免疫のしくみとワクチンのお話

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こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

新型コロナウイルス感染症に対して、まずは爆発的拡大を回避して緊急事態宣言が全面的に解除されました。

ただし、第2波、第3波の到来に備えて、私たちは人や犬猫達との付き合い方に対して新しい生活様式を取り入れていかなければなりません。

そこで大きく期待されているのが、治療薬とワクチンの開発です。

 

ワクチンに注目が集まっている今、改めて免疫のしくみと犬や猫へのワクチン接種について考えてみたいと思います。

 

 

私たちの体は、病原体(ウイルス、細菌等)から身を守るためにさまざまな仕組みを備えています。

その第一弾が病原体の侵入を防ぐことで、これは体の表面を覆っている皮膚や、体の内側の表面を覆っている粘膜が担っています。

 

しかし、皮膚や粘膜を突破して体内に侵入してしまう病原体もいて、その病原体を排除するための仕組みが免疫です。

免疫の仕組みについて、簡単にまとめてみましょう。

 

1. 自然免疫

免疫の仕組みの中で最初に働くのが自然免疫です。

免疫を担っているのは血液中の白血球で、種類としては、好中球、樹状細胞、マクロファージ、リンパ球(T細胞、B細胞、NK細胞)があります。

自然免疫では、このうちの好中球、樹状細胞、マクロファージの食作用による外敵の排除とNK細胞による外敵への攻撃が行われます。

自然免疫は特定の病原体を認識するのではなく、幅広い病原体に対して即座に働きます。

 

2. 適応免疫(獲得免疫)

適応免疫は獲得免疫とも言い、自然免疫で排除できなかった病原体に対する仕組みになります。

体内に侵入した病原体や他の生物が持つ有機物や毒素、また自分自身のがん細胞等を抗原と言い、この抗原に最もふさわしい防御策を見つけ出して攻撃を行います。

この抗原の情報を記憶しておき、次に同じ抗原が侵入した時に素早く効果的な働きができるようにする仕組みが適応免疫で、関与するリンパ球の違いから、次の2種類があります。

 

<液性免疫>

侵入して体液中や細胞の表面に存在する抗原に対し、B細胞が「抗体」を作り、その抗体が抗原に結合することで排除する仕組みです。

 

<細胞性免疫>

抗体が関与しない仕組みが細胞性免疫で、キラーT細胞がウイルスや細菌に感染した細胞、がん細胞、移植組織の細胞等を直接攻撃します。

 

 

大まかな説明ですが、以上が免疫の仕組みです。

説明からもお分かりのように、免疫とは個々の動物達が自分自身を守るための仕組みです。

しかし、個々が獲得した免疫(液性免疫)を集団の免疫力として考える「集団免疫」という考え方があります。

 

今回の新型コロナウイルス感染症に対する各国の対応策の中でも、「集団免疫」に着目した施策を打ち出していた国もありましたので、記憶に残っておられる飼い主様も多いのではないでしょうか。

 

集団免疫とは液性免疫に着目した考え方で、集団に属する個体の75%以上が抗体をもっている場合は、その抗原となっている病原体による病気の大流行を予防できるという考え方です。

この場合、まだ25%の個体には抗体がないのですが、病気そのものが大流行する訳ではないため、25%の抗体を持たない個体が感染するリスクも低くなるという考え方です。

 

しかし、集団の75%が抗体を持つまでどんどん自然感染させるというのは、重篤な症状をもたらす病原体に対しては、非常に危険な方法だと言わざるを得ません。

そこで開発されたのが、ワクチンです。

 

 

ワクチンとは、体に免疫を作らせるために体内に入れるためのものです。

この場合の免疫とは液性免疫のことを指しており、体内に抗体を作らせるということです。

 

ワクチンにはいくつかの種類がありますが、大きく分けると次の2つになります。

1. 感染性ワクチン(生ワクチン)

病原体となるウイルスや細菌の毒性を弱め、病原性を低く抑えた病原体を原材料として作られたワクチンです。弱毒化されていますが、動物の体内で低レベルの感染を起こすことで免疫を獲得させます。

 

