犬猫のワクチン副反応を正しく知りましょう

犬猫の病気や症状

ワクチンの仕組みと効用

犬のワクチン接種

 

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

ワクチンによる感染症の予防は、今ではごく普通の予防医療として、医療、獣医療の双方で普及しています。最初のワクチンは牛痘で、予防対象となる感染症は天然痘でした。

 

天然痘は死亡率が高く、例え治ったとしても痘瘡や失明といった後遺症が残ることからも恐れられていた感染症です。イギリスのジェンナーという医師が牛痘を接種するワクチン種痘法を発見し、1798年に発表したのが始まりです。しかし、すぐ受け入れられたわけではありません。

 

ジェンナー医師が多くの接種を重ねて有効性を実証した結果、1802年に認められ、ワクチンで天然痘の流行が抑えられるようになったのです。そして1980年には、世界保健機関(WHO)が天然痘の根絶を宣言するまでになったのです。

 

ワクチンを接種すると、感染症にかかりづらくなります。また感染した場合も、症状が重症化しづらくなりします。これは、動物の体に備わっている病気に対抗するための「免疫」というしくみを利用しています。

 

牛痘は牛痘ウイルスにより発症する牛の感染症で、感染牛の乳搾りという直接接触により人にも感染する人獣共通感染症です。牛痘ウイルスに感染すると、体内で免疫機構が働き牛痘ウイルスに対抗するための抗体が作られます。牛痘ウイルスの抗体は、新たに体内に侵入しようとする牛痘ウイルスと戦い、侵入を防いだり重症化を抑止したりします。牛痘ウイルスは天然痘ウイルスに非常によく似たウイルスであったため、天然痘の予防にも有効だったのです。

 

天然痘は、たまたま毒性の弱い牛痘ウイルスで予防できましたが、通常は同じ病原体を接種することで予防します。このように、一度病原体にわざと感染させることで強制的に免疫力を高めるのが、ワクチンによる予防のしくみです。

 

ワクチン副反応の発生率

元気のない犬

 

いくら免疫力を高めるためとはいえ、病原体をそのままの形で接種するのは危険です。そのため、病原体の毒素をなくしたり弱めたりした状態にしたものがワクチンです。そのため、ワクチンでは感染を100%防ぐことはできません。それでも感染しづらくなったり、万が一感染した場合でも症状が軽く済んだりするのです。

 

病原体の本来の毒性が弱められているとはいえ、ワクチンにはその病原体と同じタンパク質が含まれています。またアジュバントといって、効果を高めるための物質が含まれているワクチンもあります。これらのタンパク質やアジュバントに対して体が反応することで起こるのが、副反応です。

 

副反応は、大きく2つに分類できます。ワクチン接種後すぐに起きる即時型のアナフィラキシーと、接種してある程度の時間が経過してから起きる遅延型のアレルギー反応です。危険度が高いのはアナフィラキシーで、命を落としてしまうこともあり得ます。

 

副反応は、人にも犬にも猫にも起こります。ワクチンの種類は動物種によって異なりますので、副反応の発生率もまちまちです。参考までに、公的機関や団体などが調査した副反応の発生率をご紹介します。

 

<人の副反応>

厚生労働省のホームページに、令和5年3月10日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会で報告された、新型コロナワクチンの副反応疑いの報告値が掲載されています。12歳以上の副反応疑いで死亡した事例の発生率は、0.00026%〜0.00061%(100万回接種あたり2.6件〜6.1件)でした。発生率に幅があるのは、ワクチンの製薬メーカー毎に発生率が異なるからです。

なお調査対象期間は、令和3年2月17日〜令和5年1月22日です。

2016年の同じ会議では、重篤な副反応の発生率として、下記の数値が報告されていました。

・インフルエンザ=0.0002%(100万回接種あたり2件)

・麻疹=0.001%(100万回接種あたり10件)

・BCG=0.003%(100万回接種あたり30件)

 

<犬の副反応>

一方、2012年1月15日発行の「獣医免疫学および免疫病理学」に掲載された研究論文「日本における犬非狂犬病混合ワクチンの副作用に関する大規模調査」では、下記の数値が報告されています。

・副反応発生率=0.63%(1万回接種あたり63件)

・消化器症状のアレルギー発生率=0.28%(1万回接種あたり28件)

・皮膚症状のアレルギー発生率=0.43%(1万回接種あたり43件)

・アナフィラキシー発生率=0.07%(1万回接種あたり7件)

・死亡事例=0.002%(1万回接種あたり0.2件)

 

<猫の副反応>

猫に関する調査は少ないのですが、2013年発行の日本獣医師会雑誌第66巻第7号には、下記の数値が報告されていました。

・副反応発生率=1.25%(1万回接種あたり125件)

・元気・食欲消失の発生率=1.10%(1万回接種あたり110件)

・発熱の発生率=0.62%(1万回接種あたり62件)

・アナフィラキシー発生率=0.009%(1万回接種あたり0.9件)

 

