犬にも猫にも予防が肝心!フィラリア感染症

ブログ

蚊が媒介するフィラリア症

蚊取り線香

 

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

今年も、ワンちゃんや猫ちゃんのフィラリア予防の時期になりました。フィラリア症とは糸状虫症とも言い、フィラリア(犬糸状虫)という寄生虫に感染したことで発症する感染症です。その名の通り、主たる宿主は犬です。そのため、犬の感染症だと勘違いされている方もいらっしゃいますが、猫も感染することがあるため予防が必要です。

 

フィラリア症は、蚊が媒介します。気付かずにそのまま放置してしまうと、犬や猫の体内でフィラリアが成長し、最終的には心臓や肺に寄生します。場合によっては重篤な症状が現れ、命に関わることも少なくありません。

 

また感染に気付かずに、発症予防のための駆虫薬を飲ませてしまうと、血管などにたくさんのフィラリア成虫の死骸が詰まってしまい、犬や猫の命を奪う結果になることもあるため、駆虫薬の投与にも注意が必要です。

 

フィラリア症は軽視できる病気ではありませんが、動物病院で検査を受け、計画的に駆虫薬を投与し続けることで、発症を予防することができる病気です。今回は、そんなワンちゃんや猫ちゃんのフィラリア症の予防についてお話します。

 

フィラリア症の症状と治療

元気のない犬

 

フィラリアは体内に侵入する寄生虫ですが、消化管に寄生するわけではないので、フィラリアが便の中に混じっていたりお尻から出てきたりといったことはありません。検査以外でフィラリア感染に気付くきっかけは、フィラリア症の症状が現れたときということになります。

 

ではまず、フィラリアの主たる宿主である、犬の症状についてお話します。犬がフィラリア症にかかった場合に見られる症状を、下記に列挙します

 

<犬のフィラリアの軽症(初期)症状>

・咳が出る(フィラリア初期に見られる代表的な症状)

・散歩や運動をしたがらない

・体重の減少

・毛艶が悪くなる(栄養障害)

・食欲の低下

・浅速呼吸

 

<犬のフィラリアの重症症状>

・貧血(目や口などの粘膜の色が白くなる)

・お腹が膨らむ(腹水が溜まる)

・尿の色が赤くなる(血尿)

・散歩や運動をした後に失神する

 

感染したフィラリアは、成長すると心臓の右心室や肺動脈に寄生します。これが症状を引き起こします。つまり症状が軽症(初期症状)であっても、既にある程度のフィラリア成虫が心臓や肺動脈に寄生しているということです。また、フィラリア成虫が死んで体が分解された後も、フィラリア成虫の外皮は粉状で血管内に残るため、毛細血管を詰まらせて肺組織に大きなダメージを与えてしまうこともあります。寄生したフィラリアが死んでしまえば安心というわけでは決してないということも、忘れてはいけません。

 

次に、猫のフィラリア症の症状についてお話します。

<猫のフィラリアの症状>

・咳が出る

・呼吸が苦しそうになる

・嘔吐

・うつ状態

・疲れやすい、元気がない

・食欲の低下、体重の減少

・ショック死(突然死)

 

猫の体内は、フィラリアにとっては住みやすい環境とは言えません。そのため猫に感染したフィラリアは、成虫にまで成長できない場合が多く、感染しても症状が現れなかったり、検査をしても陽性反応を示さなかったりして、感染に気付かないケースも多々見られます。

 

ただし成長したフィラリア成虫は、犬と同じように猫の右心室や肺動脈に寄生します。寄生した虫の数が少なくても、猫の心臓は犬よりも小さいため重症化リスクが高いです。また、猫の場合はフィラリアに対するアレルギー症状やフィラリア成虫の死骸が肺動脈などを閉塞してしまい、突然死してしまうといったケースも多いです。ある研究結果では、猫の突然死の原因として、フィラリア症と心筋症がそれぞれ約30%を占めており、共に突然死の原因の1位であることが分かったとされています。

 

犬も猫も、感染したフィラリア成虫の数が少なければ、駆虫薬の投与で治療を行います。しかし、寄生数が多いと駆虫薬での治療はできません。前述の通り、多くのフィラリア成虫の死骸や外皮の残渣が血管を詰まらせてしまい、感染した犬や猫の命を落としてしまいかねないからです。

 

そのため、手術により寄生したフィラリア成虫を摘出するという治療を選択することもありますが、それでも摘出できるのは限られた部位だけになるため、完全な治療は難しいのが現実です。

 

このことからも、フィラリア症は感染させないことが大切だということがお分かりいただけると思います。ただし、たとえ高層マンションの最上階に住んでいたとしても、エレベーターなどで運ばれた蚊が室内に侵入してしまうため、蚊に刺されないようにすることは、ほぼ不可能でしょう。

 

そこで、フィラリアの感染経路をもう少し詳しくご紹介し、どの段階でワンちゃんや猫ちゃんへの発症を食い止めればよいのかについてご説明します。

 

犬や猫への感染経路

蚊が媒介するイメージ

 

フィラリアのライフサイクルと犬や猫への感染経路の概要は、下記の通りです。

 

①フィラリア成虫に感染した犬の血液中には、0.2〜03.mmのミクロフィラリア(幼虫)が多数放出されています。このミクロフィラリアは感染犬の血を吸った蚊の体内に移動し、蚊の体内で2週間程かけて1〜2mmの大きさの第3期幼虫に成長します。

 

②第3期幼虫のミクロフィラリアを持っている蚊が健康な犬や猫の血を吸うと、ミクロフィラリアが健康な犬や猫の体内に移行します。そして皮下や筋肉の中で70日程をかけて20〜40mmの大きさの第5期幼虫にまで成長し、静脈から心臓の右心室や肺動脈に移動します。

