気圧の変化がペットに与える影響
犬や猫にもある気象病
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
「猫がよく眠ると雨」など、動物と天気にまつわることわざはたくさんあります。このことわざは、いつもは元気に遊んでいる猫がずっと眠っている場合は、もうすぐ雨が降ってくるサインであるという意味で、気象病が関係していることわざだと考えられています。
気象病とは、気圧や湿度、気温などの変化が引き起こす体調不良の総称です。人間だけではなく、犬や猫、うさぎ、ハムスターや小鳥などにも起こることが分かっています。ただし、これらの人間や動物たちのすべてが同じように発症するわけではなく、気象の変化を敏感に感じ取って発症する子もいれば、一切影響を受けない子もいます。
発症するかしないか、また発症した場合はその程度がどのくらいかといったことは、それぞれに異なるため、発症する条件や症状を一概にこうだと断定することはできません。しかし、持病を抱えていたり、高齢であったり、普段から物事に敏感な子は、気象病を発症しやすいと考えられています。
今回は、ワンちゃんや猫ちゃんの気象病についてお伝えしたいと思います。
気象病の仕組み
どのような気象条件がどのように体に作用して気象病を発症するのかは、詳細には解明されていません。しかし、気圧が大きく関係していると考えられています。気圧を感知している器官は内耳です。内耳が気圧の変化を察知するとその情報を脳に伝え、脳が自律神経を活発化させます。
この気圧変化を察知する感度に個体差があり、敏感な個体は気圧の少しの変化にも過剰に反応してしまうために、さまざまな症状が発症するのだと考えられています。
例えば、気圧が下がると体内の圧も下がります。そうすると血管や関節包が拡張してしまいます。すると、血流が滞ったり関節周囲の神経が圧迫されて痛みが発生したりします。それを元に戻そうと、自律神経が血圧や脈拍を上げようと働きかけて、動悸や血圧の上昇が起こるといった具合です。
ただし、症状が出るタイミングは気圧が急激に下がった時、気圧が下がりきった時、下がった気圧が元に戻る時など、その子によってまちまちです。比較的多いと考えられているのが、気圧が急激に下がった時です。そのため、台風が近付いてきている時に具合が悪くなるというケースが多いようです。
例えば関東地方にお住まいのワンちゃん、猫ちゃん達は、沖縄近辺に台風が近付いてきたタイミングで具合が悪くなる事が多いといわれています。冒頭でご紹介した「猫がよく眠ると雨が降る」というのも、猫に気象病の症状が現れてしばらくした後に低気圧がやってきて、雨が降るという理屈に合致していますね。
ワンちゃんや猫ちゃんが気圧の変化に伴って見せる気象病の症状には下記のようなものがあるといわれています。
・眠る時間が増える
・普段以上に甘えるようになる
・暗い場所や狭い場所でじっとしている
・食欲がない
・震えている
・落ち着きがない
・攻撃的になる
・よだれ、下痢、トイレ以外での粗相などが見られる
・犬の場合、散歩に行きたがらない など
影響を受けやすい持病
前述の通り、普段から敏感なワンちゃんや猫ちゃんは気象の影響を受けやすいと考えられています。同じように、持病を持っている子も影響を受けやすいといわれています。特に持病を持っている場合、病気の症状が悪化しやすいのです。以下に、気圧の変化に影響を受けやすいと考えられている持病をご紹介します。
<てんかん>
てんかんは、脳内で異常な電気信号が生じ、発作を繰り返す病気です。発作の内容はさまざまで、気を失い倒れて全身をけいれんさせる全身発作もあれば、体の一部がけいれんする焦点発作もあります。また、原因となる病気が明確な症候性てんかんと、原因不明の特発性てんかんに分類されます。
症候性てんかんの原因となる病気には、脳腫瘍、血管障害、外傷などさまざまなものがあります。犬のてんかんは特発性てんかんがほとんどですが、猫のてんかんは、脳腫瘍、脳炎、外傷などの症候性てんかんがほとんどです。
いずれにしろ、気圧の変動を受けててんかんの発作が悪化しやすくなります。
<水頭症>
脳や脊髄は、脳脊髄液の中に浮かんでいます。脳脊髄液が外部からの衝撃を吸収して守っているのです。この脳脊髄液が異常に溜まると脳圧が高まり、けいれん発作や意識障害、麻痺、嗜眠(強い刺激を与えないと目覚めない)といった症状が表れる病気が水頭症で、チワワなどの頭が小さい超小型犬によく見られます。
気圧が急激に下がると、脳圧を急激に上昇させるために症状が悪化しやすくなります。
<脊髄空洞症>
脊髄の中に空洞ができ、脊髄を内側から圧迫することでさまざまな神経症状や全身症状を起こす病気です。空洞といっても中には脳脊髄液が溜まっています。痛みや不快感を覚えて首をかきむしる、歩き方がおかしくなる、元気や食欲がなくなる、重度の麻痺が出るなど、空洞ができた位置や大きさによって症状はさまざまで、気圧の変化により症状が悪化しやすくなります。
<関節炎>
気象病の仕組みでも説明したように、気圧が下がることで血管や関節包が拡張します。それが原因となり周囲の神経などが圧迫されることで、関節炎などの痛みや、慢性的に痛みを抱えている部位の症状が悪化しやすくなります。
予防と対策
ワンちゃんや猫ちゃんは、自分から「具合が悪い」と訴えることができません。日頃からよく観察していただき、「気象病かもしれない」と感じた場合は、ぜひ記録を付けることをおすすめします。
ワンちゃんや猫ちゃんの様子がおかしくなった日時や症状の他に、気象状況や台風がどのあたりに来ているのか、具体的な気圧の状況、どの程度で回復したかなどを記録しておくと、どういう条件になると具合が悪くなるのかを把握することができるでしょう。
気圧についても、比較的お手頃の価格でご家庭用の気圧計を購入することができますし、最近では気圧も含めた気象状況をチェックできるアプリやサイトなども豊富に揃っていますので、上手く活用すると良いでしょう。
また、日頃からワンちゃんや猫ちゃんが落ち着いてゆっくりと過ごせる場所を複数箇所用意しておくことで、気象病の症状が現れた時にも落ち着いて過ごせるようになるでしょう。ワンちゃんも猫ちゃんも、四方を囲まれた薄暗くて狭い場所で落ち着くことができますので、そういう環境を用意し、自由に出入りできるようにしておいてあげると良いでしょう。
さらに、持病の症状が悪化する条件を把握できれば、その条件に合わせて薬を投与することで、対策できるケースもあります。記録を元に、かかりつけの獣医師とよく相談してみてください。
ポイント
ポイント
・気象病は、人間の他にも犬、猫、うさぎ、ハムスター、小鳥などにも見られます。
・気象病には気圧が大きく関係していると考えられています。
・敏感な子や持病を持っている子が気圧の影響を受けやすいといわれています。
・特に影響を受けやすい病気に、てんかん、水頭症、脊髄空洞症、関節炎などがあります。
・気象病が疑われる場合は、症状と気象を関連付けられるような記録を付けましょう。
・持病のある子は、記録を元に対策をかかりつけの獣医師と相談しましょう。