狂犬病〜安心せずきちんと予防しましょう!
狂犬病とはどんな病気?
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
今年も狂犬病予防期間が始まり、既に中盤時期に差し掛かりました。このブログを読んでくださっている飼い主様は、ワンちゃんへの狂犬病予防注射を済まされたでしょうか。
今回は、狂犬病の予防注射によるワクチン接種の大切さについてお話したいと思います。よくご存知の飼い主様も多いでしょうが、まずは狂犬病についておさらいをしておきましょう。
狂犬病は、狂犬病ウイルスが原因で、すべての哺乳動物に感染する人畜(獣)共通感染症です。狂犬病ウイルスは、感染した動物の唾液を介し、咬まれた傷口や引っかき傷から感染します。人の場合、発症するまでの潜伏期間は1〜3ヶ月程度、犬の場合は2週間〜2ヶ月程度です。人に限らず、感染した動物が発症したら、ほぼ100%の確率で死亡してしまう怖い病気です。
人に現れる症状は不安感、恐水症、麻痺、けいれん、錯乱といった神経症状です。恐水症とは、水を飲もうとすると喉の筋肉がけいれんして痛かったり苦しかったりするために、水を怖がるというものです。
すべての哺乳動物に感染する狂犬病ですが、人にとっての主な感染源は犬です。日本も、かつては狂犬病が発生しており、とても恐れられていました。そのため、1950年に狂犬病予防法という法律が制定され、狂犬病のまん延防止に取り組んだのです。具体的には、野犬の排除、狂犬病を診察した獣医師の届出の義務化、そして飼い主様への飼い犬の登録と年1回の狂犬病のワクチン接種による予防の義務化です。
お陰で、日本では1957年以降、狂犬病の発生がストップし、狂犬病の清浄国となりました。ただし、1970年に1名、2006年に2名、2020年に1名が、海外で感染し、帰国または入国後に発病、死亡したという事例が発生しています。感染した国は、ネパールおよびフィリピンでした。
日本は永遠に清浄国?
狂犬病の清浄国は、ノルウェー、スウェーデン、アイスランド、イギリス、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、台湾、日本、グアム、ハワイ、フィジー諸島のみです。
それ以外のほとんどの国で狂犬病が発生しており、世界保健機関(WHO)による2017年の年間死亡者数推計は59,000名に達しています。特に多いのはインド、エチオピア、ナイジェリア、中国、パキスタン、バングラディッシュ、インドネシアなどで、いずれの国も、年間で1,000名以上の方が狂犬病で亡くなっています。
感染しても、発症する前にワクチン(暴露後ワクチン)を接種すれば、発症を防げます。2017年のWHOの報告では、年間の暴露後ワクチン接種者数の推計は、1,500万名にも上っています。
狂犬病は、人から人へと感染することはありませんが、感染動物から感染します。そのため、狂犬病予防法や家畜伝染病予防法により、犬・猫・アライグマ・キツネ・スカンクおよび家畜については、必ず輸出入検疫を受けなければなりません。それ以外の動物も、輸入時に届け出が必要です。こうすることで、狂犬病に感染した動物の持ち込みを防御し、万が一の場合に所在が明らかになるようにしているのです。
しかし残念ながら、現在の日本ではエキゾチックペットを始めとした動物の密輸入の摘発が増加しています。また、犬や猫の密輸入がないとも言い切れません。このように、検疫や届出を逃れて入国した動物の中に感染動物がいた場合、再び日本が狂犬病の発生国になってしまう可能性は否定できないのです。
なぜ毎年予防注射が必要?
2019年12月に、中国で新型コロナウイルス感染症が確認されました。そのわずか1ヶ月後の2020年1月30日に、WHOは新型コロナウイルス感染症について「国際的に懸念される緊急事態」であると宣言し、3月11日には世界的な大流行であるパンデミックだと表明しました。
新型コロナウイルスは、名前の通り新型のウイルスです。そのため、誰も免疫を持っていなかったため、あっという間に感染が拡大してしまったのです。狂犬病も同じです。狂犬病ウイルスに対する免疫を持たない犬の集団の中の1頭に感染してしまったら、その集団はあっという間にパンデミックに襲われることでしょう。
それを防ぐために有効なのが、予防注射によるワクチンの接種です。ワクチンを接種することで、そのウイルスに対する免疫を獲得できます。免疫を獲得できれば、そのウイルスへの感染リスクを低く抑え、また感染しても、症状の重篤化リスクを抑えることができます。
もしも狂犬病ウイルスが全く免疫を持たない犬の集団に入り込んでしまったら、狂犬病はあっという間にパンデミックになるでしょう。しかし、その集団の殆どの犬が免疫を持っていれば、パンデミックにはならずに済むのです。これを集団免疫といい、集団免疫率が70%以上あることで、パンデミックを防げるといわれています。
狂犬病予防注射の接種率
2024年2月15日に、NHKが狂犬病の予防接種率が下がっているというニュースを報道しました。1985年以降はほぼ100%で推移していた接種率が、1996年頃から減少し始め、2000年度に80%を下回り、2022年度の接種率は70.9%だったというニュースです。
このニュースだけでは、かろうじて集団免疫を70%に維持しているように見えるかもしれません。しかし、この数値は登録されている犬の頭数(606万7,716頭)に対する接種した犬の頭数(429万9,587頭)の比率です。
実は、一般社団法人ペットフード協会による2022年の推定飼育頭数は705万3,000頭です。この数値をベースに算出すると、狂犬病予防注射の接種率は、61.0%になってしまい、集団免疫率70%をかなり下回ってしまいます。都道府県別に内訳を見ていけば、もっと低い地域もあるということを考えると、狂犬病の清浄国であるからといって、油断できないということをご理解いただけるのではないでしょうか。
日本では狂犬病が60年以上も発生していないからと安心してしまわずに、飼い主様には、必ずワンちゃんに狂犬病の予防注射を接種させていただきたいと思います。愛犬へのワクチン接種が、愛犬自身を守り、地域の犬たちを守り、そして飼い主様を始めとした人間を守ることにつながるのです。
ポイント
ポイント
・狂犬病は、すべての哺乳動物に感染する病気です
・狂犬病に感染し発症してしまうと、死亡率はほぼ100%になります
・狂犬病は、感染動物に咬まれた傷口や引っかき傷から感染します
・狂犬病の人への主な感染源は犬になります
・1957年以降、日本では狂犬病は発生していません
・狂犬病の予防注射接種率は低下しており、集団免疫が確保されていない懸念があります
・日本は狂犬病の清浄国だと安心せず、毎年愛犬に予防注射を接種させてあげましょう