人とは異なる症状で現れる犬や猫の花粉症
犬や猫も発症する花粉症
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
最近目の痒みや鼻水、くしゃみなどの症状が現れ、「花粉の飛散が始まったな…」と改めてマスクをしたり薬を飲んだりし始めている飼い主様も多いのではないでしょうか。
今頃の時期の横須賀地区では、スギの花粉の飛散がピークを迎えています。4月に向けて徐々に飛散量が減っていきますが、それに変わるようにヒノキの花粉の飛散がピークを迎えるため、当分の間は花粉症対策が欠かせないでしょう。
飼い主様を悩ませる花粉ですが、実はワンちゃんや猫ちゃんも花粉症にかかることがあるのをご存知でしょうか。今回は、ワンちゃんや猫ちゃんに現れる花粉症の症状や、花粉対策についてお話したいと思います。
花粉症が発症するしくみ
地球上にはさまざまな生物が存在し、共存しています。こういった自然界で生き抜いていくために、生物は免疫という、自分で自分の身を守る体のしくみを備えています。免疫のしくみについては、以前書いた下記のブログで少し詳しく説明していますので、興味があればご一読ください。
外部から体内に侵入してきた異物から身を守る免疫のしくみが、本来は無害の異物にまで過剰に反応して起きるのがアレルギー反応です。そしてアレルギー反応を引き起こす異物を、アレルゲンと言います。
食物に含まれる成分や薬剤、ホコリ、ダニの死骸など、多くのものがアレルゲンになります。そして、花粉がアレルゲンとなって引き起こされるアレルギー反応を、花粉症と言います。花粉症を引き起こすアレルゲンとして有名なのが、スギ、ヒノキ、カバノキ、イネ科、キク科(ブタクサ属、ヨモギ属)などの樹木や草木の花粉です。
関東地方の場合、スギは2月末〜4月初旬、ヒノキは3月末〜4月中旬、ブタクサ属は9月頃に、花粉飛散量のピークを迎えます。しかしさほど多くない時期も含めると、アレルゲンとなる何らかの花粉が1年中飛散していることになります。
花粉は、主に鼻や目の粘膜から体内に侵入します。そのためか、人の花粉症は鼻水や鼻詰まり、くしゃみといった鼻炎の症状や目の痒みといった、花粉の侵入経路に由来したような症状が主体となることが多いです。
ワンちゃんや猫ちゃんも鼻や目の粘膜から花粉が侵入しますが、現れる症状は、人の花粉症とは異なることが多いので、もしかすると気付いていない飼い主様もおられるかもしれません。
それでは、ワンちゃんや猫ちゃんに現れる花粉症の症状について、少し詳しく見ていきましょう。
犬や猫に現れる主な症状
ワンちゃんや猫ちゃんの場合、「花粉症」と診断することはあまりなく、現れる症状に合わせた病名で診断します。では、ワンちゃんや猫ちゃんによく見られる花粉症の症状を見ていきましょう。
◯アトピー性皮膚炎
花粉に限らず、自然環境中に存在する多くのモノがアレルゲンとなって発症するアレルギー性の皮膚疾患を、アトピー性皮膚炎と言います。特にワンちゃんの場合、花粉症の症状として現れる主な症状です。
体の左右対称に皮膚炎が現れますが、特に皮膚の薄い部分や皮膚同士が重なり合っている部分(顔、耳、首の内側、脇、股、足先)と、お腹によく現れます。赤くなり、腫れて痒がるというのが主な症状です。
痒いのでワンちゃんは掻きむしります。それが長く続くとどんどん悪化して脱毛し、皮膚の表面が丘のように盛り上がり、出血したり水膨れになったり膿が溜まったりします。更に進むと、まるで像の皮膚のように黒く厚くゴワゴワした状態になります。
◯アトピー性外耳炎
アレルギー性の炎症が外耳に現れるのが、アトピー性外耳炎です。外耳とは、耳の穴から鼓膜までの部分です。この外耳が赤く腫れ、痒みが生じます。しきりに耳を掻く場合は、外耳炎が疑われます。これもワンちゃんの花粉症としてよく見られる症状で、猫ちゃんの場合はあまり見られないことが多いようです。
◯アレルギー性鼻炎・気管支炎
