県内でも時々発生する犬のレプトスピラ症

犬猫の病気や症状

犬のレプトスピラ症

水辺を散歩する犬

 

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

2021年10月末に、逗子市の動物病院から1件の犬のレプトスピラ症の報告が上がりました。レプトスピラ症は、昔からよく知られている人獣共通感染症の一つで、感染症法で4類感染症に指定されています。そのため、レプトスピラ症と診断した獣医師や医師は、届出をしなければいけません。つまりは、それだけ注意が必要な病気だということです。

 

ただし、いたずらに恐れる病気ではありません。レプトスピラ症の概要や県内での発生状況、予防法などを知ることで、ある程度予防することが可能な病気だからです。

 

今回の逗子市でのレプトスピラ症発生で、ご不安になられている飼い主様も多くいらっしゃるようです。そこで、今回はレプトスピラ症についてお話ししたいと思います。

 

国内・県内での発生状況

日本地図

 

犬のレプトスピラ症の発生状況は、地域によって大分状況が異なります。詳細は、農林水産省のホームページで公表されていますので、興味のある方はアクセスしてみてください。

<農林水産省:監視伝染病の発生状況>

 

国内の犬のレプトスピラ症の2011年〜2020年の総発生件数は下記の通りです。

国内発生件数一覧

この数値を見ると、毎年平均して30件程度は発生していることが分かります。ただし、地域的には西日本での発生が多く、甲信越・東北地方ではほとんど発生していません。関東では少数ですが発生しており、その中でも比較的多いのが千葉県です。

 

神奈川県内では、2011年に1件、2014年に1件、2019年に1件発生しており、農水省の速報にはまだ反映されていませんが、前述の通り2021年10月にも逗子市で1件発生しました。

 

統計的には神奈川県は犬のレプトスピラ症の発生率が少ない地域に入ります。しかし、数年おきに確実に発生していることからも分かるように、県内にレプトスピラ菌が継続的に存在していることは明らかだといえるでしょう。

 

レプトスピラ症の概要

台湾リス

 

レプトスピラ症については、実は以前にも<犬と海や川で遊ぶならワクチンは8種がおすすめです。>というブログでも書かせていただきました。重複する部分もありますが、改めてレプトスピラ症の概要についてまとめておきます。

 

レプトスピラ症は、犬や人だけではなく、さまざまな哺乳類に感染する人獣共通感染症です。ただし、レプトスピラ菌には数多くの種類(血清型)があります。その中でも、7つの血清型による感染を診断された場合が、前述の通り届出をしなければならないと定められています。

 

レプトスピラはさまざまな哺乳動物が保菌している可能性がありますが、特に高い確率で保菌しているのが、げっ歯類で、生涯に渡り尿中に菌を排泄します。その尿に汚染された土壌や水などの環境に接触することで、皮膚の小さな傷や口、目などの粘膜を経由して感染し、肝臓や腎臓で増殖します。潜伏期間は数日〜数週間といわれています。

 

レプトスピラ菌が好む環境は、池、沼地、河川、海岸などの湿気の多い場所です。特に温かくて降雨量が多く、洪水が多くなる時期に感染が増える傾向にあります。具体的にいうと、発生の内の約半数が9月、90%以上が8〜11月に集中しています。最近の逗子市での発生例を見ても、発症時期は10月末で、旅行歴がなく毎日の散歩コースは主に逗子海岸だったワンちゃんでした。

 

診察を受ける犬

 

三浦半島には、げっ歯類の一種である台湾リスが多数生息しています。また、横須賀地区でも過去に感染例があります。レプトスピラが好む環境とも合致しているため、普段から海、川の近くでお散歩をされているワンちゃんについては、日頃から予防しておくに越したことがないといえるでしょう。

 

感染したレプトスピラ菌の血清型によって、現れる症状や進行速度には違いがあります。最も激しい経過を示す甚急性の場合は、発熱、震え、口腔内や粘膜の出血が見られ、場合によっては鼻血やタール状の黒い便が出ることもあります。ぐったりとした状態となり、黄疸が出る場合もあります。非常に重度の場合は2〜3日で死に至ります。

 

甚急性ほどではありませんが、急性の場合も死亡率は高く、嘔吐や脱水、ぐったりして起き上がれなくなる、口腔内の粘膜が壊死する、呼吸困難等の症状と、急性肝不全や腎不全の症状が見られます。

 

急性よりも緩やかな亜急性の場合は、急性腎不全の症状が出ます。さらに緩やかな進行ですが、長期間にわたる慢性の場合もあり、その場合は多飲多尿、腹水などの肝不全の症状が見られます。

 

また、回復後も数ヶ月〜数年間は、尿中にレプトスピラ菌を排出するため、多頭飼育や同居している他の動物がいる場合は十分な注意が必要です。

 

なお、猫の場合は感染してもほとんど症状が出ません。ただし、無症状でも感染していれば尿にはレプトスピラ菌が排出されますので、猫のトイレ掃除等をした後にも必ず手洗いをするようにしましょう。

 

レプトスピラ症の予防

ワクチンを打たれる犬

 

レプトスピラ症は、年に1回のワクチン接種で予防ができます。当院が標準でご用意している犬の混合ワクチンは6種混合と8種混合のワクチンです。6種混合ワクチンは、ジステンパー、パルボウイルス、コロナウイルス、肝炎、アデノウイルス、インフルエンザの予防ができます。

 

8種混合ワクチンは、前述の6種の病気にプラスして、レプトスピラ菌の2つの血清型を予防できます。カニコーラとイクテモヘモラジーという血清型です。残念ながら、感染したレプトスピラの血清型が、この2つ以外の場合は予防できません。しかし、過去の神奈川県が実施した調査では、いずれの感染もカニコーラであったため、8種混合ワクチンを接種しておけば、神奈川県内のアウトドアを楽しまれる分には安心できると考えています。

 

特に旅行に出ることもないし、水辺で散歩をすることもない、また多くの犬が集まるドッグランなども利用しないというワンちゃんであれば、6種混合ワクチンでも安心です。しかし、旅行に行く、水辺をお散歩する、山に行く、お散歩コースで台湾リスを見かける、他の犬や動物と接触する機会が多いというワンちゃんの場合は、毎年のワクチンを8種混合にすることをおすすめします。

 

また台風や大雨の後のお散歩には、特に注意が必要です。河川や海岸などの水辺だけではなく、草むらや電柱などにもなるべく近寄らないようにした方が良いででしょう。

 

ポイント

元気に走る犬

 

ポイント

・レプトスピラ症は人獣共通感染症で、届出伝染病に指定されています

・レプトスピラ症は、重症の場合死に至ることもありますが治療も可能な病気です

・レプトスピラ症は、年に1回の8種混合ワクチンの接種で予防できます

・大雨や洪水後のお散歩には特に注意が必要です

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