないのは、フィラリア感染症です。フィラリアは犬の病気だと思われている飼い主様もおられるようですが、猫にも感染します。たしかに犬ほど多くはありませんが、健康な猫を検査したところ、10頭に1頭がフィラリアに感染したことがあることがわかったという報告もあります。猫の場合、フィラリア症は診断が難しいという側面を持っているため、見逃されてしまうこともありますが、突然死を引き起こすこともあれば、生涯に渡る治療が必要なケースもあるなど、やはりしっかりと予防すべき病気の一つであるといえます。

 

ワンちゃんや猫ちゃんのフィラリア感染症については、次回のブログで詳しくお話をしたいと考えています。

 

またたびを上手に利用

またたびで爪とぎ器に惹きつけられる猫

 

猫のまたたび反応による防虫効果やその仕組について判明したのは、つい最近のことです。それまでも、猫にまたたびを与えることでさまざまな効果があるといわれ、猫のためのまたたび製品が数多く市販され、活用されてきています。その主な効果と言われているものを列挙すると、下記になります。

 

・フードにまたたびパウダーを振りかけて食欲を増進させる

・新しい道具(爪とぎなど)の導入時にまたたびパウダーを振りかけて猫を惹きつける

・またたび入りのおもちゃでストレスを解消させる

・多頭飼育における猫同士の喧嘩時にまたたびを使って気を逸らせる 等

 

またたびを与えても全く反応しない子もいれば、泥酔したようになり自分で流したよだれの海の中に寝転がりびしょびしょになる子など、猫によってその反応はまちまちです。中にはあまりにも過剰に反応するため、またたびを与えない方が良いと感じるケースもあるかもしれません。しかし、新たな研究成果で解明できた蚊よけ効果も意識しつつ、その子にあったまたたびの活用法をみつけて、上手に利用しながら快適な猫ちゃんとの暮らしを満喫してください。

 

ただし、食欲や元気がない原因が病気の場合もありますので、様子がおかしいと思ったら、ぜひかかりつけの動物病院に連れて来て、診察を受けることも忘れないでください。

 

ポイント

またたびの花と葉

 

ポイント

・猫のまたたび反応は、ネコ科動物に特有の、本能に組み込まれている行動です。

・猫がまたたびに顔や体をこすりつけることで、蚊に対する防虫効果を得られます。

・猫がまたたびの葉を舐めたり噛んだりするのは、蚊よけ効果を高めるためです。

・またたびだけではなく、キャットニップにも猫を蚊から守る効果があります。

・蚊をよけることは、フィラリア感染の予防につながります。

・またたびを上手に使うことで、猫ちゃんの暮らしを豊かにすることもできます。

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