2. 非感染性ワクチン(不活化ワクチン)

病原体となるウイルスや細菌の感染能力を失わせたものを原材料として作られたワクチンです。この抗原は、感染も増殖もせず、病気を引き起こさないため安全なのですが、アジュバントと言って、ワクチンの効力を高めるための物質も一緒に投与する必要のあるものが多いです。

 

また、犬や猫のワクチンには、すべての犬・猫に投与するべきコアワクチンと、個々の犬・猫が居住する地域の状況やライフスタイルによって投与すべきか否かを判断するノンコアワクチン等に分類できます。

 

犬・猫用の主なワクチンは下表の通りです。

 

人のワクチン接種も同じですが、愛犬や愛猫にワクチンを受けさせる際、必要以上に副作用を心配される飼い主様もいらっしゃいます。

ワクチンの副作用についても、お話ししておきましょう。

 

ワクチンを接種したことにより、副作用や意図しない有害な反応が生じる可能性があります。

このブログでは、これらをまとめて副作用と言うことにします。

副作用の症状は、注射した部位が赤く腫れたりかゆみが出たりといった部分的なものから、発熱、元気消失、食欲低下、嘔吐、下痢、神経過敏といった全身症状までさまざまです。

特に、ムーンフェイスと言って目・口の周囲が腫れ上がったり、丘疹と言って皮膚に直径1cm以下の小さな発疹が出たりといった症状が、特徴的で有名です。

 

最も重度な場合は、アナフィラキシー反応と言って急激な血圧低下、呼吸困難、虚脱、痙攣、昏睡などの命に関わるような重篤な症状が現れます。

 

しかし、これらの副作用の発現リスクはかなり低いです。

とても軽い症状も含め、犬の10,000頭中38頭において接種後3日以内に発現した(0.38%)とか、猫の10,000頭中52頭において接種後30日以内に発現した(0.52%)という記録が残っています。

 

私は、副作用が発現するリスクとワクチン接種による感染予防・軽症化のメリットを比較すれば、ワクチンは接種するべきだと考えます。

もちろん、副作用のリスクがゼロではありませんので、接種後1時間程度はなるべく動物病院の近くで愛犬・愛猫の様子をよく観察して頂き、何かあったらすぐに動物病院に戻れるようにして頂けると安心できると思います。

 

特に猫の場合は、ワクチンを含めて注射をした部位に「注射部位肉腫」ができる可能性が高いと指摘されています。

特に、アジュバントを添加している不活化ワクチンによる発症リスクが高いとされています。

これに対しても、私たち獣医師は注射を打つ場所を毎回変えたり、万が一肉腫ができた場合にも、摘出しやすい場所に打ったりといった工夫をしています。

 

獲得した免疫力のレベルは、個体によりまちまちです。

中には、ワクチンを接種しても免疫ができない(免疫血清学的検査で陰性になる)という動物もいます。

このような動物はノンレスポンダーと呼ばれており、遺伝的な特性だと考えられています。

ワクチンを正しく接種したのに検査で陰性になってしまう場合でも、前述の自然免疫や細胞性免疫が存在している可能性がありますので、ある程度の感染防御はできている可能性があります。

ただし、感染防御力が低かったり不能だったりする可能性もありますので、普段の生活様式をよく考慮してあげる必要があります。

※検査の費用が高額なため、積極的な検査をおすすめしている訳ではありません

 

 

ワクチンも、ただ摂取すれば効果があるという訳ではありません。

犬や猫の免疫の仕組みを十分に活かせるように、正しい接種の仕方があります。

これを、ワクチンプログラムと言います。

 

同じ感染症に対するワクチンでも、製薬会社によりさまざまですが、つだ動物病院が使用しているコアワクチンは、下記のプログラムで接種することをおすすめしています。

初回接種 :生後2ヶ月(8週齢 or 9週齢)

第2回接種 :生後3ヶ月(12週齢 or 13週齢)

以降   :1年に1回の追加接種を継続して実施

 

