犬の胆嚢粘液のう腫

犬猫の病気や症状

 

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

今回は、つい先日手術を行ったばかりの、犬の「胆嚢(たんのう)粘液のう腫」という病気についてお伝えしたいと思います。

 

この病気は、犬の肝胆道系疾患の中では比較的多く見られる病気の一つです。

この病気に罹っても、犬はほとんどの場合症状を表さないため、飼い主様にもかなり長い期間気付かれずに過ごしてしまいます。

しかし、気付かずにそのまま進行させてしまうと、他の病気を併発したり、胆嚢破裂を起こしたりして、命に関わる状態になる可能性もある病気です。

 

このブログを読んで頂き、画像検査を含めた愛犬の健康診断の大切さを感じて頂いたり、予防法などを参考にして頂いたりする事で、健康な愛犬と長く幸せな生活を送る一助となれば幸いです。

 

 

胆嚢粘液のう腫とは、名前からも分かるように「胆嚢」という器官の病気です。

胆嚢とは、肝臓から分泌される胆汁を貯蔵して濃縮する、ナスやイチジクのような形をした袋状の器官です。

胆汁は、腸内で脂肪を消化する仕事を助ける作用を持っている消化液です。

 

犬の肝臓は人の手のような形状をしており、指に当たるような部分(葉)が全部で6葉あります。(ヒトの肝臓は4葉です)

胆嚢は、その内の2つの葉(方形葉と内側右葉)に挟まれたような位置に存在しています。

犬が食事をすると胆嚢は収縮し、総胆管という管を通して胆汁を十二指腸に排出します。

排出された胆汁が腸内の食べ物と混ざって脂肪分を乳化させることで、腸からの脂肪吸収を助ける働きをするのです。

つまり胆嚢があることで、肝臓で分泌された胆汁が、効率よく十二指腸に届けられる仕組みになっている訳です。

 

肝臓で分泌される胆汁は水分が豊富ですが、胆嚢に溜められている間に水分が吸収されて、次第に濃縮されていきます。

そのため、胆嚢は自分自身を守るためにムチンというゼリー状の粘液を分泌します。

胆嚢粘液のう腫という病気は、この胆嚢を守るために分泌するムチンが過剰になったことで、胆嚢の中にさらに硬いゼリー状のものが溜まってしまい、胆汁を十二指腸にうまく届けられなくなる病気です。

 

しかし、なぜムチンの分泌が過剰になるのかという細かいメカニズムについては、まだ解明されていません。

胆嚢の収縮機能の低下や、胆石(胆泥)症、脂質の代謝異常、甲状腺機能低下症やクッシング症候群などによるホルモンバランスの異常、腸炎などが原因ではないかと考えられています。

 

 

胆嚢粘液のう腫の初期段階では、ほとんど症状が出ません。

初期状態で見つかるのは、健康診断の超音波検査で偶然見つかるというケースが多いようです。

上の写真は、超音波検査をしたときのエコー写真です。

このように、胆嚢の中に星形やキウイフルーツの断面のような模様が写っている場合には、胆嚢粘液のう腫が強く疑われます。

 

初期状態で見つからずに病気が進行していくと、いずれは胆嚢内に溜まったゼリー状のものが限界量に達してしまいます。

そうなると、胆汁の分泌障害が起こり、場合によっては胆嚢炎、膵炎、肝炎などが併発することもあります。

 

胆汁の分泌障害が起こると、嘔吐、下痢、腹痛、食欲不振といった慢性的な消化器症状が見られるようになります。

また総胆管が閉塞してしまい、完全に胆汁の流れが止まってしまうと、黄疸が起きます。

さらに、胆嚢が破裂してしまい、腹膜炎を起こすこともあります。

そうなると、命に関わる状態と言えます。

 

 

胆嚢粘液のう腫になると、胆嚢内にゼリー状のものが溜まっていきますので、胆嚢がパンパンに腫れた状態になります。

上の写真は、そのパンパンに腫れた状態の胆嚢です。

赤い肝臓の方形葉と内側右葉に挟まれて、丸くてパンパンになった黒っぽい器官が胆嚢粘液のう腫で腫れた胆嚢です。

 

このような状態になる胆嚢粘液のう腫の治療法には、内科治療と外科治療の二つがあります。

内科治療は、超音波検査の結果、胆嚢粘液のう腫と診断されたもののまだ症状が出ていない場合に行うことが多く、食餌内容を低脂肪食に変更し、利胆薬の投与により胆汁分泌を促進します。

細菌感染が疑われる場合は抗生剤の投与で感染を抑えます。

また、脂質代謝異常や甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症などの内分泌疾患など、基礎疾患がある場合は、併せてその治療も行います。

 

外科治療の場合は、基本的には手術により胆嚢を全摘出します。

一つしかない器官を全て摘出してしまうことに対して心配される飼い主様もいらっしゃると思いますが、そんなに心配される必要はありません。

前述の通り、胆汁を分泌している器官は肝臓です。

胆嚢を摘出してしまうことで、効率よく胆汁を十二指腸に届けることはできなくなりますが、肝臓から直接十二指腸に、ゼリー状に固まる前の胆汁を届けることができますので、消化そのものができなくなる訳ではないからです。

 

獣医師により治療に対する考え方には違いがありますが、胆嚢粘液のう腫と診断された犬の内、約1割がいずれ胆嚢破裂を起こすとも言われており、かつ安定的に手術ができる期間を逃すと手術の難易度や術後の回復、合併症の発症への影響が大きいとも言われているため、内科治療での改善が見られない、もしくは進行しているような場合は、無症状でも外科治療を行うことを推奨される獣医師も多いようです。

 

当院では、血液検査の肝酵素の数値が上昇し、総胆管の閉塞が疑われる場合は手術をおすすめしています。

ただし、ピリルビンの値が高い場合は、点滴で下げてから手術した方が良いといわれていますので、黄疸が出ている場合は点滴でピリルビンの値を下げてから手術を行うようにしています。

 

手術をして、パンパンに腫れた胆嚢を全摘出した後の写真が下になります。

赤い肝臓の方形葉と内側右葉の間にあった、黒っぽくて丸く腫れ上がった胆嚢がきれいになくなりました。

 

 

胆嚢粘液のう腫は、下記のような犬に発生しやすい傾向があると言われています。

愛犬が該当する場合は、特に注意が必要ですので、初期症状の内に発見できるよう、画像検査も含めた健康診断を年に一度以上受けることをおすすめします。

 

1. 年齢

中高齢の犬

 

2. 好発犬種

シェットランド・シープドッグ、コッカー・スパニエル、ビーグル、シー・ズー、ミニチュア・シュナウザー

 

3. 下記の基礎疾患を持っている犬

甲状腺機能低下症、クッシング症候群、胆石(胆泥)症、脂質代謝異常

 

4. 脂肪分を過剰に摂取している犬

 

 

また予防策として、普段から下記に注意することが有効だと考えられていますので、参考にしてください。

 

1. 適度な運動をさせ、太らせない

 

2. 高カロリーな食事や過度の脂肪摂取を控え、栄養バランスのとれた食餌内容にする

 

3. 間食は控え、食事の間隔を適度にあけることで、胆嚢の収縮機能を発揮させるようにする

 

4. 定期的な健康診断で早期発見に努める

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