季節の変わり目は換毛期 その理由と注意点
季節の変わり目は犬や猫の毛が生え換わる時期
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
一緒に暮らしている犬や猫は、ごく一部の品種を除いて全身がふさふさの被毛に覆われています。
私たち人間も全身が毛に覆われてはいるのですが、犬や猫の被毛とはちょっと異なっています。
初めて犬や猫と一緒に暮らした飼い主様が最初に感じる「驚き」は、ある季節になるとごそっと増える抜け毛の問題かもしません。
今回は、夏を迎える前と冬を迎える前の、季節の変わり目に訪ずれる「換毛期」について、なぜ起こるのか、お手入れの方法、そして注意すべき点についてお伝えしたいと思います。
犬や猫の被毛の仕組み
全身を覆って体を守っている皮膚は、主に角化細胞が密に積み重なったタイルのような構造をしています。
角化細胞は、一番奥の層である基底層から分化を始め、分裂を繰り返しながら次第に上の層へと移動し、最後は最上層の角質層を形成し、フケとなって離脱します。
角質は、陸上の環境に適応するために進化した、強力な皮膚のバリアツールで、ケラチンなどのタンパク質が重要な役割を果たしています。
毛とは、この皮膚の角質から変化した角質器の一種で、哺乳類にしかありません。
ちなみに、毛以外の角質器には、爬虫類の角鱗や鳥類の羽毛、くちばし、哺乳類の爪、蹄、角などがあります。
では、犬や猫の被毛の仕組みについてご説明しましょう。
犬や猫の毛には触毛(ひげ)と被毛があります。
どちらも毛なのですが、役割が異なりますので、今回は被毛のみを対象に話を進めていきます。
被毛は皮膚を覆った形で皮膚の外側にありますので、皮膚のバリア機能にとって重要な役割を担っており、外敵(ウイルス、細菌等)が体内に侵入したり、紫外線により皮膚がダメージを受けたりするのを防いでいます。
また、クッション材として衝撃を吸収することでも、皮膚へのダメージを防いでいます。
と同時に、体温の調節を行ったり、感覚器として働いたり、仲間とのコミュニケーション・ツールとしても働いたりと、さまざまな役割を担っているのです。
犬や猫の被毛のタイプには二種類があります。
太くて硬い一次毛(剛毛、保護毛)と細くて柔らかい二次毛(細毛、柔毛)です。
一次毛は、上毛とかオーバーコートとなどとも呼ばれており、二次毛は下毛とかアンダーコートとも呼ばれています。
そして、品種により上毛と下毛の両方を持つダブルコートの犬や猫もいれば、上毛または下毛のみを持つシングルコートの犬や猫もいます。
ダブルコートやシングルコートと毛の長さ(長毛、短毛)は関係がありません。
ご参考までに、犬と猫の被毛タイプ別品種の代表例を挙げておきます。
<ダブルコートの犬>
(1) 長毛種
ゴールデンレトリーバー、シェットランドシープドッグ、スピッツ、ポメラニアン、チワワ、キャバリア等
(2) 短毛種
柴犬、秋田犬、ウェルシュコーギー、シベリアンハスキー、ラブラドールレトリーバー、フレンチブルドッグ、ジャーマンシェパード、ジャックラッセルテリア等
<シングルコートの犬>
(1) 長毛種
プードル、マルチーズ、ヨークシャーテリア、パピヨン、アフガンハウンド等
(2) 短毛種
グレーハウンド、ミニチュアピンシャー、グレート・デーン等
<ダブルコートの猫>
(1) 長毛種
ソマリ、ペルシャ、ヒマラヤン、ノルウェージャンフォレストキャット等
(2) 短毛種
アメリカン・ショートヘア、アビシニアン、ロシアンブルー等
※いわゆる日本猫と呼ばれている猫(雑種)には、長毛種、短毛種いずれの場合もダブルコートが多いと言われています
<シングルコートの猫>
(1) 長毛種