人の副反応と比べると犬や猫の発生率は高いですが、医学と獣医学は歴史や背景が異なるため、全く同じ土俵に乗せて比較することはできません。また、犬よりも猫の方が副反応の発生率そのものは高いですが、猫では軽症が多く、アナフィラキシーの発生率は犬よりもかなり低いことが分かります。

 

いずれにしろ犬も猫も、ワクチン接種後の管理をしっかりと行い異変に早く気付いて対処できれば、最悪の事態はかなり食い止められる数値であり、副反応発生のリスクよりも感染症予防のメリットの方が遥かに高いと考えて良いと思います。

 

では、アナフィラキシーショックとアレルギー反応について、それぞれの症状や注意点についてお話していきます。

 

アナフィラキシー

吐いた犬

 

副反応の症状の中で最も重篤な症状が、アナフィラキシーです。ワクチンを打った直後から30分以内に発症する事が多い即時型の激しいアレルギー反応です。ショック状態に陥ると、命が危険で一刻の猶予もない状態だといえます。

 

アナフィラキシーを起こした犬や猫に現れる症状は、下記です。

・発赤

・じんましん

・嘔吐

・下痢

・急激な血圧の低下

・頻脈

・極度の脱力状態

・呼吸困難

・けいれん など

 

アナフィラキシーを確実に予防する方法はありませんが、下記に気を付けることで発症リスクを下げ、早期に対処することもできるでしょう。

・体調が悪い日のワクチン接種は避ける

・来院時に歩いたり走ったりさせず、できれば車を利用する

・夏場は車内でクーラーをつける

・ワクチン接種は午前中に受ける

・ワクチン接種後、30分は病院内または病院の近くでできるだけ静かに過ごす

・帰宅時も車を利用する

・ワクチン接種後は、近くで様子を見ていられるようにスケジューリングする

・副反応が出ていると感じたら、すぐに動物病院に電話する

 

遅延型アレルギー反応

吐く猫

 

ワクチンの副反応として起こる遅延型アレルギー反応は、さらに3つに分類できます。

 

<中軽症のアレルギー反応>

ワクチン接種後48時間以内に発症することが多いアレルギー反応です。稀に72時間以内で現れることもありますので、ワクチン接種後3日間は普段以上にワンちゃん、猫ちゃんの様子をよく観察し、ちょっとした異変にもすぐに気付けるように注意してください。

主な症状は下記の通りです。

・皮膚症状(顔面浮腫・ムーンフェイス)

・消化器症状(食欲不振、嘔吐、下痢など)

・発熱

・元気消失 など

 

<接種部位のしこり>

ワクチン接種後1週間以上経過した後に、接種部位にしこりができることがあります。通常は、1ヵ月以内に自然治癒します。

 

<注射部位肉腫>

猫のみに見られる副反応です。

ワクチンを接種した部位に悪性の肉腫ができるというもので、接種後4週間〜10年と、発生するまでの期間にかなりの幅があり、1ヵ月以上経過しても大きくなり続ける、3ヵ月以上にわたり存在する、大きさが2cmを超えるといった特徴があります。

ワクチンだけではなく、抗生物質や持続型ステロイド製剤の注射でも起こることが分かっています。

周囲に広がっていくため、なるべく早期に外科手術で摘出して転移を防ぐ必要があります。腫瘍の側面や底面を含めて周囲2cm以上の摘出が必要で、術後には抗がん剤による補助的化学療法も必要で、長期生存はあまり望めません。

注射部位肉腫の発生率は0.01〜0.02%(1万回接種あたり1〜2件)程度だといわれています。

 

接種後3日程度はワンちゃん、猫ちゃんの体調の変化に注意しましょう。接種部位にしこりができた場合は1ヵ月で自然治癒するか否かを確認しましょう。そして副反応が疑われる場合には、早めに動物病院に連れて来てください。

 

ポイント

猫のワクチン接種

 

ポイント

・ワクチンの副反応には即時型のアナフィラキシーと遅延型のアレルギー反応の2種類があります。

・アナフィラキシーはワクチン接種後30分以内に発症することが多いです。

・皮膚症状、消化器症状などのアレルギー症状は、多くはワクチン接種後48時間以内に発症することが多いです。

・接種後1週間以上経過して接種部位にできたしこりは、1ヵ月以内に自然治癒することがほとんどです。

・猫の場合、稀に接種部位のしこりが1ヵ月以上経過しても治癒しない、悪性肉腫になることがあります。

・ワクチン接種は、アナフィラキシー発症のリスクに備えて午前中に受け、午後も近くで様子を見ていられるようにスケジュールを調整しましょう。

・体調が悪い日には、ワクチンを接種しないようにしましょう。

・ワクチン接種の前後はできるだけ安静に過ごさせましょう。

・アナフィラキシーは発生率が低いですが、万が一発症した場合は早く動物病院に電話してください。

・遅延型アレルギー反応が疑われる場合も、動物病院に電話してください。

・ワクチン副反応のリスク対策を考慮した上で、愛犬・愛猫を感染症から守るために、定期的にワクチン接種を受けましょう。

このページをシェアする

カテゴリー