犬のアレルギー 症状は? 検査方法は?

犬猫の病気や症状

 

花粉症以外にもある犬のアレルギー性疾患

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

前回のブログで、犬や猫にも花粉症があるというお話をしました。

その際に、花粉症はアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)を花粉とするアレルギー性の病気の一つだともお伝えしました。

今回は、犬を例にとり、アレルギー性の病気についてお伝えしたいと思います。

 

免疫のしくみ

予防接種をする犬

 

人と同じように、犬も免疫という自分の身を守るための機構を持っています。

免疫とは、外部から体内に侵入した異物から身を守るためのシステムです。

この免疫を医療に応用したのが、ワクチンの予防接種による感染症予防や毒蛇に噛まれた時などに行う血清療法、結核菌に対する免疫記憶の有無を調べるツベルクリン反応検査、ABO式血液型の判定や輸血可否の組合せ判定です。

 

上記は人の例として挙げましたが、犬にも同じようにワクチンの予防接種や血清療法、輸血可否の判定(犬の血液型はDEA式で分類され8種類あり、その内DEA1.1という抗原が+か−かが輸血の可否に大きく影響します)が行われています。

 

この免疫システムが、何らかの理由により過剰に反応してしまい、体に対して不利益な状態をもたらしてしまうことをアレルギーと言います。

まずは前提知識として、簡単に免疫のしくみについてお話ししておきましょう。

 

<免疫を担う細胞>

免疫を担っているのは、血液中に存在する白血球です。

白血球には下記のような細胞があります。

1.好中球

白血球の中で最も数の多い細胞で、食作用によって細菌を主に排除します。

 

2.樹状細胞

食作用による異物の排除も行いますが、抗原(異物だと判断されたもの)を断片化して細胞の表面に提示(抗原提示)します。

 

3.マクロファージ

形態は不定形をしており、食作用で異物の排除と抗原提示を行い、炎症も引き起こします。

 

4.リンパ球

(1)T細胞

樹状細胞が提示した抗原情報を受け取り、B細胞やマクロファージを活性化させるヘルパーT細胞と、樹状細胞が提示した抗原情報を受け取り、感染細胞を攻撃して排除するキラーT細胞の2種類があります。

 

(2)B細胞

抗原に対応する「抗体」を産生し、放出します。

 

(3)NK細胞(ナチュラルキラー細胞)

大型で殺傷能力の高い細胞で、ウイルスなどに感染した細胞や自分の体にできた腫瘍細胞を攻撃し、排除します。

 

<免疫の種類>

免疫には、次の2種類があります。

1.自然免疫

自然免疫とは、生まれながらに持っている免疫のことです。

大抵の場合、愛犬は普段は健康な状態だと思います。

普段健康でいられるのは自然免疫の力によるもので、体内に侵入してきた異物を、自然免疫がすぐその場で排除し、臨床的な症状が発生する前に対処してくれているおかげです。

自然免疫は、病原体に共通する特徴を幅広く認識して、すぐに好中球、樹状細胞、マクロファージの食作用による異物の排除と、NK細胞による攻撃を行います。

 

2.獲得免疫

獲得免疫とは、生まれてから出会ったさまざまな異物により獲得した免疫のことで、自然免疫では排除できなかった異物に対して働くものです。

リンパ球が異物に対して特異的に働き「1度感染した異物の情報」を記憶します。

この、特異的な働きを起こさせる異物のことを「抗原」と言います。

抗原には、病原体(カビ、細菌、ウイルス等)の他に、他の生物が持っているタンパク質などの毒素や有機物、そして自分の体にできたがん細胞なども含まれています。

 

<抗体>

先ほど、B細胞の説明で『抗原に対応する「抗体」を産生し、放出する』と説明しました。

この抗体についてもお話ししておきましょう。

実は、獲得免疫のしくみには2種類あります。

「細胞性免疫」というしくみは、キラーT細胞が抗原に対して直接攻撃を行います。

もう一つの「体液性免疫」というしくみで重要な役割を果たすのが「抗体」です。

 

樹状細胞が抗原を捕食して抗原提示を行うと、B細胞がその抗原情報に対応した抗体を産生します。

この抗体が血液中に放出されると、侵入してきた抗原に特異的に結合することで抗原の働きを押さえ込むのです。

 

