予防医療は地域性や体質を考えることが大切
愛犬愛猫の予防医療
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
新型コロナ感染症の流行を経験した私たちにとって、予防接種(ワクチン接種)が今まで以上に身近な存在になったと感じている方もおられるのではないでしょうか。人と同様に、私たちと一緒に暮らしているワンちゃんや猫ちゃんの寿命も年々伸びてきています。そこで、ワンちゃんや猫ちゃんも「健康寿命」に注目が集まるようになってきました。
健康な状態で長生きしてもらうことを目指して、心身が健康な状態で過ごせる年齢=健康寿命を伸ばしていこうという考え方です。そこで大切になってくるのが、「予防医療」です。
ワンちゃんや猫ちゃんの健康寿命が伸びることで、ワンちゃんや猫ちゃんは幸せに寿命を全うできるようになるでしょう。そして、飼い主様にもメリットがたくさん生まれます。
今回は、ワンちゃんや猫ちゃんの予防医療についてお話ししたいと思います。
生涯通して必要な予防医療
一般的に、予防医療には3つの種類があります。病気にかかったり健康状態を崩したりするのを防ぐための「一次予防」、病気を早期に発見し軽症なうちに治療を行って重症化や合併症の発生を防ぐ「二次予防」、かかってしまった病気の進行を抑えたり、再発を防いだり、日常生活への復帰を推進したりする「三次予防」です。
「予防医療」と聞くと、一次予防だけを思い浮かべる飼い主様も多いのですが、実は病気の治療中や治療後も含めて、予防医療は継続していくことで効果を上げるものなのです。だからこそ、病気にかからずに済んだり、重症化する前に治療できたり、早期に日常生活に戻れたりするのです。
私は、ワンちゃんや猫ちゃんをお家に迎えられた飼い主様には、必ずかかりつけの動物病院を作っていただきたいと考えています。なぜなら、全ての予防医療を総合的に行えるのは、かかりつけ医だけだからです。
それでは、具体的に主な予防医療の内容をみていきましょう。
予防医療の具体例
◯ワクチン接種
動物の体にもともと備わっている「免疫」という健康を守る仕組みを利用して、病原体によって感染する病気を防ぐ、またはかかっても軽症ですませられるようにするための予防医療が、ワクチン接種です。
法律で定められている必須のワクチンが、狂犬病予防注射です。他にも、犬には犬パルボウイルス、犬ジステンパーウイルス、犬アデノウイルス、猫には猫汎白血球減少症、猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症など、かかりやすくて重症化しやすい感染症に対するワクチンが開発され、広く普及しています。
ワクチンの接種で免疫を獲得できるのは、それぞれのワンちゃんや猫ちゃんです。と同時に、集団免疫という考え方もあります。ある地域に住んでいる動物たちの70%以上がワクチンを接種して免疫を獲得していれば、その地域ではその感染症が大流行することはないという考え方です。そのため、日本では1957年以降は発生していない狂犬病に対しても、必ず毎年予防接種をし、ワンちゃん自身だけではなく、その地域の集団免疫も70%以上を維持させることが大切になってくるのです。
◯健康診断
定期的に健康状態をチェックすることは、とても大切な予防医療の一つです。ワンちゃんや猫ちゃんは人よりも歳をとるスピードが速いため、シニアになるまでは最低年に1回、シニアになってからは最低でも年に2回以上は健康診断を受けることをおすすめします。
若い頃から健康診断を受けておくと、その子の健康な時の状態を正確に把握できます。「異常」に見える状態でも、生まれつきで特に問題なく過ごせているのであれば「正常」と判断できるケースもあります。また定期的な健診で、ちょっとした変化にもすぐに気付けるようになります。
こういったことの積み重ねが、いざという時にワンちゃんや猫ちゃんに余計な負荷をかけることなく、病気の早期発見につながるのです。
◯食事管理
ワンちゃんや猫ちゃんの体は、食べたもので出来上がります。そして、ワンちゃんや猫ちゃんのそれぞれに、最適な栄養バランスがあります。消化できる物やできない物も、動物の種類によって異なります。その上、成長期、妊娠期、授乳期、高齢期などのライフステージでも、必要となる栄養バランスは変化します。
こういった食事による栄養管理も、予防医療の一環です。日常生活や食事、おやつの内容や量などを上手にコントロールし、その子にあった食事管理を行うことは、かかりつけの動物病院スタッフと飼い主様の、共同作業だと考えています。
◯生活習慣の見直し
栄養をしっかりととっていれば、なんの問題も起こらないというわけではありません。健康寿命を伸ばすためには、適度な運動を行うことでしっかりとした骨格や筋肉を作り、維持していくことも欠かせません。
ワンちゃんや猫ちゃんの性格や飼い主様の生活によっては、運動不足で肥満体型になってしまう、または運動のしすぎでかえって関節や筋肉を傷めてしまうというケースもあります。また、ワンちゃんや猫ちゃんが過ごしているお家の中の環境を改善するだけでも、自然と運動を促したり、体にかかる負荷を抑えたりすることもできます。
こういった生活習慣の見直しも、ワンちゃんや猫ちゃんの大切な予防医療の一つなのです。
予防に重要なカスタマイズ
予防医療に限りませんが、何事においても完璧ということはありません。また、教科書通りに行えば全ての動物にとって安全だというわけでもありません。必要のない予防を行う必要はありませんし、必要な場合もできるだけ副反応や副作用などを最小限に抑えながら、最も高い効果を望める方法が求められるのです。
かかりつけの病院を作っていただきたい理由もここにあります。地元の動物病院なら、その地域にどのような感染症が流行し、病原体を保菌している野生動物がどの程度いるのかなどを把握しています。またワクチン接種や健康診断などで日常的にワンちゃんや猫ちゃんを見ているからこそ、負荷をかけずに最も高い効果を望める手段を選べると考えています。
例えば、コアワクチンの集団免疫が70%に達していない地域では、感染症の流行リスクに備えてワクチンの接種頻度を年1回にする、三浦半島のようにレプトスピラ症の病原菌を持つ野生のタイワンリスが多い地域では、8種混合ワクチンを接種する、特定の薬剤にアレルギー反応を起こす体質の子には代替えとなる薬剤を使用するといったように、地域やその子に合わせたカスタマイズが重要だと考えています。
ワンちゃんや猫ちゃんの健康寿命を伸ばすためには、目の前のことだけではなく、地域性や生活様式、そして過去・現在・未来を総合的に考慮した予防医療が大切なのです。そのためには、飼い主様だけ、または私たちだけが必死になっても効果が上がりません。飼い主様と私たちが共に協力し合うことで、最も効果的な予防医療が行えるのだと考えています。
飼い主様にも必要な情報や治療法などは、こちらから積極的にご提案いたします。できるだけわかりやすくご説明いたしますが、それでも難しいと感じた場合には、どうぞ遠慮なくご質問ください。そしてご納得のいく方針や処置法をお選びください。飼い主様と私たちとで、ワンちゃんや猫ちゃんの健康寿命を伸ばせるよう、共に力を合わせていきましょう。
ポイント
ポイント
・適切な予防医療を行うことで、愛犬愛猫の健康寿命を伸ばすことが見込めます
・予防医療は、愛犬愛猫の生涯を通して必要なものです
・主な予防医療には、ワクチン接種、健康診断、食事管理、生活習慣の見直し等があります
・予防医療は、地域性や生活、体質等を考慮してカスタマイズすることが大切です
・効果的な予防医療のためにも、ぜひかかりつけの動物病院を作ってください
・愛犬愛猫の健康寿命を伸ばすためには、飼い主様と動物病院の協力が必要です
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