ターキッシュ・アンゴラ、メイン・クーン等
(2) 短毛種
シャム、シンガプーラ、コーニッシュ・レックス、デボンレックス等
毛の成長サイクル:毛周期
被毛を構成している毛は、一定の周期で成長し、脱落していきます。
このような毛の成長サイクルを、毛周期と言います。
毛周期は、成長期(決められた長さまで成長する時期)、退行期(成長を止める時期)、休止期(毛が脱落して新しい毛を作る準備をする時期)の3段階で構成されます。
毛周期を変化させる要因には、いくつかあります。
・毛の長さを決める遺伝子(短毛種よりも長毛種の方が成長期が長い)
・日照時間(日照時間が長くなると毛の成長が促される)」
・気温(暑くなる前(春)と寒くなる前(秋)に換毛が起こる)
・栄養状態(低栄養の場合、成長期の毛の産生量が減少する)
・神経(神経が麻痺すると毛周期が長くなったり短くなったりすることがある)
・剃毛(特に犬の場合、毛を短く剃ることで毛の成長がしばらく停止することがある)
・ホルモン(脳、甲状腺、副腎、生殖器で産生されるホルモンは毛周期を調整する)
ビーグルを例にすると、毛の成長は1日につき0.3〜0.5mm程度と言われています。
また一般的に、1年間で体重1kgにつき60〜180gの毛が産生されると言われています。
このように、被毛は絶えず毛周期が繰り返されて抜け毛が発生するのですが、上記の要因の内、日照時間と気温により生じると考えられているのが「換毛」です。
換毛とは、字の通り「毛が抜け換わる」ことです。
最初の方で、被毛の役割の一つに「体温調整」があると話しました。
人のように洋服で体温調整ができない犬や猫は、暑い時期に適した夏毛と寒い時期に適した冬毛とを使い分けて体温を調整しています。
つまり、犬や猫の換毛とは、人の衣替えのようなものだと考えれば良いでしょう。
夏毛は少し硬めな毛で密度が荒い上毛が多くなり、通気性をよくします。
冬毛はふわふわと柔らかい毛で密集して生える下毛が多くなり、保温性を高めます。
この夏毛から冬毛に、または冬毛から夏毛に生え変わることを換毛と言い、換毛が起こる時期を換毛期と言うのです。
全身の毛が一気に抜ける訳ではありませんが、1〜2ヶ月かけて、大量の毛が抜けて新しい毛に生え替わります。
その間は、毎日驚くほど大量の毛が抜けるので、飼い主様にとっては頭の痛い期間だと言えるでしょう。
夏毛と冬毛の話を聞くと、シングルコートの犬や猫は換毛期がないと思われるかもしれませんが、必ずしもそうとは言い切れません。
ただ、ダブルコートの品種の方が、シングルコートよりも換毛期の抜け毛量が多い傾向にあると考えても良いでしょう。
これから犬や猫を家族に迎えようと考えていらっしゃる飼い主様は、参考にしてください。
換毛期ですが、一般的には春と秋に訪れます。
地域にもよりますが、春の換毛期は5〜7月、秋は9〜11月頃が目安です。
ただし、最近は換毛期がはっきりしない犬や猫たちも増えてきているようです。
犬も猫も室内飼いが増えており、日照時間や気温の変化があまり感じられないからだと考えられています。
きちんと換毛期を迎えさせることで健康な皮膚と被毛が作られますので、犬の場合はお散歩の時間を長めに取って気温の変化をしっかり感じさせる等の工夫をしてみてください。
換毛期のお手入れ
犬も猫も、普段からブラッシングは大切なお手入れの一つですが、特に換毛期のブラッシングは大切になります。
換毛期にはたくさんの毛が抜けますが、抜けた毛が全て空中に舞ったり床に落ちたりする訳ではありません。
多くの抜け毛や抜けかけた毛が、被毛についた状態になっています。
