愛犬愛猫のサマーカットは必要か
サマーカットとは
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
梅雨も明け、いよいよ夏の本番がやってきますね。愛犬や愛猫の暑さ対策の一つにサマーカットがあります。時々、極端に短く刈られたサマーカットを見かけることがあります。特にSNSなどに多い気がしています。
サマーカットとは、主に夏に犬や猫の被毛を本来の長さよりも短く刈り込むことを言います。短くする長さについては、特に決まりはありません。少し短く切り揃えても、バリカンでツルツルに刈り上げても、また一部だけを刈っても全身を丸刈りにしても、サマーカットです。
また、暑さ対策で夏に行うことが多いので「サマーカット」と呼ばれていますが、暑さ対策以外の目的で秋や冬でも刈り込むことがあり、それも「サマーカット」と呼ばれることがあります。
サマーカットにもいろいろなやり方があり、場合によっては致命的なデメリットが発現する可能性もあります。サマーカットを行う場合には、きちんとメリットやデメリットを理解した上で、実施の是非を判断していただきたいと思っています。
そこで今回は、サマーカットのメリットやデメリットをご説明した上で、その必要性について考えてみたいと思います。
サマーカットには賛否両論
犬や猫は、全身が被毛に覆われているため、夏の暑さは辛いだろうと暑さ対策に軽い気持ちでサマーカットを行う飼い主様もいらっしゃるようです。しかし、被毛には被毛の役割があります。それを理解した上で行わないと、思わぬ失敗をしてしまうこともあるのです。そのため、犬や猫のサマーカットについては、専門家の間でも賛否両論が存在しています。
元々犬や猫には換毛期があり、季節に応じて夏毛と冬毛が生え替わり、体温調節ができるようになっています。また、被毛があることで皮膚と外気の間に空気の層ができ、それが断熱材としての役割を果たしています。その被毛を短く刈ってしまうことで断熱効果がなくなり、皮膚が直射日光をダイレクトに受けるようになることのマイナス面は否めません。
とは言え、寒い地域原産の犬種や猫種は、寒い地域に適した長い毛が密に生えており、日本の高温多湿の夏には、自然な姿のままでは体温調節が追いつかず、辛いのも事実でしょう。
つまり犬にも猫にも、それぞれのメリットとデメリットを考慮した上で、サマーカットの是非を考えるべきだと思うのです。
サマーカットのデメリット
サマーカット、特に極端に被毛を短くしてしまうサマーカットには、下記のようなデメリットを挙げられます。
・被毛が作り出す空気の層による断熱効果がなくなり、熱中症のリスクが高まる
・皮膚が剥き出しに近い状態になるため、蚊に刺されやすくなる
・皮膚が日焼けで黒くなる、日光性皮膚炎になる等の場合がある
上記は、被毛が短くなることによるデメリットでした。他にも、科学的な原因はわかってはいないものの、手術やトリミングなどで毛を刈った部分の毛が生えてこなくなる、バリカン後脱毛(毛刈り後脱毛)症になる場合があることが分かっています。通常は、サマーカットにした後、半年〜1年程度で元の状態に戻るのですが、それがずっと短いままで元に戻らないのです。
特にポメラニアンやアラスカン・マラミュートなどに多いといわれていますが、他の犬種にもみられます。毛を刈った場所の毛だけが生えてこなかったり、生えてきてもまばらだったりし、他には特にかゆみや発赤、湿疹などもなければ元気や食欲も通常通りという症状が特徴的です。
毛刈り後脱毛症には、特に有効な治療法が分かっている訳ではないため、経過観察をするしかありません。また、数年以内に自然に発毛してくることが多いです。
また、刈った部分の毛が生えてきた場合でも、毛質が変わってしまって硬くなってしまうという症状を出す子もいます。
これらのデメリットを知ると、決して単に「見た目が可愛い」という理由だけでサマーカットをするべきではないことがお分かりいただけると思います。これらのデメリットと、下記にご説明するメリットの両方をよく考えた上で、サマーカットの是非を検討することが大切です。
サマーカットのメリット
サマーカットに賛成されている方達のご意見には、下記のようなものが挙げられます。
<暑さ対策>
・毛を適度に短くすることで風が通りやすくなるため、愛犬や愛猫が涼しくなる
<お手入れ対策>
・毛が短くなると絡まりにくくなるため、毛玉ができにくくお手入れが楽になる
<メディカルトリミング目的>
・皮膚の状態がわかりやすいため、皮膚病の改善や予防につながる
・抜け毛が少なくなるため、毛球症の予防になる
・持病や障害を持っている犬や猫の該当部位の異変に気づきやすくなったり、体重の変化に気づきやすくなったり、マッサージなどの治療やケアがやりやすくなる
メディカルトリミングとは、美容目的のトリミングではなく、獣医師や看護師、トリマーが連携して健康管理や病気の治療などのために行うトリミングのことです。冒頭で、秋や冬に行っても「サマーカット」と書きましたが、メディカルトリミングが目的の場合は、暑さに関係なく1年中サマーカットをした状態で過ごすことも少なくありません。
デメリットも含めて考えると、暑さ対策はサマーカット以外にもさまざまな方法がありますので、メディカルトリミングが必要な状態かどうかを基準に、かかりつけの動物病院と相談をして決められることをおすすめしたいと思います。
犬や猫のサマーカットに関するポイント
ポイント
・見た目の可愛さや暑さ対策目的で安易にサマーカットを選ぶべきではない
・サマーカットのメリットとデメリットを考えて実施の是非を決めましょう
・サマーカットを行う場合でも、極端な刈り上げは避けた方が良いでしょう
・犬、特にポメラニアンやアラスカン・マラミュートは毛刈り後脱毛症に要注意
・メディカルトリミングにはメリットも多い