猫の毛柄と遺伝の話〜後編:毛柄の遺伝〜

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猫の毛柄の不思議

キジトラ猫

 

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

前回は、基礎的な遺伝のしくみについてお話しました。今回は、猫のバリエーション豊かな毛柄が、具体的にどのような遺伝子によって作られるのかについて解説したいと思います。

<猫の毛柄と遺伝の話〜前編:遺伝の基礎編〜>へのリンク

 

前回もお話ししたように、イエネコの祖先のリビアヤマネコは、現在のキジトラ猫と同じ毛柄のワンパターンしか持っていませんでした。それが野生の他のヤマネコ等との自然交配や人為的交配を経て、毛柄のバリエーションが豊かなイエネコができあがったのです。

 

猫の毛柄も遺伝します。しかし、母親も父親も白猫なのに黒猫が生まれるなど、必ずしも親猫と同じ毛柄や似た毛柄になるとは限りません。また三毛猫やサビ猫はメスにしか現れず、オスはごく稀にしか生まれません。猫の毛柄の遺伝のしくみが分かると、こういった不思議な現象も説明できるようになります。

 

 

基本の色を決める遺伝子

黒猫

 

猫の基本の毛色を決める遺伝子は、4種類あります。

 

1つ目は黒系の色を決める遺伝子で、B、b、blという3つの型があります。Bは優先的に特徴を現せるため、1つあるだけで毛の色を黒にします。bbまたはbblというペアになると毛の色はチョコレート色(ブラウン)に、blblというペアになるとシナモン色(ライトブラウン)になります。

 

2つ目は茶系(オレンジ)の色を作る遺伝子で、Oとoの2つの型があります。Oは茶色の毛を作り、oは茶色の毛を作らずに黒系の遺伝子の色に従います。そのためOoの組み合わせを持つと、茶色い毛の部分と黒系の毛の部分の両方を持った、二色の猫になります。

 

3つ目は白猫にする遺伝子で、Wとwの2つの型があります。Wが1つでもあれば全身真っ白な白猫を作り、wwだと白猫にはなりません。

 

4つ目は、1本の毛の色を単色にするか黒と茶褐色で複数の層を持つアグチ毛にするのかを決める遺伝子で、Aとaの2つの型があります。Aが1つでもあればアグチ毛になり、aaだと単色の毛になります。なおアグチ毛の部分には、うっすらとした模様が現れるという特徴があります。

 

これらの4つの遺伝子がそれぞれどういう型の組み合わせを持つかによって、猫の基本となる毛柄が決まります。例えばWを1つでも持っていれば、他の遺伝子がどのような組み合わせでも、必ず白猫になります。wwの場合は、Bを1つでも持っていれば黒い毛を持つ猫に、Oを持っていれば茶色い毛を持つ猫になるといった具合です。

 

例えば母猫がWw、父猫もWwの組み合わせを持つ白猫だった場合、生まれた子猫の組み合わせがwwになると、黒系や茶色の毛を作る遺伝子型の組み合わせに従って、色の付いた猫になるのです。

 

模様を決める遺伝子

茶トラ猫

 

猫の毛柄の基本となる模様には2種類あります。白い斑が入るケースと、縞模様が入るケースの2種類です。

 

白い斑を入れる遺伝子にはSとsの2つの型があります。Sが1つでもあれば体のところどころに白い斑を出現させ、ssだと白斑のない基本の色だけを持つ猫になります。

 

縞模様を出す遺伝子には2種類あり、1つはUとu、もう1つはMcとmcという遺伝子型を持っています。この4つの遺伝子型の組み合わせにより、鯖のような縞模様(マッカレルタビー)やアメリカンショートヘアーのような太くて横腹に的のような渦巻きが現れる縞模様(ブロッチドタビー)などの模様を出現させます。

 

普段よく目にするキジトラ猫は、アグチ毛を作るAの遺伝子型とマッカレルタビーを作る遺伝子型の組み合わせを持ち、茶トラ猫はOの遺伝子型とマッカレルタビーを作る遺伝子型の組み合わせを持っています。

 

またSを持ったキジトラ猫はキジトラ柄と白い部分のある二色の猫に、Sを持った茶トラ猫は茶トラ柄と白い部分のある二色の猫に、Sを持った黒猫は、黒と白の二色の猫になります。

 

アレンジを加える遺伝子

サバトラ猫

 

猫の毛柄の基本パターンは、ここまでご紹介してきた6種類の遺伝子によって出来上がります。この基本パターンにアレンジを加える3種類の遺伝子もご紹介しましょう。

 

1つ目は色の発色を抑制する遺伝子で、Iとiの2つの型があります。Iを1つでも持っていると、毛の根元の部分が白くなったり褐色部分の黄色みが白くなったりします。例えばキジトラ猫の場合、アグチ毛の茶褐色部分の黄色味が白くなるため、毛色全体が鯖のような色合いのサバトラ猫になります。iiだと色の抑制は起こりません。

 

2つ目は色そのものを薄める遺伝子で、Dとdの2つの型があります。Dを1つでも持つと、黒はグレー、チョコレートはライラック、シナモンはフォーン、茶色はクリーム色になります。ddだと色は薄まりません。

 

3つ目はカラーポイントを作る遺伝子で、C、cb、cs、cの4つの型があります。Cが1つでもあると何の変化も起こりませんが、cbやcsの組み合わせによって、セピア色の毛になったり、顔・足先・尻尾といった体の先端が濃い色のポイントになったりします。シャム猫やトンキニーズ、バーミーズなどの猫種の毛柄は、これらの遺伝子により作られています。

またccの組み合わせを持つと、アルビノといって色素を作れない真っ白な猫になります。Wを持つ白猫は色素を作れるので、瞳にブルーや黄色などの色が現れますが、アルビノは色素が作れないので奥の血管の色が透けて赤い目になります。

 

三毛猫とサビ猫の不思議

サビ猫

 

猫の毛柄を決める遺伝子のほとんどは常染色体上にありますが、茶色の毛を作る遺伝子だけは、性染色体のX染色体上にあります。そのため、黒系の色と茶色の両方を同時に持てるOoという遺伝子型の組合せは、メス猫しか持てません。オス猫はX染色体を1本しか持っていないため、Oまたはoの1つしか持てないからです。

 

そのため、黒と茶の二色を持つサビや、サビに白斑の入った三毛の毛柄は、メスにしか現れません。

 

しかし、ごく稀にオスのサビ猫や三毛猫が生まれます。オスのサビ猫や三毛猫は、性染色体がXXYになってしまう性染色体異常であるなど、何らかの障害を持っていると考えられています。Y染色体を持っているため外見上はオスになりますが、性染色体に異常があるため、オスのサビ猫や三毛猫には生殖能力がないケースが多いようです。

 

ポイント

三毛猫

ポイント

・猫の毛柄を決める主な遺伝子には9種類あります

・それぞれの遺伝子には複数の遺伝子型があり、その組み合わせで毛柄が決まります

・猫の毛色の基本は黒、茶、白の三色です

・茶色の毛色を作る遺伝子だけが性染色体のX染色体上にあります

・サビと三毛は、通常メス猫にしか現れない毛柄です

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