猫の慢性腎不全<予防編>
猫の慢性腎不全最終回は予防編です
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
猫の慢性腎不全について、前回までの2回のブログで概要と、診断・治療についてご説明してきました。
最後となる今回は、予防に焦点を当ててお伝えしたいと思います。
猫の体のしくみから考えてみる
砂漠地帯で生まれた猫の祖先は、その環境に適応して少ない水でも生きていけるようになったため、腎臓にかかる負荷が高くて腎臓病にかかりやすいのだと言われてきました。
最近の研究では、猫の場合は腎機能が低下しても血液中のAIMというタンパク質が活性化しないために腎機能が回復せず、慢性腎不全に移行する可能性が高いのだということも分かりました。
AIMには、腎臓の機能が低下すると活性化して尿の中に移動し、ゴミを掃除する役目を果たすことで尿細管の詰まりを解消し、腎機能を速やかに改善させるという機能があるのです。
これらの理由からも、猫にとって慢性腎不全とは避けて通れない宿命的な病気だと言えることが分かります。
そのため、猫を慢性腎不全にさせない完璧な予防策がある訳ではありませんが、少しでも腎臓への負担を減らすことで、予防をすることができます。
予防としては、腎臓に負担をかけない食事を与えることと、十分に水を飲ませることです。
猫に必要な、そしてその猫の年齢ステージに適した栄養バランスの食事を与えるようにしましょう。
そして腎機能低下の傾向が現れたら、腎臓への負担を配慮してタンパク質とリンを制限した療法食に切り替えましょう。
そのためにも、日頃から愛猫をよく観察し、定期的に健康診断を受けることで、早期発見を心がけることが大切になります。
そして最も重要なのが、普段から十分に水を飲ませるようにすることです。
これは、飼い主様にしかできない愛猫へのケアになります。
ここからは、猫に必要な引水量や、一般的にあまり水を飲まない傾向にある猫に対して、どのような工夫が有効なのかについてお話ししていきます。
猫に必要な飲み水の量ってどのくらいだろう
まず、猫に必要な飲水量を算出する計算式をご紹介します。
猫に必要な飲水量は、3段階を経て求めることができます。
1. 猫の1日当たりの水分要求量(ml/日)を求める
一般的に、猫の1日当たりの水分要求量は、猫の1日当たりのエネルギー要求量(DER)と等しいと言われています。
そのため、まず猫のDERの算出式を使い、1日当たりの水分要求量を求めます。
猫のDER = 1.2 × 70 × (体重)^0.75
^0.75とはべき乗を表しています。(この場合は体重の0.75乗)
Excelを使って計算する場合にもこの記号を使います。
例えば、体重3kgの猫の場合の1日当たりの水分要求量(A)は下記になります。
A = 1.2 × 70 × 3^0.75 ≒ 191ml/日
2. 猫の1日当たりの水分摂取量
猫は、栄養素を代謝させる際に代謝水分を体内で産生します。そのため、1日当たりの水分要求量から代謝水分を差し引くことで、1日当たりの水分摂取量を算出できます。
猫の1日当たりの水分摂取量 = DER – (DER × 0.1)
例えば、体重3kgの猫の場合の1日当たりの水分摂取量(B)は下記になります。
B = 191 – (191 × 0.1) ≒ 172ml/日
3. 猫の1日当たりの飲水量
最後に、猫が食事から得られる水分量を差し引くことで、1日の飲水量を求めます。
食事から得られる水分量については、下記をベースに計算すれば良いでしょう。
・ドライフードの水分含有量 ≒ 10%
・ウェットフードの水分含有量 ≒ 75%
例えば、毎日ドライフードを30g、ウェットフードを40g食べている猫の場合に必要な1日当たりの飲水量(C)は下記になります。
C = 172 – (30 × 0.1 + 40 × 0.75) = 139ml/日
この方法で算出した1日当たりの飲水量を目安にして、愛猫に十分な水を飲ませるように工夫をしてください。
なお、DERの算出式として、次の簡易計算式を使用しても構いません。
DERの簡易計算式= 1.2 × (体重 × 30 + 70)
猫にできる十分な水を飲んでもらうための工夫
前述の算出式の結果をみると、猫が1日に飲まなければならない水の量がとても少ないと感じた方も多いのではないでしょうか。
しかし、実際には1日に100ml飲むか飲まないかという程度の猫も少なくありません。
