熱中症の対策について改めて整理しましょう
熱中症のリスクはもう始まっています
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
今年も、また暑い季節がやってきました。今までも何回か熱中症について取り上げてきましたが、今年も本格的な夏が到来する前に、熱中症についてお話ししたいと思います。熱中症は、夏の盛りになる前の5月頃から増え始めます。
犬や猫にとっても、とてもつらい病気です。重篤化すると命を脅かすことにもなりかねません。室内、屋外、車内などでの注意事項やいざという時の応急処置について、事前に整理しておきましょう。
熱中症の原因と症状
高温多湿な環境に長時間いることで体温が上昇し、体の深部から高体温になり、かつ脱水症状が起きて起こるのが熱中症です。
人間は全身に汗腺があり、かいた汗が気化する時の気化熱を利用して体温を調節することができますが、犬や猫が人間のような汗をかける部位は肉球と鼻先だけです。そのため、犬はパンティングと言って口を開けて舌を出し、ハァハァと呼吸することで口の中や鼻、気管などの粘膜から蒸発する水分の気化熱で体温を下げようとします。つまり、人間よりもずっと体温調節が苦手な動物なのです。
猫の場合は、基本的には鼻でしか息をしません。そのため、猫は犬以上に体温調節が苦手な動物だと言えるでしょう。もしも猫がパンティングをしていたら、それはかなり呼吸困難な状態だということです。
このように、犬や猫は体温調節をあまり効率的に行うことができません。そのため、人間以上に熱中症にかかりやすいのだと認識していただき、温度と湿度の管理には気を配ってあげてください。
犬も猫も、熱中症の初期症状態では下記のような症状がみられます。
・パンティング
・よだれ
・歯茎や舌、結膜などの粘膜の充血、うっ血
・頻脈
もしもご自宅で直腸温を図ることができるのであれば、上記のような症状の時に体温を計測してください。40℃以上になっていたら、熱中症の疑いは濃厚です。直腸温を測れないご家庭の場合も、普段から愛犬や愛猫の内股などに手を入れて、平熱の時の状態がどのくらいかを体感として知っておくと、目安になるので良いでしょう。
熱中症が進行して重篤化すると、下記のような症状がみられるようになります。
・ぐったりとして意識がない(このような状態を虚脱と言います)
・嘔吐
・下痢
・震え
・けいれん発作
・呼吸不全による頻呼吸や呼吸困難、チアノーゼなど(急性呼吸促迫症候群:ARDS)
熱中症が重度の場合、必要な血液が臓器や組織に行き渡らず、循環不全により脳や組織が酸欠を起こします。その結果、心不全、急性腎障害、呼吸不全、中枢神経の障害、消化器の障害などの合併症や後遺症を生じる場合もあります。また、熱中症による死亡率は36〜46%と言われています。
熱中症にかかりやすい条件
人間と犬や猫では適温が異なります。同様に、犬と猫でも適温が異なります。個体差もありますが、それぞれの適温は下記が目安になると思います。
人間:26〜27℃
犬 :20℃
猫 :27〜28℃
犬と猫の適温にはかなりの開きがありますので、犬も猫も一緒に暮らしている場合は中間の温度帯を保つようにして、あとは湿度に気を使ってください。湿度が60%以下であれば、室温が上記の適温より多少高くても、あまり心配する必要はありません。
また犬も猫も、特に熱中症にかかりやすい条件があります。愛犬や愛猫が下記の条件に当てはまる場合は、特に気をつける必要があります。
<短頭種>
短頭種は鼻が短いため、口の中の面積が狭くなります。そのため、パンティングをしても他の品種よりも効果が低く、熱中症のリスクが高くなります。
犬の場合はフレンチ・ブルドッグ、パグ、シー・ズー、ボストンテリアなど、猫の場合はペルシャ、ヒマラヤン、エキゾチックショートヘアなどです。
<肥満>
