犬のお散歩要注意 除草剤の中毒!
除草剤が撒かれる時期のお散歩には注意が必要です
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
春から夏にかけて、ご自宅やマンションの庭はもちろん、公園や遊歩道、川べりなどの草が生い茂ってくる気候になってきました。
まだ本格的な暑さが到来するでもなく、愛犬との朝夕の散歩にはとても気持ちの良い季節です。
しかし、今の時期は除草剤が散布される時期でもあるのです。
愛犬との楽しいお散歩が除草剤の中毒で大変なことにならないよう、今日は除草剤の中毒についてお伝えしたいと思います。
公道や公共の場所で知らない間に散布される除草剤
一軒家で暮らしていらっしゃる場合、立派な木や綺麗な花を庭にたくさん植えて、ゆっくりと寛げる緑豊かな庭造りを趣味にされている飼い主様も多いのではないでしょうか。
庭造りで欠かせないのが、草むしりです。
雑草はしつこくて、何度抜いてもすぐにまた生えてきては、すぐに伸びていきます。
また、本当に育って欲しい草木が必要とする栄養分を、雑草が奪い取ってしまうことになります。
そこで、効率よく雑草を減らすために、除草剤を散布することになります。
それは、ご家庭の庭だけではありません。
自治体等が管理している公園、遊歩道や、マンション内のお庭や駐車場なども含めて、広く除草剤が散布されるのです。
一般的に、除草剤には茎葉処理型と土壌処理型の2つのタイプがあります。
茎葉処理型の除草剤は、雑草の成長期に直接雑草に散布をする液状の除草剤で、即効性がありますが、効果のある期間は1〜2ヶ月と短いのが特徴です。
土壌処理型の除草剤は、雑草が成長する前に地面に散布をする粒剤の除草剤で、遅効性ですが6ヶ月程度効果が続くのが特徴です。
どちらのタイプの除草剤を散布するかは、公園や庭を管理している方の判断によりますが、花壇や畑などの積極的に植物を育てたいという場所には茎葉処理型を、駐車場や庭の通路などには土壌処理型の除草剤が散布されることが多いです。
具体的な散布時期は、茎葉処理型だと4〜10月で、草が生い茂ったタイミングで散布され、土壌処理型だと2〜3月と9〜10月の年2回の散布が一般的です。
それぞれのタイプによって散布時期も除草剤の形状も違いますので、それぞれに対して注意をする必要があるということを知っておきましょう。
また雑草を枯らす仕組みにも色々あるため、除草剤と一口に言っても、その成分はビピリジニウム系、トリアジン系、尿素系、有機ヒ素系、フェノール系など、沢山の種類があります。
中には、犬や猫に対してとても強い毒性を持っているものもあります。
そのため、犬や猫が除草剤を口にしてしまうと、中毒症状を起こす可能性もありますので、注意が必要です。
犬や猫の場合、除草剤は、除草剤のかかった雑草を食べたり舐めたりしたことで体内に入る経口摂取の他に、皮膚から体内に入ってしまう経皮摂取や、空中に噴霧された薬剤を吸引摂取してしまう場合もあります。
また、除草剤のかかった雑草を食べたり舐めたりしていなくても、足の裏や体を舐めることで、足の裏や体表に付着した除草剤を舐めてしまう事もあります。
土壌処理型の薬剤が散布された場所に落ちていた物を拾い食いして一緒に口に入れてしまう事もあるでしょう。
ご自宅の庭なら除草剤散布のタイミングが明確ですが、公園や駐車場、マンションの庭などの場合は、明確な散布時期がわかりません。
そのため、こういった除草剤の特徴を理解した上で、愛犬の散歩時の行動に対してよく注意をしてあげる必要があるのです。
除草剤を誤飲してしまった場合の症状
では、実際に除草剤を摂取してしまった場合、どのような症状が出るのでしょうか。
除草剤は、農薬の一種です。
