動物と新型コロナウイルスに関する話

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こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

新型コロナウイルスの感染が日増しに拡大しており、ついに「首相が近く緊急事態宣言を出す意向を固めた」という報道が流れました。

愛犬や愛猫と一緒に暮らしておられる飼い主様におかれましては、香港やベルギーなどで報告されている犬や猫への新型コロナウイルスの感染事例報告などを目にして心配されていらっしゃる方もおられると思います。

 

そこで今回は、動物と新型コロナウイルスに関して現時点で分かっている情報を、簡潔にまとめてお伝えしたいと思います。

 

 

現在、新型コロナウイルスの感染による新型肺炎の発症が世界的に増加していますが、これまでにもヒトに感染するコロナウイルスとして6種類が知られていました。

その内4種類が、ヒトに日常的に感染する風邪のコロナウイルスで、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1です。(HCoV: Human Coronavirus)

風邪の内10〜15%、流行期は35%がこれら4種のコロナウイルスが原因になっていて、ほとんどの子供は6歳までに感染を経験します。

高熱を引き起こすこともありますが、多くの場合は軽症です。

 

残りの2種は、2002年に発生したSARS-CoV(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス)と2012年に発生したMERS-CoV(中東呼吸器症候群コロナウイルス)です。

SARS-CoVはコウモリのコロナウイルスがヒトに感染して重症肺炎を引き起こすようになったと考えられています。

MERS-CoVはヒトコブラクダに風邪症状を引き起こすウイルスですが、種の壁を越えてヒトに感染すると重症肺炎を引き起こすと考えられています。

 

今回問題になっているのは、2019年12月に発生した新型コロナウイルス(2019-nCoV)で、ヒトに感染すると新型コロナウイルス感染症(COVID-19)という新型肺炎を発症します。

 

コロナウイルスはイヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ニワトリ、ラクダなどの家畜やシロイルカ、キリン、コウモリ、スズメなどの野生動物に感染し、さまざまな疾患を引き起こします。

形態あるいは機能のうえで、ある種は共通に持っているが他の種には認められない特色を種特異性と言いますが、コロナウイルスは種特異性が高いため、種の壁を越えて他の動物に感染することはほとんどありません。

 

 

コロナウイルスは種特異性が高いため種の壁を越えて他の動物に感染することはほとんどないというお話をしましたが、新型コロナウイルスに関しては、海外で飼い犬や飼い猫の軽微な感染が4件報告されています。

 

新型コロナウイルスに関してはまだ分からない点が多い段階ではありますが、ペットの感染報告の経緯や現時点で私たち獣医師の間で合意されている解釈についてお話しします。

 

1. 2020/03/18

新型コロナウイルス感染者に飼われていた飼い犬の最初の感染事例が発表された。飼い犬は新型コロナウイルスのPCR検査で陽性となった後、いったん回復して陰性となり、帰宅したが2日後に死亡。17歳の老犬で、心臓病の持病を持っていた。死因については不明。(香港)

 

2. 2020/03/19

飼い犬の感染事例2件目が発表された。犬には症状が出ていない。香港では感染した人や濃厚接触者が飼っているペットの検査を行うように推奨されているために検査を受けた。(香港)

 

3. 2020/03/27

感染者から猫への最初の感染事例が発表された。飼い主の発症1週間後に飼い猫にも下痢、嘔吐、呼吸困難の症状が出、猫の便からウイルスが検出された。現在、猫の体調は快方に向かっている。(ベルギー)

 

4. 2020/03/30

20日に飼い主の感染が判明、30日に飼い猫の検査を実施し、陽性反応が出た。ただし、猫には肺炎などの症状は出ていない。(香港)

 

これらの報告に関し、当初は飼い主様の飛沫等が飼い犬に付着した程度の話で、感染したと断定するのは早いのではないかという見方もありました。

しかし、各国の検査結果を確認したところ、複数回の弱陽性反応が出ていることから、現在ではヒトから動物への感染は起こりうるという見解が一般的になっています。

 

ただし、現時点ではヒトから動物への感染はあるが、動物からヒトへ感染する証拠はなく、ヒト同士の接触による感染のケースと比較すると、そのリスクは無視できるレベルであり、過剰な心配は無用であると考えられています。

 

 

上記の見解から、万が一飼い主様が新型コロナウイルスに感染してしまった場合の対処法について、ご説明します。

 

