猫の毛柄と遺伝の話〜前編:遺伝の基礎編〜

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イエネコへの変遷

キジトラ猫

 

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

基礎編と本編の2回に分けて、猫のバラエティ豊かな毛柄を作り出す遺伝について解説していきます。

 

現在、世界中で人と一緒に暮らしている猫(イエネコ)たちには、約60種の品種が存在するといわれていますが、その全ての祖先となるのが、アフリカ北部一帯にかけて生息していたリビアヤマネコです。

 

リビアヤマネコの毛柄は現在「キジトラ」と呼ばれている柄と同じで、他のバリエーションはありません。リビアヤマネコは紀元前600〜200年頃にエジプトで飼われるようになり、人との歴史が始まりました。その後地中海沿岸の諸国を経てアジアやヨーロッパ、そして新大陸(北アメリカ)へと広がっていきました。猫が日本に入ってきたのは10世紀頃、新大陸へ渡ったのは15世紀頃だといわれています。

 

その間、リビアヤマネコはアジアに生息していたジャングルキャットやヨーロッパに生息していたヨーロッパヤマネコなどと自然交配したり、特定の特徴を持った品種を作るために人為的な交配が行われたりして、現在のようなさまざまな毛柄のバリエーションを手に入れました。

 

個体を作るための設計図

家族写真

 

動物の身体は、数多くの細胞で作られています。その細胞の中に、その個体の身体をどのように作り上げるのかという、設計図にあたる情報が詰まっています。とはいっても、全ての情報が忠実に実現されるとは限りません。環境要因によって左右されるからです。

 

例えば身長180cmという設計図を持って生まれても、幼少期に好き嫌いがひどく、偏った栄養バランスの食事しかとらなかった人は、150cm程度で身長の伸びが止まってしまうこともあるのです。

 

このように動物の身体は、細胞の中にある設計情報と環境要因の双方が影響し合って作られます。この細胞の中の設計情報が、遺伝子です。そして遺伝子は、母親と父親から半分ずつ、ランダムに子どもに受け継がれていくしくみになっています。

 

親子や兄弟姉妹を見ると、目元や耳の形、身長や声など、複数の共通点を見出せます。しかし、同じ両親から生まれた兄弟姉妹がそっくりにはなりません。それは、両親から受け継ぐ遺伝子の組み合わせがランダムになるからです。唯一の例外は一卵性双生児で、全く同じ組み合わせの遺伝子を持って生まれてきます。

 

猫の毛柄がどのようになるのかも、遺伝子によって決められています。具体的にどのような遺伝子がどのように働いて毛柄を作るのかについてのお話は次回に回すとして、今回は遺伝のしくみを簡単に解説したいと思います。

 

遺伝子の保管場所:染色体

人の染色体のイラスト

 

人も猫も、持っている遺伝子の数は約23,000個です。これらの遺伝子は、細胞の中にある「染色体」という場所に並んでしまわれています。上のイラストは、人の染色体を種類別に並べたものです。左側が男性、右側が女性の染色体で、同じ形がペアになった22対の常染色体と、X YまたはX Xがペアになった性染色体の、合計23対(46本)で構成されています。猫の染色体は、18対の常染色体と1対の性染色体の、合計19対(38本)で構成されています。

 

染色体が2本1組になっている理由は、母親と父親からそれぞれ1本ずつを受け継いで染色体を構成するためです。生まれてきた子どもが、必ず母親にも父親にも似た特徴を持っているのはこのためです。

 

遺伝子は、染色体のどこにしまわれているのかによって、設計内容が決まっています。例えば、1番の左右の染色体それぞれの先頭には、同じ特徴に関する遺伝子がしまわれています。そして遺伝子には複数の型があり、型によって特徴や優先度が異なります。左右の染色体の遺伝子型がどういう組み合わせになっているかで、子どもに現れる特徴が決まるのです。

 

例えば、猫の毛の長さを決める遺伝子には、Lとl(小文字のL)という2つの型があります。Lは短毛を、lは長毛を作ります。また、Lとlの両方が存在するときは、Lの働きが優先されます。そのため、LLやLlの組み合わせだと短毛の猫になり、llの組み合わせの時だけ長毛の猫になるというわけです。

 

性別の決まり方

性別の遺伝のしくみ

 

最後に、性別を決める遺伝のしくみについてお話します。どの動物も、常染色体は性別による違いがなく、性別により違いがあるのは性染色体だけです。人も猫も、性染色体としてX染色体とY染色体の2種類を持っています。この内、男性(オス)の特徴を発現させる遺伝子のほとんどがY染色体にしまわれています。

 

性別が決まる遺伝のしくみを表したのが、上のイラストです。母親はX染色体しか持っていませんので、2本のうちのどちらかはわかりませんが、子どもには必ずX染色体が受け継がれます。そして、父親から受け継ぐのがX染色体であれば女性(メス)になり、Y染色体であれば男性(オス)になるのです。

 

母親や父親からどちらの染色体を受け継ぐかは、ランダムに決まるため調整できません。しかし、上のイラストからも分かるように、生まれる子どもの性別は2:2となり、確率的には同じです。

 

ポイント

さまざまな毛柄の猫たち

 

ポイント

・イエネコの毛柄の原型はリビアヤマネコに由来するキジトラ模様です

・エジプトで人に飼われ始めた後、リビアヤマネコは世界各地に広がりました

・世界に広がる過程で他の野生のネコとの自然交配や人為的な交配により、さまざまな毛柄の猫が生まれました

・猫の毛柄を始め、個体の身体的特徴を決める情報は遺伝子という形で染色体の中に保管されています

・染色体は、母親から受け継いだ1本と父親から受け継いだ1本が対になっています

・遺伝子には複数の型があり、型によって優先度や作用が決まっています

・母親と父親から受け継いだ遺伝子型の組み合わせで、出現する身体的特徴が決まります

・性別を決めるのは性染色体で、X Xのペアはメス、X Yのペアはオスになります

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