実は、短期間で代謝されて無毒化されてしまい、自然に体外に排出される農薬が多く、その場合はほとんど症状が出ることはないでしょう。
しかし、前述の通り、除草剤の成分によっては強い毒性を示すものがあり、その場合は下記のような症状が見られます。
・嘔吐
・下痢
・血便
・痙攣
・興奮
・運動失調
「テセウスの船」というテレビドラマで殺人の凶器として使われていたパラコートも除草剤で、とても強い毒性を持っています。
犬や猫がパラコートを摂取してしまうと、胃腸炎や肝腎障害などの消化器症状の他、過度の興奮、運動失調、痙攣、ショックといった神経症状を起こし、呼吸困難となり、最悪の場合は死んでしまいます。
命が助かった場合でも、後遺症が残ってしまう事も少なくありません。
また、除草剤による中毒が原因で肝障害を起こし、黄疸などの症状が出る場合もあります。
散歩の後などに愛犬の具合が悪くなり、除草剤による中毒が疑われるような場合は、迷わずに動物病院に連れてきてください。
痙攣などの神経症状が出ている場合は、緊急度が高いと思ってください。
除草剤中毒の診察
動物病院に連れてきた愛犬が「中毒症状かもしれない」と思っておられる場合は、飼い主様の方から看護師や獣医師にそのことをお伝え頂きたいと思います。なぜならば、中毒症状というのは特殊な症状ではなく、他の病気でもみられる症状ばかりだからです。
我々獣医師は、体調不良の原因が分からない場合、基本的には可能性のある病気をすべてリストアップし、それを一つ一つ確認し、潰していきます。
候補となる病気が全てあてはまらなかった場合に、初めて中毒症状を疑うのです。
そのため、時間が掛かってしまうのです。
もちろん、我々の方から飼い主様に色々とご質問させて頂く中で、中毒である可能性に気付く場合もあります。
しかし、愛犬のことを一番よく分かっていらっしゃるのは飼い主様なので、「散歩中にこういうことがあったので、もしかすると何かよくないものを口に入れてしまったのかもしれない」等と言って頂けると、とても助かります。
また、中毒症状は急に出てきますので、飼い主様も取り乱してしまわれることが多いと思います。
しかし、そういう時こそ冷静になってください。
除草剤に限らず、中毒の場合は下記がとても重要な情報になります。
・何を
・いつ
・どのくらい
・どうやって摂取したか
除草剤の場合、ご自宅のお庭でなければあまり詳しいことはわからないかもしれませんが、「どこを散歩したのか」「いつもと様子が違っていた」等の参考になりそうな情報をなるべく整理してお話しして頂けると助かります。
また、実際に除草剤等の現物がある場合は、それをご持参頂けると成分も分かり、適切な処置を速やかに行うことができます。
つだ動物病院の場合、診察時間外でもお電話を頂ければ、しばらく様子を見ても大丈夫なのか、またはすぐに連れてきて頂いて緊急で診察すべきなのかを判断し、対処することができます。
病気に休みはありませんので、ご相談頂ければと思います。
お散歩の後はお手入れも忘れずに
散歩コースの場合は、飼い主様ご自身が管理をされている場所ではないので、詳細状況は分からないことが多いと思います。
しかし、公園、駐車場、川べり、畑、草むらなど、散歩コースに除草剤が散布されそうな場所がある場合は、除草剤のリスクをよく考慮された上で、情報を収集したりお散歩後のお手入れをしてあげたりしましょう。
お散歩後は、愛犬の足の裏や体の表面をきれいに拭いてあげることで、飼い主様が見ていないところで足の裏や体に付着した除草剤を舐めることがなくなります。
また、愛犬が拾い食いをしないように、普段からきちんとしつけをする事も大切です。
除草剤による中毒は、犬だけではなく猫も危険です。
愛猫を自由に家の外に出られるようにしている場合は、どこで危険なものを口にしてしまうか分かりません。
愛猫は、完全室内飼いにすることをおすすめします。