抗体は、その構造や働きによって下記の5種類に分類されます。

・IgM

抗原の細胞膜に穴を開けて破壊します。

 

・IgG

抗原が細胞に侵入できなくし、また抗原の細胞膜に穴を開けて破壊します。

また、この抗体が抗原と結合することで、他の免疫担当細胞に見つかりやすくさせるという働きもあります。

 

・IgA

抗原が細胞に侵入できなくします。

 

・IgE

極微量しか存在せず、本来は寄生虫に対する免疫のために存在すると考えられています。

しかし、皮膚・気道・腸管の粘膜の下に存在している肥満細胞と結合した形で存在するため、肥満細胞中の顆粒の中にあるヒスタミンやセロトニンなど、炎症やかゆみを引き起こす物質と関係して、アレルギーに大きく関与する抗体です。

 

・IgD

正確な働きはまだよく分かっていませんが、B細胞の抗体産生の誘導に関与していると考えられています。

 

アレルギーの種類

皮膚炎の犬

 

では、具体的なアレルギーについてのお話に入りましょう。

アレルギーは、その発生の仕方によってⅠ型〜Ⅳ型に分類されています。

その分類ごとに説明していきます。

 

<Ⅰ型アレルギー>

IgEが関与することで発症するアレルギーがⅠ型アレルギーで、即時型アレルギーとも呼ばれています。

呼吸器症状を伴う重篤な場合は、アナフィラキシーと呼ばれて非常に危険な状態になるため、迅速な治療が必要です。

代表的な疾患としては、気管支喘息、アレルギー性鼻炎(花粉症も含まれます)、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎などがあります。

Ⅰ型アレルギーを診断するためには、アレルゲンに対するIgE抗体の量を測定する検査を行います。

 

<Ⅱ型アレルギー>

何らかの原因により、自分の細胞表面が抗原と認識されてしまい、自分の細胞に対するIgMやIgG抗体が産生されてしまうタイプのアレルギーをⅡ型アレルギーと言います。

代表的な疾患は、免疫介在性溶血性貧血、抗腎糸球体基底膜腎炎、重症筋無力症、甲状腺機能低下症などの自己免疫疾患です。

 

<Ⅲ型アレルギー>

可溶性抗原とIgG抗体との反応で起こるアレルギーがⅢ型アレルギーです。

可溶性抗原とは、体液中に溶けている抗原のことです。

代表的な疾患は、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患です。

 

<Ⅳ型アレルギー>

Ⅰ〜Ⅲ型アレルギーは、抗体が関与する体液性免疫によるものでしたが、抗体が関与しない細胞性免疫によるアレルギーが、Ⅳ型アレルギーです。

Ⅳ型アレルギーは、Ⅰ型アレルギーのような即時型とは異なり、1〜2日を要するので遅延型と言われています。

代表的な疾患には、アトピー性皮膚炎、接触性アレルギー性皮膚炎などがあります。

Ⅳ型アレルギーは、同じ抗原の再刺激に対して感じやすい状態になっている、感作と言われる状態の場合に、炎症の度合いが大きくなるという特徴があります。

※アトピー性皮膚炎には、Ⅰ型とⅣ型の2つのタイプがあります。

 

代表的なアレルギー疾患:皮膚系疾患と気管支系疾患

血液検査

 

さまざまなアレルギーについてご紹介してきました。

ここから先は、身近でよく見かけるⅠ型とⅣ型のアレルギーを対象にお話ししていきます。

 

代表的な疾患は、アトピー性皮膚炎、接触性アレルギー性皮膚炎といった皮膚の病気と、気管支喘息、アレルギー性鼻炎といった気管支系の疾患です。

これらの疾患で現れる主な症状は下記のとおりです。

 

<皮膚系の疾患>

真っ先に現れるのが「かゆみ」です。

かゆみの程度は中等度なので、飼い主様が制止すれば一時的にかゆみが治りますが、かゆくて眠れなかったり、散歩中や食事中にも継続してかゆみが現れたりするので、愛犬の生活の質(QOL)を著しく悪化させます。

このかゆみのせいで犬が皮膚をかくと、そこが赤くなり、さらにかき続けることで皮膚がえぐれたり、ゴワゴワになったり、黒くなったりしてきます。

つまり、皮膚に目に見える症状が出る前にかゆみを抑えることが、最も理想的な治療ということになります。

また、皮膚以外にも、外耳炎を起こして耳が赤くなったり耳垢が多くなったり耳の中が臭くなったりという症状が出たり、結膜炎を起こして涙や目ヤニが多くなったりすることもあります。

