夏の前だからこそ要注意! 犬の軽度熱中症
本格的な夏が始まる前から温度管理は必要です
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
5月に入ると、体感としては寒い日がなくなり、とは言ってもまだ本格的な夏はこれからという、過ごしやすい時期だと考える飼い主様が多いように思います。
そのため、飼い主様の体感では「エアコンはまだ早い」という感覚かもしれません。
しかし愛犬の健康管理を考えると、既にエアコンを使用すべき時期になっているのです。
今回は、軽度熱中症に焦点を当て、愛犬の健康管理に必要な温度や湿度の管理の重要性についてお伝えしたいと思います。
急激な温度変化に要注意!
5月だと、まだ本格的な夏が訪れる前段階の、いわゆる「春でも夏でもない季節」といったイメージをお持ちの方も少なくないことでしょう。
しかし、5月に入ると急に気温が高くなる日が増えてきます。
この、急に暑くなるというのが曲者で、特に犬は体調を崩しやすいのです。
横須賀市にあるつだ動物病院では、5月頃から、下痢や軟便といった軽い消化器症状を起こした犬の来院が増える傾向がみられます。
その特徴は、急に暑くなった時に体調を崩すということで、私はこれを「軽度熱中症」と呼んでいます。
人の皮膚とは異なり、犬の皮膚の内で汗をかくことができるのは、足の裏側にある肉球の部分だけです。
そのため、犬は人のように、汗をかいて自分の体温を調節することができません。
なぜ汗をかくと体温が下がるのかというと、それは汗が乾燥して気体になる時の気化熱のせいです。
液体が蒸発して気体になるためには、熱が必要です。
そのため、汗が乾いて気体になる時に身体の中の熱が奪われて、体温が下がるという訳です。
では、肉球でしか汗のかけない犬は、どのようにして体温を下げるのでしょうか。
それは、呼吸方法の変更です。
普段、犬は鼻で息を吸い、鼻で息を吐いています。
普段というのは、気温が26℃未満で、かつ犬が安静にしているか、またはゆっくりと走っている時のことです。
しかし、気温が30℃以上になったり、少し早めに走ったりした時には、鼻で息を吸い、鼻と口で息を吐くようになります。
さらに気温が上昇したり、全速力で走ったりした時には、鼻と口で息を吸い、鼻と口で息を吐くようになります。
口を大きく開けて舌を出し、ハァハァと荒い呼吸をしている愛犬を見たことのある飼い主様は多いはずです。
このような呼吸方法に変えることで、犬は口の中、鼻腔内、気管などの粘膜から蒸発する水分の気化熱を利用して、体温を下げているのです。
雨でずぶ濡れになったり、お風呂から上がった後に濡れたままぶらぶらしていたりすると、急に寒気がして風邪をひいてしまったという経験はありませんか?
これも、この気化熱により体温が奪われてしまったことによる現象です。
このように、全身から汗を流し、その気化熱で体温を調節できる人間と比べると、犬の体温調節はとても非効率であることがお分かり頂けるのではないでしょうか。
また、気化熱を利用して体温を下げるためには、湿度も重要になってきます。
気化熱を発生させるためには、水分を蒸発させなければなりません。
そのためには、水分が乾きやすい環境が必要なので、湿度を低くして蒸発しやすくしてあげることが重要なのです。
人の感覚では、「まだ夏前だからエアコンは早すぎる」と思うかもしれません。
しかし、今の時期からエアコンを使って上手に温度と湿度の管理を行うことは、愛犬の健康管理上、とても大切なことなのです。
軽度熱中症の症状
では、軽度熱中症とはどのような状態なのかについて、ご説明します。
本来、熱中症は高温・多湿な環境下で引き起こされる、脱水による全身性の症状で、重度の場合は生命の危険もある症状です。
私が軽度熱中症と呼んでいる症状は、熱中症まではいきませんが、高温や高湿度により身体にこもってしまった熱により体調が崩れた状態のことです。
よくみられる症状は、下痢や軟便、食欲不振ですが、他にも元気消失、反応の低下、場合によっては発熱がみられる場合もあります。
私たち人間でいうと、「夏バテ」と似たような状態だと考えても良いでしょう。
これらの症状を見逃して放っておいてしまうと、体がふらついたり息苦しそうになったり、さらにひどくなると体が痙攣したりといった、熱中症に進んでしまうかもしれませんので、愛犬の不調には早く気がついてあげられることが大切です。
軽度熱中症の予防
愛犬の軽度熱中症を予防するためには、いくつか気をつけなければならないポイントがあります。
それをまとめると、以下のようになります。
1. 規則正しい生活を送ること
規則正しい生活を送ることで、体調を整えることができます。
人間も、毎日不規則な生活を続けていると体調を崩しますが、それと同じことです。
毎朝同じ時間に起き、同じ時間に散歩し、同じ時間に食事をし、同じ時間に寝る。
人間と同様に、愛犬にも規則正しい生活を送らせるようにしてあげましょう。
また規則正しい生活は、犬にとって精神的な安定ももたらすことができますので、普段から心がけてあげましょう。
2. 水分をしっかりと摂らせる
前述の通り、暑くなると汗をかけない犬は口を開けて舌を出し、口も使ってハァハァと荒い呼吸をします。
汗はかきませんが、この呼吸による水分の蒸発も馬鹿にはできません。
そのため、暑い日は特に水分をしっかりと摂らせて、脱水しないように気を付ける必要があります。
新鮮な水を複数箇所に置き、いつでも飲めるようにしてあげましょう。
また、あまり水を飲みたがらない場合は、ドライフードをウェットフードに変えるとか、ドライフードに水をかけるなどの工夫も有効でしょう。
3. 温度と湿度の管理
なんといっても重要なのが、温度と湿度の管理です。
以前、「老犬の残暑ケア」というブログにも書きましたが、犬に適切な温度は、人に心地よい温度よりも少し低めです。
人の場合は、エアコンを26〜27℃に設定する場合が多いと思いますが、犬のためには20℃位が適温で、つだ動物病院でも入院室の温度は20℃に設定しています。
そして、湿度の管理もとても重要です。
湿度が高いと熱中症にかかりやすくなります。
エアコンの除湿機能や除湿機等を活用して、室内の湿度が60%以下になるように調節しましょう。
湿度が60%以下であれば、室温が20℃より多少高くても安心です。
飼い主様と愛犬の双方が快適に過ごせるためには、湿度の管理が鍵になると考えても良いでしょう。
なお、散歩時の外気温と室内温の温度差が大きすぎるのも、体調を崩す原因となります。
散歩の時間や場所などは、この点も配慮して決めてあげましょう。
大型犬、高齢犬、肥満犬は特に注意しましょう
小型犬よりも大型犬の方が軽度熱中症になりやすい傾向があるように感じています。
そして、高齢や肥満も、軽度熱中症になりやすい要素です。
特に太っている大型犬の場合は、梅雨時に「熱中症」になることもありますので、十分な注意が必要です。
つだ動物病院に軽度熱中症で来院された犬の飼い主様がよくおっしゃるのは、「昨年の今頃は元気だったのに」ということです。
そのような時は、「犬は1年で人間の5歳分の歳をとりますからね」とか、「ワンちゃん、昨年よりも太りましたからね」と応えています。
愛犬を太らせないようにすることは飼い主様にもできますが、歳を取らせないようにはできません。
愛犬との暮らしが長くなればなるほど、健康管理への配慮も深くしていかなければならないと考えましょう。
愛犬が体調を崩す原因を理解し、正しく健康管理することが大切なのです。
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