犬や猫は、グルーミングと言って自分で自分の体や仲間の体を舐めることで、自らのお手入れをしたり、気持ちを落ち着かせたり、仲間とのコミュニケーションをとったりしています。
その際、抜け毛を舐めとり、そのまま飲み込んでしまうことが多いのです。
特に換毛期のように抜け毛が多い時期には、とても大量の毛を飲み込んでしまいます。
それを少しでも減らしてあげる手段が、ブラッシングなのです。
ブラッシングとは、犬や猫専用のブラシで全身の被毛を梳いてあげることです。
犬や猫の毛は、皮膚に対して直角に生えている訳ではなく、頭から尾の方へ向かって30〜60度程度の角度がついています。
それが、被毛の流れを作っています。
したがって、ブラッシングは頭から尾の方へ、毛の流れに沿って梳くようにしましょう。
ブラシには、材質や形状の異なるものがあります。
愛犬や愛猫の毛質に合い、かつ彼らが好んでくれるブラシをみつけて使用しましょう。
目安としては、短毛種の場合はラバーブラシ、ピンブラシ、コーム、ソフトタイプの絨毛ブラシが、長毛種の場合はスリッカーブラシ、ピンブラシ、コーム、ハードタイプの絨毛ブラシなどが良いと言われています。
最初にスリッカーブラシやラバーブラシなどのブラシで毛玉を解きほぐして抜け毛を落とした後、コームで毛の流れを整えるという手順になります。
ラバーブラシは、皮膚のマッサージにもなります。
ブラッシングを嫌がる犬や猫には、ミトンタイプのブラシを試してみるといいかもしれません。
小さい頃からブラシに慣らして、「ブラッシングは気持ちがいい」と思わせるようにしておくと良いでしょう。
また、特に長毛種の場合は、こまめなシャンプーも抜け毛の除去に効果的です。
ただし、シャンプーのやり過ぎは禁物です。
愛犬や愛猫の体質も考慮して、適切な頻度と適切なシャンプー剤で行ってください。
また、シャンプー後にしっかり乾燥させ、かつ保湿ケアを行うことは、皮膚のためにとても重要なので、意識してあげましょう。
換毛期の抜け毛はとにかく量が多いので、室内の掃除や衣類、家具などについた毛の掃除もこまめに行いましょう。
抜け毛の飛散を防止するために、犬や猫に洋服を着せるのも効果がありますが、長時間着せてしまうと蒸れてしまいよくありませんので、注意しましょう。
換毛期に多い毛球症
最後に、換毛期に多い毛球症についてです。
毛球症は、犬にはまれですが、猫には多い病気です。他には、フェレット、ウサギなどにもみられます。
グルーミングの際に毛を飲み込むという話をしましたが、猫は飲み込んだ毛を適度に吐き出してうまく処理しています。
しかし、うまく吐き出せずにいると、飲み込んだ毛が胃の中に溜まってしまい、ボール状になってしまいます。
これが、毛球症です。
毛球症になると、食欲不振や嘔吐などを起こします。
また、腸に毛玉が詰まって排泄できなくなることもあります。
そうなると、開腹手術により毛玉を取り出さなければならない場合もあるのです。
猫の場合、毛球症対策を施した高繊維食を与えたり、猫草を与えて嘔吐を促したりすることで予防できます。
が、とにかくこまめなブラッシングにより、飲み込む毛の量を減らすことが一番の予防策です。
特に、ウサギの場合は嘔吐することができないので、胃の中の毛玉はどんどん大きくなっていき、最悪命を脅かす場合もあります。
毛球症で死にいたるウサギは少なくありません。
ある意味、ウサギは猫以上に毛球症の対策が必要な動物と言えるでしょう。
以上、換毛期を中心に抜け毛のお話をしてきました。
抜け毛の多い換毛期は、普段以上に被毛のお手入れや室内の掃除に気を使ってあげましょう。
また、換毛期ではないのに抜け毛が多いという場合は、病気の可能性があります。
心配な場合は、早めに動物病院へ連れていき、診察を受けさせてください。