アレルゲンが食物の場合は、消化器症状として嘔吐、軟便、便の回数が増える(1日に4回以上)といった症状が出ることもあります。

 

<気管支系の疾患>

気管支喘息、アレルギー性鼻炎といった気管支系の疾患の場合の代表的な症状は咳です。

咳の他には、元気消失、食欲不振、体重減少、下痢、呼吸速迫、呼吸困難、チアノーゼ(血液中の酸素が欠乏して皮膚や粘膜が青黒くなる)などの症状が出ることもあります。

また、アレルギー性鼻炎の場合はさらさらとした漿液性の鼻水がみられます。

 

 

アレルギーに対処するためには、アレルギーの原因となるアレルゲンを突き止め、愛犬の生活環境からアレルゲンを排除し、投薬治療を行います。

そのため、アレルギーが疑われる場合はアレルゲンを調べるために、アレルギー検査を行うことになります。

 

<アレルギー検査の種類>

アレルギー検査には、アレルゲン特異的IgE検査、リンパ球反応検査などがあります。

・アレルゲン特異的IgE検査

即時的なⅠ型アレルギーを検査する方法です。

犬の場合、環境アレルゲン、食物アレルゲンのどちらに対しても適用されます。

 

・リンパ球反応検査

遅延型のⅣ型アレルギーを検査する方法です。

犬の場合、食物アレルゲンに対して適用されます。

 

<アレルギー検査の方法>

どちらの検査も、血液の採取のみで実施できます。

検査は外注検査機関に依頼しますが、検査を受ける犬が副腎皮質モルモン製剤、免疫抑制剤、抗ヒスタミン剤などのアレルギー治療薬を使用していた場合は、検査機関から指定された休薬期間を設ける必要があります。

 

<アレルギー検査の注意事項>

アレルギー検査の結果が必ずしもアレルギーの有無と一致する訳ではありません。

アレルギー検査の結果と臨床症状、発症季節や環境・食事内容の相関性については、獣医師と連携しながら確認することが大切であると考えてください。

また、アレルギー検査ですべてのアレルゲンを調べられる訳ではないことも知っておいてください。

アレルギー検査は、あくまでも生活環境や食物に含まれる主なアレルゲンを調べているだけなのです。

 

アレルギーを持っている犬への注意点

洋服を着ている犬

 

では最後に、アレルギーを持っている愛犬に対して注意して頂きたい点についてご紹介します。

 

・アレルギーになりやすい犬種を知っておこう

犬と一緒に暮らす際、愛犬がアレルギーになりやすい犬種かどうかを知っておくと、健康管理に役立ちます。

アトピー性皮膚炎になりやすい犬種は、柴犬、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズー、パグ、ボストン・テリア、フレンチ・ブルドッグ、ミニチュア・シュナウザー、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、ヨークシャー・テリア、ワイヤーヘアード・フォックス・テリアなどです。

また、アトピー性皮膚炎の犬は、食物アレルギーを持っていることが多いという報告があります。

また、ブルドッグやボストンテリア、バグなどの短頭種は、元々鼻孔が他の品種よりも狭いため、アレルギー性鼻炎にはよく注意してあげる必要があります。

 

・アレルギーだと診断されたらきちんと治療を継続しましょう

動物病院で愛犬がアレルギーだと診断されたら、きちんと治療を継続的に行いましょう。

投薬等によりアレルギーの症状を抑えることで、愛犬のQOLをなるべく高く保ってあげることが大切です。

 

・治療と並行してアレルゲンを排除しましょう

アレルギーの治療と並行して、愛犬の生活環境や食物からアレルゲンを排除してあげましょう。

環境アレルゲン(埃、チリ、ノミ、ダニ、花粉等)の場合は、愛犬の行動範囲をこまめに清掃し、アレルゲンを取り除くようにしましょう。

また洋服を着せるのも、環境アレルゲンが皮膚に付着することを防ぐためには有効です。

洋服を着せっぱなしにせず、こまめに取り替えて洋服を清潔な状態に保つようにしてあげましょう。

食物アレルギーがある場合は、フードの原材料を確認し、アレルゲンが含まれていない食事を与えるように気をつけてあげましょう。

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