犬や猫にも大切なホルモンの役割
目次
体の内部環境を一定に保つために必要なホルモン
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
私たち人間や犬、猫といった脊椎動物の体は、とても精巧にできていて、全く自覚をしていないにも関わらず、神経とホルモンのおかげで生まれてから死ぬまでの間、絶える事なく体の機能が正常に保たれ、きちんと機能しています。それは、外の環境が変化しても、神経とホルモンが体内の環境を一定に保ってくれているからなのです。
また脊椎動物のホルモンは化学的な構造が似ているために、動物の種類が異なっても同じように働きます。つまり、私たち人間も、犬も猫も、ホルモンの働きは同じなのです。今回は、ホルモンがどのような役割を担っていて、どのように体に作用しているのかについてお話ししたいと思います。
ホルモンと内分泌系のしくみ
ホルモンは、体のあちらこちらにある内分泌腺で作られる化学物質で、血液、リンパ液、組織液といった体液によって全身に運ばれます。そのため、どの内分泌腺で作られたホルモンも、体の隅々にまで行き渡るようになっています。
そして、ホルモンはごく微量でも強い働きをするのが特徴です。また、神経の伝達速度には劣るものの、作用も非常に即効的だと言えます。
そして何より驚くことは、ホルモンはそのホルモンだけに特定の細胞、つまり特定の臓器にしか作用しないということです。そのホルモンが作用する臓器のことを標的臓器と言います。どんなにホルモンの濃度が高くても、標的臓器以外の臓器には何も起こりません。
では、ホルモンを作って分泌する内分泌腺と主なホルモンをご紹介します。分泌線のおおよその位置は、上の図を参考にしてください。
<松果腺(松果体ホルモン)>
・概日リズムを調節します。
<脳下垂体(脳下垂体ホルモン)>
・甲状腺、腎臓、副腎、精巣、卵巣の働きを制御します。
・骨格の成長を調節します。
<甲状腺・副甲状腺(甲状腺ホルモン・副甲状腺ホルモン)>
・成長と代謝発達促進を調節します。
<副腎(副腎ホルモン)>
・血糖値を上げます。
・ストレスへの耐性を増加させます。
・生命活動とエネルギー消費を促進します。
・生体の水分と塩分含有量を調節します。
<膵臓(膵臓ホルモン)>
・血糖量を調節します。
<卵巣(卵巣ホルモン)>
・メスの二次性徴の発達と卵子形成を調節します。
<精巣(精巣ホルモン)>
・オスの二次性徴の発達と精子形成を調節します。
ホルモンが作用するしくみ
細胞膜や細胞の核内に、特定のホルモンにしか反応しない受容体があります。ホルモンが臓器に届くと、その受容体がその特定のホルモンと反応することで、ホルモンが作用します。そのため、受容体に合わないホルモンが届いても全く作用しないというしくみになっているのです。
またホルモンは、タンパク質系ホルモンとステロイド系ホルモンの2種類に分類できます。では、それぞれのホルモン毎に、もう少し詳しく作用するしくみを見てみましょう。
<タンパク質系ホルモン>
タンパク質系ホルモンは、標的細胞の細胞膜にある受容体と結合します。受容体と結合すると、エネルギー代謝には欠かせないATPという化学物質から環状AMPが作られ、この働きによって細胞内の酵素が活性化されて特定の反応が促進されます。
<ステロイド系ホルモン>
ステロイド系ホルモンは、標的細胞の核内にある受容体と結合します。この結合により遺伝子が活性化されて、特定のタンパク質(酵素)が生成されます。
ホルモン分泌の調節機構
ホルモンを分泌する内分泌系の最上流となる調節中枢は、間脳底部にある視床下部です。視床下部が、神経系とホルモンの調節を行っているのです。
視床下部には、神経から届く情報と、血液に運ばれてきたホルモンの情報が、それぞれ入ってきます。その情報を元に、視床下部が脳下垂体のホルモン生産を増やしたり減らしたりして、体内環境が一定の状態になるように調節するのです。
また、内分泌腺が分泌するホルモンは、その働きによって増減した血中のホルモン量が視床下部と脳下垂体に伝わることで、その状態に見合ったホルモンの生産調整が行われます。これが、ホルモン分泌を調節するフィードバック機構です。
体温調節を例に具体的な作用を解説
では、少し具体的な例でホルモンが作用するしくみを見ていきましょう。外気温が低く、低体温になった時の体温調節のしくみを例にご説明していきます。
(1)外気の刺激で皮膚が受けた冷感が感覚神経を通して視床下部の体温調節中枢に届きます。
(2)低体温による冷たい血液も視床下部の体温調節中枢に届きます。
(3)視床下部の指令により交感神経が働き、汗腺からの発汗抑制、血管の収縮、立毛筋の収縮が起き、皮膚からの熱の放散量を減少させます。
(4)同じく交感神経が心臓の拍動を促進し、副腎髄質からアドレナリンを分泌させて代謝を促進します。これにより、発熱量を増加させます。
(5)視床下部の指令により脳下垂体前葉から副腎皮質刺激ホルモンが分泌され、それにより副腎皮質から糖質コルチコイドが分泌されて代謝が促進されます。
(6)同じく脳下垂体前葉から甲状腺刺激ホルモンが分泌され、それにより甲状腺ホルモンが分泌されて代謝が促進されます。
(7)同じく脳下垂体前葉から成長ホルモンが分泌されて代謝が促進されます。
(8)これらの作用により体温が上昇し、高温の血液が視床下部の体温調節中枢に届くことで、その状態に見合った調節が行われます。
犬や猫に多い内分泌系の疾患
最後に、犬や猫によくみられる内分泌系の主な疾患と、その特徴的な症状をご紹介します。
<糖尿病>
多飲多尿、食欲旺盛にも関わらず体重が減少する、急に目が白く濁ってきたといった症状が見られます。
<副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)>
多飲多尿、お腹がぽっこりしてくる、体の左右の側面の毛が抜けてくるといった症状が見られます。
<副腎皮質機能低下症(アジソン病)>
多飲多尿、元気や食欲の低下、下痢が続くといった症状が見られます。
<甲状腺機能低下症>
特に犬に多く、体の左右の側面の毛が抜けてくる、元気がなく走り回らなくなる、皮膚病が増えてくるといった症状が見られます。
<甲状腺機能亢進症>
特に猫に多く、食欲旺盛にも関わらず体重が減少する、多飲多尿、心拍が早いといった症状が見られます。
ホルモンの役割に関するまとめ
ポイント
・ホルモンは、脳下垂体、甲状腺、副甲状腺、副腎、膵臓、卵巣、精巣といった内分泌腺で作られ、分泌されます。
・ホルモンは体液によって全身に運ばれます。
・ホルモンはそれぞれの標的臓器にのみ作用します。
・神経とホルモンの双方の働きにより、体の内部環境が一定に保たれ、生体としての機能が維持されています。