意外と知らない犬の肉球のお話

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こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

皮膚というのは、外部からの刺激によって角質を厚くさせる性質があります。

それは、自分自身の身を守るためです。

人の足の裏の皮膚は他の部分の皮膚よりも厚くなっていますが、それは足の裏が全体重を支え、歩く際に摩擦などの刺激を受けているからです。

 

犬の全体重を支え、地面と接触して刺激を受ける部位は肉球です。

犬は裸足で行動しますので、犬の肉球はそれだけ過酷な環境の下にあるという訳です。

今回は、犬の肉球について、その構造や役割、肉球でよくみられるトラブルや普段気をつけるべき点、ケア等についてのお話をしたいと思います。

 

 

肉球があるのは、犬と猫だけではありませんが、人にはありません。

肉球は、主として陸上で生活をする食肉目の足の裏にあるのです。

 

陸生の食肉目は、イヌ、ネコ、クマ、パンダ、アライグマ、イタチ、ジャコウネコ、ハイエナの8科だけで、人は霊長目なので肉球がありません。

犬や猫以外でよく人と一緒に暮らしている動物のうち、ウサギはウサギ目なので肉球がなく、足の裏全体が被毛に覆われています。

 

犬の肉球は、大きいもの、小さいもの、少し離れた場所にあるものと複数あり、それぞれに名前がついています。

基本的には、爪の生えているすぐ下にそれぞれ小さい肉球があり、真ん中に大きな肉球が1つあります。

前足には人の親指にあたる指があり、狼爪(ろうそう)が生えていますが後ろ足にはありません。

そのため、前足と後ろ足でも肉球の数が異なります。

 

<前足>

爪のすぐ下にある5つの小さな肉球:指球(しきゅう)

指球の下にある一番大きな肉球:掌球(しょうきゅう)

手首のあたりにある肉球:手根球(しゅこんきゅう)

 

<後足>

爪のすぐ下にある4つの小さな肉球:趾球(しきゅう)

趾球の下にある一番大きな肉球:足底球(そくていきゅう)

 

犬の足跡を見ると、前足も後ろ足も同じように見えますが、それは犬が足先(爪先)だけを地面に付けて歩いているからです。

 

 

肉球はプニプニとした独特な感触ですが、他の皮膚と同じように表皮、真皮、皮下組織から構成されています。

ただ、肉球の表皮はとても厚く、一番表面の部分は分厚い角質で覆われています。

 

表皮を覆っている角質層はスパイクのような突起が密集している形状をしていて、その摩擦力がブレーキや方向転換時のグリップとして役立っていると考えられています。

また表皮の部分は、地面に近い部分がハニカム構造になっています。

ハニカム構造は、表裏2枚の面の間に薄い材料でできた蜂の巣状の芯材を厚さ方向に挿入して一体化した構造のことを言い、飛行機、宇宙船などの構造部分にも応用されている、軽くて強度のある構造です。

最近、ハニカム構造で弾力性の高い材質でできたクッションのコマーシャルがよく流れています。

ハニカム構造のクッションは、体圧が分散するので腰にかかる負担が軽減できるというのが売りなのですが、肉球の表皮もハニカム構造となっていることで、体重を肉球全体に分散し負荷を軽減しているのだと思われます。

 

そして真皮や皮下組織は、脂肪や弾性線維のエラスチン、膠原線維のコラーゲンが混在した、とても弾力を持った柔らかい組織になっています。

このように、犬の肉球は表面を覆う角質、分厚い表皮、真皮、皮下組織のすべての層が相互に影響し合い、歩行時の衝撃を吸収し、関節や筋肉への負担を和らげているのです。

 

ここでちょっと豆知識です。

犬の肉球と猫の肉球を比べてみると、2つの違いがあります。

猫の肉球は、犬の肉球と比べると表面が薄くてツルツルしています。

(上の写真は猫の肉球です。犬の肉球との質感の違いが分かるでしょうか)

また、犬の肉球の内部は、動脈と静脈がすぐそばを並走するように配置されています。

この2つの違いは、何故生まれたのでしょうか。

 

これは、それぞれの祖先が生まれ育った環境に起因していると考えられています。

犬の祖先はオオカミだといわれています。

オオカミは、雪が降る寒い環境で暮らしていました。

そのため、冷たい地面や雪が積もった地面の上を走らなければなりませんでした。

そこで、凍った地面でもうまく走れるようなスパイク状の表面と、冷えた静脈を温めてくれる動脈がすぐ側に並走する構造になったのだろうと考えられています。

 