 

③右心室で90日をかけて30〜60mmの未成熟虫を経て120〜300mmのフィラリア成虫に成長すると、そのまま右心室や肺動脈に留まって5〜6年生存します。犬の体内の場合、フィラリア成虫はミクロフィラリアを産み、血液中に放出します。

 

ワンちゃんや猫ちゃんに蚊よけ対策をすることは大切ですが、100%刺されないようにはできません。そこでフィラリアの感染予防は、感染したミクロフィラリアが心臓に移動する前までの第3期〜第5期幼虫の間の約2ヶ月の間に駆虫することで行います。

 

ただし、いつ蚊に刺されるかが分からないため、蚊が活動を始める時期(一般的に気温が14℃以上)から蚊が活動しなくなった1ヶ月後までの期間を通して駆虫薬を投薬するのが、最も一般的な予防方法です。横須賀地区の場合は、4月末〜12月末までが予防期間とされていますが、年々気温が高くなっていますので、状況に応じてもっと早くから予防を開始しなければならないこともあるでしょう。

 

特に注意していただきたいのは、秋の予防です。予防期間が始まった春は忘れずに投薬される飼い主様が多いのですが、予防期間終盤の10〜12月になると、うっかり投薬を忘れてしまわれる飼い主様が増えてくる傾向があるように思います。実は、春の蚊よりも秋の蚊の方が、ミクロフィラリアを持っている可能性が高いともいわれています。くれぐれも、予防期間を通して毎月の駆虫薬投与を継続するようにお願いします。

 

予防薬の選び方

元気のない猫

 

最後に、ワンちゃんや猫ちゃんのフィラリア予防薬の種類と選び方についてお話します。フィラリアの予防薬(駆虫薬)には、色々な種類があります。当院で扱っているお薬は、下記の通りです。

 

①チュアブルタイプ

お肉タイプの薬なので、そのまま飲ませられます。食物アレルギーがなく、お腹も特に弱くなく、おやつも食べるというワンちゃんに向いています。

薬効も、フィラリアの他にノミ、ダニ、お腹の中の寄生虫など幅広いオールインワンタイプなので、屋外で活発に活動するワンちゃんに向いています。

1回の投薬で有効な期間は1ヶ月です。予防期間中は毎月1回、欠かさずに飲ませる必要があります。

 

②錠剤

食物アレルギーがある、おやつを食べないといった理由でチュアブルタイプを使えないワンちゃんに向いています。お薬がむき出しなので、好きなフードにくるんで飲ませると良いでしょう。

薬効はフィラリアのみなので、屋外で活発に活動するワンちゃんには、別途ノミ、ダニ、お腹の寄生虫などの予防が必要です。

この薬も、予防期間中毎月1回、欠かさずに飲ませる必要があります。

 

③注射

注射で投薬するタイプの薬です。1回の注射で1年間有効です。

ただしワクチンではありませんので、投薬量は体重から算出します。そのため、1年間の体重変化が激しい子犬には使用できません。また、肥満体型でダイエット中のワンちゃんにもおすすめできません。

 

④スポット(滴下式)

飲み薬でも注射でもなく、背中に滴下するタイプなので、なかなか薬を飲んでくれない猫ちゃんなどにおすすめの薬です。

ただし、滴下した液剤が全身に行き渡り、かつ乾燥するまでは体に触れません。さらに、薬で肌荒れを起こす場合もありますので、投薬後は注意が必要です。

薬効は幅広く、ノミ、ダニ、お腹の寄生虫駆除もできるオールインワンタイプです。

ただしスポットタイプも効果が1ヶ月なので、予防期間中毎月1回、欠かさずに滴下しなければなりません。

 

ご紹介した通り、ワンちゃんや猫ちゃんへの投薬のしやすさや、活動範囲によって選ぶ薬が変わってきます。もう一つ、ワンちゃんの場合は考慮すべき点があります。それは、犬種特性です。ボーダーコリー、シェルティといったコリー種は、MDR1遺伝子が欠損していることが多く、その場合イベルメクチンという薬の成分に対して副作用が出やすい傾向があります。そのためMDR1遺伝子を欠損している子には、イベルメクチン以外の成分の薬を選びます。この遺伝子変異は、血液検査で調べられます。

 

フィラリア予防薬については、以前書いた下記のブログも参考になさってください。

<フィラリアの薬はどのタイプ?>へのリンク

 

なお、最近はネット通販などで飼い主様が処方箋なしにフィラリア予防薬を購入できる場合があります。しかし、万が一ワンちゃんや猫ちゃんが既にフィラリア症に感染している場合、駆虫薬によって感染していた多くのフィラリアの死骸が血管に詰まってしまい、突然死を引き起こしてしまうことも十分にあり得ます。その年最初のフィラリア予防を行う前には、必ず動物病院でフィラリアの抗原検査を受けるようにしてください。

 

ポイント

フィラリア抗原検査キットと犬

 

ポイント

・フィラリア症は、蚊が媒介します。

・フィラリア症は、犬だけではなく猫にも感染します。

・フィラリア症が重症化した場合、命に関わることもあります。

・感染したミクロフィラリアが体内で成虫になる前までに駆虫して、発症を防ぎます。

・その年最初の駆虫薬を投与する前に、必ず抗原検査を受ける必要があります。

・ほとんどの駆虫薬の有効期間が1ヶ月なので、予防期間中は毎月1回、欠かさずに投薬する必要があります。

・予防期間終盤の10〜12月になると駆虫薬の投与を忘れがちなので注意しましょう。

このページをシェアする

カテゴリー