アレルゲンが引き金となって、くしゃみや鼻水といった呼吸器系の症状が出るのが、アレルギー性鼻炎やアレルギー性気管支炎です。これは人の花粉症とよく似た症状なので、飼い主様も気付きやすいでしょう。ただし花粉がアレルゲンとなって起こるケースは猫ちゃんによく見られ、ワンちゃんの場合は少ないです。
◯花粉症か否かの判断基準
花粉症であれば、必ず「季節性」が見られます。毎年同じ時期になると皮膚炎や外耳炎、または鼻炎のような症状が現れる場合は、花粉症の可能性が高いです。動物病院で診てもらう際に、そのことをぜひ獣医師に伝えてください。
同じ皮膚炎、外耳炎、鼻炎、気管支炎の症状が出ていても、季節性がない場合は花粉以外のアレルゲンに反応している、またはアレルギー以外の原因で発症している可能性があります。「季節性」をぜひ判断基準の一つにしてください。
犬や猫の花粉症対策とは
◯アレルギー検査
アレルギーが疑われる場合は、かかりつけの動物病院で検査してみるとよいでしょう。血液のIgE検査で、よもぎ、ブタクサ、スギなどの花粉の他、ダニ、ノミ、蚊や、食材(肉類、卵、牛乳、小麦等)などについて、アレルゲンを特定できます。
アレルゲンをしっかりと特定し、ワンちゃんや猫ちゃんのための観点で、花粉を始めとしたアレルゲンを遠ざけるための対策を行いましょう。
◯交差反応や複数アレルギーの合併症
アレルギーには、交差反応と言って「アレルゲンではなくても形が似ているために、抗体に反応してアレルギー症状が生じてしまう」ということがあります。例えばスギ花粉症の動物は、スギとよく似ている形のヒノキの花粉にも反応してしまうことがあります。
またりんご、梨、桃、スイカ、オレンジ、人参、きゅうり、ナスなどの果物や野菜を食べた犬が、口の中や喉の粘膜を腫らす、果物(野菜)過敏症と言う症状があります。スギ花粉症の犬が果物(野菜)過敏症も合併した口腔アレルギー症候群を発症したという報告があるため、スギ花粉症のワンちゃんに果物や野菜をあげる際には注意が必要でしょう。
このように、ワンちゃんや猫ちゃんにアレルギー性疾患が見られる場合は、複数のアレルゲンにも注意しましょう。特に初めての食材を食べさせる場合は、たとえアレルギー検査で陰性だったものでも、ごく少量から始めて様子を見るようにしましょう。
◯室内に花粉を持ち込まないための諸対策
帰宅時は、必ず衣服や髪の毛、そしてワンちゃんの被毛や足先などについた花粉をきれいに払い落としたり拭き取ったりした後に入室しましょう。ワンちゃんの散歩中の衣服着用も、効果が期待できます。その場合、必ず入室前に脱がせて花粉を払い落としましょう。
花粉はごく小さい粒子なので、開けた窓や換気口、ちょっとした隙間などからも知らない内に入り込んでしまいます。そして床の上などに落ち、たまってしまいます。こまめに掃除機やモップをかけ、常に清潔な状態をキープしましょう。
散歩も、花粉の飛散が少ないタイミングを選びましょう。1日の中では、お昼頃(14時頃まで)と夕方(18〜19時頃)の飛散量が多いので、できるだけ避けてください。また強風の日、気温が高くて晴れている日も飛散量が多いと言われていますので、気を付けましょう。
ポイント
ポイント
・病原体から身を守るための免疫機能が過剰反応することでアレルギー性疾患になります。
・花粉症は、花粉が引き金となって起こるアレルギー性疾患の一つです。
・犬の花粉症は、皮膚炎や外耳炎の症状が多く、鼻・気管支炎の症状は少ないです。
・猫の花粉症は、鼻・気管支炎の症状が多く、加えて皮膚炎の症状が見られることもあります。
・アレルゲンと似た形の異物にもアレルギー反応が起きたり、別のアレルゲンとの合併症が起きたりすることもあります。
・外から花粉を持ち込まないことが大切ですが、完全に締め出すことは不可能なので、こまめに掃除機やモップ掛けで花粉を排除しましょう。
・花粉症のワンちゃんのお散歩は、花粉の飛散量が少ない時間帯を選ぶようにしましょう。