猫の祖先はリビアヤマネコだといわれています。

リビアヤマネコは暖かい地域で生活していたため、肉球の表面を犬ほど丈夫にする必要がありませんでした。

その代わり、爪を自在に引っ込めることのできる猫は、肉球で音もなく獲物に忍び寄ることができるようになったと考えられています。

 

 

さて、分厚くて丈夫にできている犬の肉球ですが、やはり直接地面に接触していますので、トラブルが生じることもあります。

犬によく見られる肉球のトラブルを挙げると、下記のようになります。

 

<爪の間に異物が挟まる、怪我をする>

散歩の時に、爪の間に小枝や小石などの異物が挟まったり、肉球に怪我をしてしまったりすることがあります。

最初は大した怪我ではなくても、違和感を感じた犬が足先を舐め続けることで炎症を起こしてしまい、皮膚炎などに発展してしまうこともあります。

散歩から帰ったら足の裏を確認し、タオルで拭くなどにより綺麗にし、怪我をしていたらすぐに手当てをしてあげるようにしましょう。

 

<イボのようなものができている>

歳を取ることで、犬にもイボができやすくなります。イボが引っかかって出血することもありますので、イボができたときには足の拭き方等には注意してあげましょう。

また、イボのように見えて、実は外部寄生虫だったり腫瘍だったりする場合もあります。

気になる場合は一度動物病院に相談してみましょう。

 

<肉球が赤く腫れている>

いつもよりも肉球が赤く腫れているような場合は、炎症を起こしていると考えられます。

炎症の原因は、アレルギー、常在菌の異常増殖、怪我などを気にして舐めすぎたなど、さまざまなことが考えられます。

愛犬が足先を気にしている様子に気づいたら、やはり動物病院に相談してください。

 

<乾燥、ひび割れ>

愛犬を清潔に保つことは大切なことですが、あまりにも洗い過ぎてしまうと、皮膚の表面に必要な油分まで失ってしまい、かえって乾燥させカサカサしてしまったり、粉を吹いたり、ひどくなるとひび割れを起こしたりしてしまうことになります。

そうなると、傷口から雑菌が入って炎症を起こす原因になりかねません。

洗い過ぎに注意すると共に、水洗いした後はしっかりと乾燥させた後に保湿を行うようにしましょう。

 

<火傷>

真夏のアスファルトや砂浜などでの散歩は、火傷の原因になります。

お住まいの地域にはアスファルトの道しかないということもあるでしょうから、夏になったら散歩の時間帯を日が陰って涼しい時間帯にずらすなどの工夫をしてあげましょう。

 

<冷たい>

病気や加齢などにより体温が低くなると、肉球が冷たくなります。

呼吸器系の病気や泌尿器系の病気、感染症などの犬を看病されている飼い主様は、時々肉球を触って体温を確かめてみると良いでしょう。

肉球が冷えているときは、エアコンや毛布などで体を温めてあげるようにしましょう。

 

<肉球が硬い>

犬ジステンパーウイルス感染症という病気があります。

とても致死率の高い恐い病気で、発熱、鼻水、咳、くしゃみ、嘔吐、下痢といった症状がみられ、ひどくなると麻痺やけいれんなどの神経症状も現れます。

この病気の大きな特徴は、ハードパッドといって、鼻や肉球の皮膚が角質化して硬くなることです。

ワクチン接種で予防できます。

 

 

犬も、自然豊かな環境の中で、草むらや舗装されていない地面の上ばかりを歩いているのであれば、良いのかもしれません。

しかし、実際にはアスファルトの上などでしか歩けない環境にいる現代の犬には、ある程度の肉球ケアも必要なのかもしれません。

 

前述の通り、洗い過ぎのような過剰なケアは不要だと思いますが、基本を押さえて足の裏の清潔を保つことが基本です。

個々の愛犬の体質や性格に合わせたケアを考えてあげましょう。

 

アトピー性皮膚炎の犬を散歩させるときに洋服や靴を履かせてアレルゲンを排除するとか、真夏や真冬には、散歩の時間やコースを調整する、暑さ寒さの厳しい時期の散歩には靴を履かせるといったことは、効果があると思います。

また肉球が乾燥してカサカサしている場合は、保湿クリームを塗って悪化させないようにすることも効果が期待できます。

 

肉球は、愛犬の体を支える大切な器官です。

日々のチェックと状況に合わせたケアで、愛犬が長く健康に過ごせるようにしてあげましょう。

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