そのような、あまり水を飲まない猫に水を飲ませるための工夫ポイントをご紹介します。
それぞれの猫により、効果のあるもの、ないものがありますので、色々と試して愛猫に有効な方法をみつけてください。
1. いつでも新鮮で清潔な水が飲めるようにする
最も大切なポイントは、いつでも新鮮で清潔な水が飲めるようにすることです。
猫はホコリや毛が浮いているような水は好まない傾向がありますので、新鮮さだけではなく汚れも気にして、水入れの水は、1日数回取り替えるようにしましょう。
そして水を取り替える都度、容器も洗うようにしてください。
飼い主様が忙しいご家庭の場合も、最低でも1日1回は取り替えてあげてください。
2. 水入れの数
水入の数は、頭数に関わらず複数箇所に置くと良いです。
寝床の近くと食事場所の近くには必ず置くようにするとよいでしょう。
また、トイレの近くに置いた水入れの水は、あまり飲まない傾向にあるので注意してください。
3. 好みの容器(水入れ)をみつける
猫により、好みの容器があります。
容器の材質、高さ、口の広さなど、いろいろ変えて試してみることで、愛猫の好みの水入れをみつけてあげると良いでしょう。
特に、猫は容器の縁にひげが当たるのを嫌がることが多いです。
そのため、口の広い物や浅めの水入れを好む猫も多いようです。
高さに関しては、高さのない水入れを台の上に置く等の工夫もできるでしょう。
また、溜めてある水をモーターで流水にしてくれるような、循環式の水入れも販売されています。
溜まっている水ではなく、蛇口から出てくる流水を好んで飲むような猫には、このタイプの水入れも効果があるようです。
4. 食事から水分を補給する
猫の1日当たりの飲水量を算出する計算式のところでご紹介したように、猫の食事の中にも水分が含まれています。
ドライフードと比べると、ウェットフードにはかなりの水分が含まれています。
猫のフードの好みにもよりますが、ウェットフードの量を増やして水分摂取量を補うことも、工夫ポイントの一つです。
ドライフードに少量の水またはぬるま湯をかけて与えるという方法もあります。
ただし、この方法は犬には効果がありますが、猫は食べなくなることもあるので注意してください。
5. 水の温度
常温の水よりも、少し温かい水を好む猫もいるので、体温より少し低めのぬるま湯を入れてあげるというのも効果があるかもしれません。
逆に、夏の場合はお皿に氷を一つ入れてあげると、舐めてくれることもあります。
6. 水の種類
食事に好みがあるのと同様、水の種類に対しても好みがあるようです。
いくつか種類を挙げますので、いろいろ試してみてください。
・ミネラルウォーター(ただし軟水)
・ぬるま湯 or お湯を冷まして水にしたもの
・水道水に竹炭や木炭を入れてカルキ臭を飛ばしたもの
・鶏肉や魚などを茹でた汁(ただし、塩分などの調味料が入っていないこと)
なお、猫に飲ませてはいけない水もあるので、注意事項として触れておきます。
<硬水>
ミネラルウォーターには硬水と軟水の2種類があります。
硬水にはたくさんのミネラルが含まれており、ミネラルの過剰摂取は尿路結石症の原因となり得ますので、硬水は避けてください。
<茹で汁の注意点>
鶏肉や魚などを茹でた汁の場合、塩分などの調味料を入れてはいけないことは、前述の通りです。
それ以外の注意点として、厳密な食事療法を行っている猫(例えば甲状腺機能亢進症など)には与えてはいけません。
<花瓶の水>
ユリ科の植物の花・葉・茎・花粉などを口にすると、猫は百合中毒を起こして危険な状態になってしまいます。
そのため、猫の行動範囲にユリ科植物を置いておくのは危険です。
同様に、ユリ科植物を挿していた花瓶の水も、猫の口に入れないように気をつけましょう。
また、ユリ科植物を挿していない花瓶の水でも、肥料や植物安定剤などを入れた水は、猫の口に入らないように注意してください。
若い頃からの予防と早期発見が大切な猫の慢性腎不全
元々、猫はあまり水を飲まない動物です。
しかし、猫にとって必要な水分摂取量があることをご紹介しました。
計算式の結果と実際の飲水量に過敏になることはありませんが、十分な水分を摂取させることで、腎臓への負荷を軽減することができます。
今回ご紹介した内容を「目安」にして、猫の宿命とも言える慢性腎不全の発症をできるだけ予防して頂けたら幸いです。
慢性腎不全になってしまうと、その後は一生涯に渡る治療が必要になります。
飼い主様の労力や資金も必要になりますので、若い頃から食事内容や飲水量などに注意をし、変化を早期にキャッチできるようにしておきましょう。