皮下脂肪が多いため体内の熱が外に逃れにくくなり、体温が上昇しやすくなるため熱中症のリスクが高くなります。
<持病を持っている>
下記のような病気を持っていると、呼吸状態の悪化を招きやすいため熱中症のリスクが高くなります。
循環器疾患、慢性呼吸器疾患、内分泌疾患、脳神経系疾患、腎疾患など。
<年齢>
子犬や子猫はさらに体温調節能力が未熟なためリスクが高いです。
老犬、老猫も暑さを感じにくくなるためリスクが高くなります。特に認知症を患っている場合は、水を飲む場所が認識できなかったり家具の隙間などに入り込んでしまって出られなくなったりすることもあるため、体温上昇や脱水症状を引き起こしやすくなります。
熱中症予防と応急処置
シーン別熱中症に対する注意事項と、万が一の場合の応急処置時の注意事項をまとめました。
<屋内での注意事項>
・愛犬や愛猫が自由に好きな居場所に移動できるようにする
・室内の湿度を60%以下に維持する
・室内の温度を適切な温度に維持する
・複数箇所に新鮮な水を置いておく
・留守番時にもエアコンを掛けておく
・エアコンのリモコンは愛犬や愛猫の手の届かない場所に置いておく
・停電時に備えて電気を使用しない安全な冷却グッズも併用する
<屋外での注意事項>
・散歩は室温と外気温の差がなるべく少ない時間帯を選ぶ
・散歩の可否は気温よりも路面温度を優先して考える
・暑い時期の外出時は、こまめに給水する
・可能なら気化熱を利用した冷却法を取り入れる
・身体に水道水をかけて風を送る、濡れタオルを身体にかけて風を送る等
<車内での注意事項>
・たとえ短時間でも、車内に閉じ込めて留守番をさせない
・いつでも自由に水を飲めるようにしておく
・興奮しやすい犬は低気温でも熱中症になりやすいのでよく注意する
<その他の注意事項>
・こまめにブラッシングを行い、被毛の通気を良くする
・老犬老猫は暑くても日向で寝たままということもあるのでよく注意する
<応急処置における注意事項>
・全身に常温の水道水を掛けたり濡れタオルを掛けたりして風を当て冷却する
・熱中症の症状が出てから90分以内で治療を開始すること(遅延は死に直結)
・冷水や氷、アイスバッグなどで急激に冷却すると末梢血管が収縮して逆効果
・応急処置で体を冷やしたら動物病院で受診する
・体温が下がり始めると手当を止めても低下し続けるので冷やしすぎに注意する
熱中症は猫より犬の方がより注意が必要です
冒頭で、犬よりも猫の方が体温調節は苦手だと書きましたが、実際には猫よりも犬の方が熱中症での来院数が圧倒的に多いです。猫は、適温が人の適温よりも高めであることや、部屋中、高い場所も含めて自由に移動できることや、散歩に行かずに1日中室内で過ごすことなどが、あまり熱中症を発症しないことにつながっているのかもしれません。
しかし、犬の場合は注意が必要です。最近増えている肥満気味の犬は、身体に熱がこもりやすく、梅雨時のたいして気温が高くない時期でも高湿度のために体調を崩しやすいです。また、老犬になると暑さを感じにくくなり、さらに体温調節が下手になります。
犬は適温が20℃とかなり低いため、室温にばかり気が行ってしまうかもしれませんが、パンティングで体温を調節できますので、効果的に気化を促進させるために湿度を低くすることが、より重要になります。逆に、湿度を60%以下に維持できれば、多少気温が20℃よりも高くても、熱中症の予防には有効です。犬の飼い主様は、ぜひ湿度調節に気を使ってあげてください。
熱中症に関するまとめ
ポイント
・熱中症は、夏の盛りとなる前の5月頃から出始めます
・犬と猫では適温が異なるので、一緒に暮らしている場合は湿度を60%以下にした上で中間の温度をキープしてください
・熱中症にかかりやすい条件(品種、年齢、持病、肥満)を持っている犬や猫には特に注意が必要です
・症状が出始めたら90分以内に治療を受けてください
・熱中症の発症率は、猫よりも犬の方がはるかに高いです