生後2ヶ月以前のワクチン接種は、おすすめしていません。

なぜならば、犬も猫も、お母さんの初乳を通して受け取った免疫が、ワクチンの効果を阻害してしまうからです。

初乳を通して受け取った免疫の効果が下がる時期が、生後2ヶ月ごろなのです。

それでも、何らかの事情で生後2ヶ月以前のワクチン接種を希望される飼い主様には、「あと2回接種してください」とお話ししています。

 

それぞれの感染症毎に単独で製剤化されているワクチンもありますが、日本では必要なワクチンが複数入っている混合ワクチンが一般的です。

つだ動物病院では、主に下記のワクチンを使用しています。

 

<犬の場合>

・6種混合ワクチン

コアワクチン+犬伝染性肝炎+犬コロナウイルス+犬パラインフルエンザウイルス

・8種混合ワクチン

上記6種+犬レプトスピラ症(2種類)

 

<猫の場合>

・3種混合

コアワクチン

・5種混合

コアワクチン+猫クラミジア+猫白血球病ウイルス

 

ワクチンの選び方ですが、原則室内飼いで、家の近所の舗装道路を散歩している程度の外出というライフスタイルの犬には6種混合ワクチンを、飼い主様と一緒にいろいろな場所に出かけるようなライフスタイルの犬には8種混合ワクチンをおすすめします。

また、完全室内飼いの猫には3種混合を、外に出かけることの多い猫には5種混合をおすすめしています。

特に頻繁に外に出て、他の猫との接触が多い場合は、5種混合と猫免疫不全ウイルス(猫エイズ)の単独ワクチンを接種するのがおすすめです。

 

成犬、成猫のコアワクチンの接種に関しては、WSAVA(世界小動物獣医師会)がまとめた「犬と猫のワクチネーションガイドライン」をご存知の飼い主様から、1年に1回ではなく3年に1回でも良いのではと聞かれることが増えました。

 

ワクチン接種率の高い欧米でも、コアワクチンの接種率はまだ集団免疫の獲得にまでは到達していないようです。

それでも、日本の接種率と比べるとはるかに高いのが欧米です。

 

私は、ワクチンの摂取には、それぞれの個体に対する免疫獲得の目的の他に、地域における集団免疫の獲得も含まれていると考えています。

今の日本のワクチン接種率は、集団免疫の獲得には程遠い状況です。

成犬や成猫のワクチンプログラムを1年にするか3年にするかの判断は、お住まいの地域や生活環境をよく考慮して判断すべきものです。

感染リスクの高い状況で、かつ横須賀地区の特性を考慮した上で、私は上記のワクチンを年に1回接種することを、おすすめしています。

 

横須賀地区の特性という点では、犬の場合、特にレプトスピラ症の入っている8種混合ワクチンの必要性が、他の地域よりも高いと考えています。

レプトスピラ症は犬から人に感染する人獣共通感染症の一つで、レプトスピラ症と診断した場合、獣医師は保健所に届け出なければならないと定められています。

このレプトスピラ症を媒介するのはネズミなのですが、三浦半島にはその仲間である台湾リスがたくさん生息しています。

しかも、横須賀地区では過去にレプトスピラ症の感染例がありますので、他の地域よりも感染リスクが高いと思っているからです。

 

犬や猫へのワクチンプログラムやワクチンの種類については、以前のブログ『犬と海や川で遊ぶならワクチンは8種がおすすめです。』や『日本と欧米諸国のワクチン事情』もお読み頂ければと思います。

 

 

ここまで長々とお話をしてきましたが、愛犬や愛猫に定期的にワクチンを接種することの大切さをご理解頂けましたでしょうか。

 

特に副作用に関してご心配されている飼い主様は、ワクチンの接種頻度についてもご心配されていることと思います。

特に猫の場合は「注射部位肉腫」の心配もありますが、私たち獣医師も、副作用については注意をしています。

 

今現在、最も安全で低コストということを考慮したワクチンプログラムをご提案させて頂きますので、愛犬や愛猫との生活スタイルや環境について、教えて頂きたいと思います。

 

最後に、つだ動物病院での犬と猫のワクチン接種の費用一覧を下表にまとめましたので、ご参考にして頂ければと思います。

 

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