いざというときのためにマイクロチップの装着を
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犬猫へのマイクロチップ装着が来年6月から義務化されます
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
今年(2021)の4月8日に、環境省が飼い主情報などの登録事務作業をする指定登録機関の要件を定めた省令を制定しました。これにより、2019年に改定された動物愛護管理法で定められた犬猫へのマイクロチップ装着義務化の施行時期が、正式に来年(2022)6月からとなりました。
そこで、改めてマイクロチップとはどのようなものなのか、法改正で定められている義務化の内容、マイクロチップを装着することによるメリットやデメリットについてお話ししたいと思います。
動物愛護管理法の改正で義務化されたマイクロチップ
2019年に改正された動物愛護管理法のマイクロチップの装着に関する内容をまとめると、下記のようになります。
1.犬猫の繁殖業者等にマイクロチップの装着・登録を義務付ける
2.義務対象者以外には努力義務を課す
3.登録を受けた犬猫を所有した者に変更届出を義務付ける
つまり、法律で義務付けられている対象者はブリーダーやペットショップ等の業者であって、一般の飼い主様には「努力義務」となっているのです。そのため、来年6月になったら、現在一緒に暮らしている愛犬や愛猫に一斉にマイクロチップを装着しなければいけないというわけではありません。
しかし、既に一緒に暮らしている愛犬や愛猫にマイクロチップを装着されていないのであれば、この機会に装着するか否かを再検討してみていただきたいと考えています。それは、デメリット以上にメリットが大きいと考えるからです。
マイクロチップの基礎知識
どのようなものか
形状は、直径1〜2mm、長さは約8〜12mmの円筒形をしています。中にはアンテナとICが入っていて、副作用などが起きないように、生体適合ガラスもしくはポリマーで密閉されています。また装着位置から移動しないように、メーカーごとに表面にいろいろな工夫を凝らしています。
マイクロチップの装着は医療行為になりますので、動物病院で獣医師が行わなければなりません。使い捨ての専用のインジェクター(少し太めの注射器のような器具:上の写真をご参照ください)を使用して、犬猫の場合は首の後ろ側の背中より少し左側の皮下に注入するのが一般的です。
マイクロチップには世界で唯一の15桁の数字が記録されています。内訳は下記です。
3桁:国:日本は392
2桁:動物:牛(10)、馬(11)、豚(12)、ペット(14)
2桁;メーカー:馬とペットの場合、続く2桁はメーカーを表します
8桁:個体識別番号
マイクロチップに記録されたデーター(15桁の数字)は、専用のリーダーで読み取ります。装着した部位にリーダーをかざすと、リーダーが発する電波に反応してマイクロチップが番号を送り返し、それをリーダーが感知して読み取ります。そのため、マイクロチップ側には電池が必要ありません。マイクロチップ自体の耐久年数が30年ありますので、犬猫の場合、一度装着すれば一生そのまま使用できます。
マイクロチップは1986年頃から欧米を中心に使用され始め、多くの実績がある技術です。ペットや家畜以外にも、動物園、水族館などの哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類などにも数多く装着されています。
義務化施行後に飼い主様がすべきこと
前述の通り、マイクロチップには15桁の数字しか入っていません。その番号と紐付けられた情報を管理するデーターベースがあり、そこに情報を登録しておき、照会することで使用する仕組みになっています。
したがって、業者が販売した時点でマイクロチップの番号に紐付けられている情報は業者の情報になります。そこで飼い主様は、データー管理元に対して情報を変更する手続きをする必要があるのです。つまり、業者の情報を飼い主様の氏名や住所、連絡先などの情報に書き換えるのです。
マイクロチップのリーダーは、全国の動物愛護センターや動物病院などに設置されています。そして、保護された犬や猫のマイクロチップのデーターを読み取り、データーベースの情報と照合して飼い主様を割り出し、連絡してくれるという仕組みになっているのです。
ですから、飼い主様が引越しをされたり連絡先が変わったりした場合には、きちんと情報の変更届出をしておかなければ何の意味もないということになってしまいます。また、愛犬や愛猫が亡くなったときにも、データ削除の届け出をする必要があります。
マイクロチップのメリットとデメリット
マイクロチップ装着のメリット
マイクロチップ装着義務化には、遺棄や虐待を防止するといった目的もありますが、飼い主様が愛犬や愛猫にマイクロチップを装着する最大のメリットは、万が一離れ離れになってしまった場合でも、再会できる率が高くなるということです。
2011年の東日本大震災の際のある自治体で保護された犬猫の例だと、迷子札や鑑札、狂犬病予防注射済票を身に着けていた場合は100%飼い主様が判明しましたが、迷子札の付いていない首輪のみの場合は、判明したのが犬は0.5%、猫はゼロだったという報告があります。
2016年の熊本地震の際には、マイクロチップを装着していた7頭の内6頭が、首輪だけの場合は344頭中136頭(40%)が、鑑札や狂犬病予防注射済票を装着していた場合は16頭中15頭(94%)が再会できたと報告されています。
迷子札や鑑札、狂犬病予防注射済票は、外れてしまうというリスクがあります。マイクロチップの装着と合わせて実施しておくことが、より再会率を高めるはずです。また、鑑札等のない猫については、迷子札とマイクロチップを併用することが望ましいでしょう。
マイクロチップ装着のデメリット
おそらく、飼い主様が最も心配されるのは、マイクロチップを体内に埋め込むことに対する安全性だと思います。国内でも海外でも、マイクロチップを装着した事による副作用等の問題は、ほとんど報告されていません。
しかし全くのゼロという訳ではなく、英国小動物獣医師会から、370万匹以上のペットへの装着実績の内2例に腫瘍が認められたという報告があります。しかし、ワクチン接種によるアナフィラキシーショック等と比較しても、安全性が高いと言える数字です。
上記の写真の赤丸で囲った部分がマイクロチップです。このように、レントゲンやCT検査の場合、マイクロチップが入っているのでその部分の読影はできませんが、ほぼ問題はありません。ただし、MRIの場合はその強い磁力でマイクロチップが壊れることもあります。
また、マイクロチップを装着しているからと言っても、離れ離れになってしまった愛犬、愛猫との再会率が必ず100%になるという保証はありません。マイクロチップを装着したので大丈夫と安心してしまわずに、普段から愛犬や愛猫が大きい音などに驚いて脱走してしまったり、同行避難の準備を怠ったりといった油断は禁物です。
マイクロチップがどういうもので、どのようなメリットやデメリットがあるのかを正しく理解した上で、ご自身の愛犬や愛猫へのマイクロチップの装着要否について、改めて再検討していただけたらと考えます。
マイクロチップに関するまとめ
ポイント
・マイクロチップは実績も多く安全性の高い技術です
・一度装着したら一生そのまま使用できます
・可視できる迷子札や鑑札等とマイクロチップの併用でいざというときの再会率が高まります