1. 感染者からの隔離の実施

飼い主様が新型コロナウイルスに感染してしまってご自宅で療養される場合、愛犬や愛猫を感染者から隔離してください。

ウイルスで汚染されたマスクやリネン類などにも接触させないように注意が必要です。

隔離をすることで、愛犬や愛猫にウイルスが付着することを防ぐことができます。

また愛犬や愛猫に症状が出ていない場合は、隔離をすることで自然に感染はなくなるものと考えられます。

もし他にご家族がいらっしゃらず、感染者ご自身がお世話をする場合は、必ずマスクやグローブを装着してお世話をするようにしてください。

また、飼い主様が感染してしまい、他にご家族もいらっしゃらない等により、一時的にご自宅で愛犬や愛猫のお世話をできない状況になった場合は、信頼できる方になるべく早くお預けするようにしてください。

その際、愛犬や愛猫との別れを惜しんで抱きしめたりキスをしたりしてはいけません。

 

2. 愛犬、愛猫に症状が出た場合

新型コロナウイルスに感染していた人と愛犬や愛猫が濃厚に接触したことが分かっていて、その後に愛犬や愛猫の体調が悪くなったという場合は、かかりつけの動物病院に直接行くのではなく、まず電話をしてください。

事前の電話で、飼い主様や愛犬、愛猫の状況をご説明頂き、動物病院からの要請に従った行動をとって頂くようにお願い致します。

また、感染された飼い主様と濃厚な接触をされていない方に連れて来て頂けるようにお願い致します。

 

3. 愛犬、愛猫へのシャンプーの実施と身の回り品の消毒

飼い主様の感染が分かり、ご自宅でお世話をする場合や信頼できる方にお預けする場合は、まず愛犬や愛猫のシャンプーを行いましょう。

愛犬、愛猫の体表に付着しているウイルスによる感染伝播を防ぐためです。

シャンプーをする場合、お湯の勢いを弱くした状態で、毛に当たったお湯がご自身を含む周りに飛び散らないような工夫が必要です。

ていねいにお湯で流した後は、シャンプーをします。

シャンプー後に愛犬や愛猫を拭いたタオルは、一般的な家庭用洗剤で洗濯してください。

また、愛犬、愛猫を信頼できる方にお預けする場合は、キャリーバッグや首輪、リードなども、0.05%に薄めた家庭用塩素系漂白剤で拭き、その後もう一度水拭きをして塩素を拭き取ってください。

なお家庭用塩素系漂白剤は、一旦希釈してしまうと効果が弱くなってしまいますので、使用する都度希釈するようにしてください。

 

4. 飼い主様が入院し、愛犬、愛猫をお世話できる方がいらっしゃらない場合

現在、ヒトの新型コロナウイルス感染者を受け入れることができるような病院に相当する動物病院の体制は整っておりません。

感染してしまった飼い主様が入院し、他に愛犬、愛猫のお世話をできる方がいらっしゃらない場合、愛犬や愛猫をどうするかについては、医師および保健所の指示を仰いでください。

 

 

飼い主様が感染してしまい、ご自宅で愛犬や愛猫のお世話ができない場合は、信頼できる方にお預けしてくださいと申し上げました。

では、愛犬や愛猫を預かって頂ける方に知っておいて頂きたいことについてお話しします。

 

前述の通り現時点では、世界中の専門家が、新型コロナウイルス感染症は犬や猫を含む動物からヒトに移るとは考えておりません。

初期段階のシャンプーと身の回り品の消毒を行った後は、過剰な心配をせずに普通に接してあげてください。

 

なお、猫の場合はシャンプーの前に爪を切り、エリザベスカラーを装着するなどの防御をしておくと良いでしょう。

猫の場合、どうしてもシャンプーが難しい場合は、0.05%のクロルヘキシジン水(商品名:ヒビテン液、ヘキザック液等)や0.02%の次亜塩素酸水などで体を拭くのでも効果があります。

ただし、その場合もエリザベスカラーを装着し、猫が舐めてしまわないようにしてください。

 

また、シャンプーで体表のウイルスを除去しても、感染して体内にウイルスが存在している可能性もあります。

犬や猫とキスをしない、食器を共有しないという衛生管理をきちんと行い、14日間は犬や猫を隔離することが望ましいです。

ベルギーでは、猫の便からウイルスが検出された事例もあります。

糞便の取り扱い時にも、マスクやグローブの装着を行ってください。

 

また、散歩や運動をする場合も、できれば外出を避ける、外出する場合は家の周りだけにする、人混みの多い場所には連れて行かない、他の犬や猫との接触を避ける等、感染を予防できるように過ごしてあげてください。

 

とにかく、愛犬や愛猫を新型コロナウイルスから守る最も大切な予防法は、飼い主様が感染しないようにご自身の身を守って頂くことです。

三密を避ける、マスクの着用や咳エチケットを守る、こまめにうがいと手洗いを行う、無闇に顔を触らない等の感染予防を心がけ、心身ともに健康で過し、この厳しい状況を乗り切りましょう。

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