猫を多頭飼いする際の注意点
多頭飼いにチャレンジ!!
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
一般社団法人日本ペットフード協会の令和元年の犬猫飼育実態調査では、猫飼育世帯の平均飼育頭数が2.63匹で、多頭飼いは増えてきているのだそうです。なぜ人々は多頭飼いをしたくなるのでしょうか。昼間長時間、猫ひとりで留守番させるのが可哀想だと考える方が多いようです。
確かに仲良しの猫と一緒にいれば、長時間のお留守番も寂しくないでしょうし、ひとりではなかなか上手に毛繕いできない部分もお互いに協力できるでしょう。追いかけっ子などをして運動不足になることもないでしょう。飼い主様も多頭飼いなら安心して出かけられ、また個性豊かな猫たちに囲まれた暮らしは楽しいです。
しかし、それは多頭飼いが成功した場合の話です。実は猫の多頭飼いはそんなに簡単なことではありません。なぜなら猫は保守的で、それまで通りの暮らしを続けていきたいと願っているからです。
猫にとって縄張りはとても大切です。縄張りにいることで安心して過ごせるからです。その縄張りに知らない猫がやってきたら、当然警戒し、追い出そうとします。そのため2頭目以降を迎え入れる時に、どうしても先住猫は神経質になって大きなストレスを抱え、それが原因で心身の健康に不調をきたす場合すらあるのです。
飼い主様にとっても、多頭飼いは楽しいことばかりではありません。当然お金も猫のために使う時間も、今まで以上に必要になります。多頭飼いで、食事や排泄など個別に健康管理をするのは大変です。災害時には、すべての猫たちと共に安全に避難しなければなりません。
そこで今回は、猫を多頭飼いする際の注意点や心構えについてお伝えしたいと思います。
多頭飼いに必要な条件
まず、猫を多頭飼いする場合に必要な条件を列挙してみましょう。
1.家の広さが十分であること
猫の飼育可能頭数の目安は、部屋数−1です。どんなに多くても、部屋数の2倍が上限だと言われています。何かあった時に隔離できる部屋があること、猫のソーシャルディスタンスであるといわれている2mを維持して過ごせることなどを考慮してください。
2.時間や経済的な余裕が十分にあること
飼育頭数が増えれば増えるほど、猫のお世話に必要な時間は増えていきます。また、フードや猫砂、ペットシーツなどはある程度まとめ買いができますが、トイレ、食器類、キャットタワー、キャリングバッグや医療費などは、頭数分必要になります。
3.飼い主様に何かあった時に複数の猫の世話を頼める人がいること
飼い主様が長期間家を空けなければならなくなった場合等に、複数の猫たちのお世話を頼める人の有無も大きいです。ペットホテルやキャットシッターさんにお願いする場合は、当然費用が必要です。また、同行避難が必要になった時に、すべての猫たちと安全に避難できるか否かも重要なポイントです。
4.先住猫がおおらかで社交的な性格であること
これが最も大きな条件です。前述の通り、後から2頭目以降をお迎えする場合にもっともストレスを抱えるのは先住猫です。元々神経質で、来客時に姿を隠して帰るまで気配を消してしまうような子の場合は、多頭飼いは難しいかもしれません。
これらをすべて満たせる覚悟を持てない場合は、多頭飼いを諦めることも必要です。これらの条件を満たせる、またその覚悟ができたという場合は、少なくとも下記の物を事前に揃えてから2頭目以降のお迎えを進めましょう。
・お迎えする子がしばらく一人で暮らすための隔離部屋
・対面時にお迎えする子を入れるためのケージ
・お迎えする子の食器や水入れ
・キャリーバッグ(頭数分必要です)
・トイレの増設(頭数+1個以上になるように)
・キャットタワー(猫を増やす場合は増設が必要です)
・それぞれの猫がいざという時に避難できる狭くて暗い場所(複数箇所)
猫は、他の猫の匂いのする場所では排泄したがらないことが多いので、「後で買おう」と思わず、先に用意しておくことをおすすめします。
またお迎えする子を家に入れる前には、必ず健康診断(健康状態の確認、感染症や寄生虫の有無、必要に応じてワクチン接種や去勢避妊手術等も)も必要です。お迎えする子の健康状態が明確になるまでは、先住猫と同室にさせることはできません。もちろん、先住猫の健康診断も必要です。
これだけ準備をしても、最終的にお迎えを諦めることになるかもしれないという覚悟を持った上で、2頭目以降のお迎えを進めましょう。
成功の秘訣は先住猫
繰り返しになりますが、後から2頭目以降を迎え入れる場合、もっともストレスを受けるのは先住猫です。また、飼い主様の愛情を奪われたと思い、嫉妬心から新しい子をいじめてしまい、新しい子も先住猫も共にストレスで体調を崩すこともあり得ます。
飼い主様としては、どうしても新しく迎える子のことが気になってしまうかもしれませんが、多頭飼いを成功させる秘訣を握っているのは先住猫だと心得てください。
先住猫にとって、お迎えする子は自分の縄張りに侵入してきた不審者ですから、排除しようとするのが当たり前なのです。それを迎え入れてもらうためには、飼い主様の愛情が先住猫に十分に注がれていることを示す必要があります。常に先住猫を優先することを忘れないでください。
ここで猫同士の相性についても少し触れておきます。相性が良いといわれているのは、母子、兄弟姉妹などの、血縁関係がある猫同士です。先住猫と血縁関係がある猫だと、うまくいく可能性が高いかもしれません。
また血縁関係がなくても、子猫同士の場合は仲良くなりやすい傾向があります。先住猫がまだ若く、迎え入れるのも子猫の場合は、うまくいく可能性が高いでしょう。
うまくいかないケースは、先住猫が神経質だったりシニアだったりする場合です。その場合は、迎え入れる子が子猫でも難しい場合が多いようです。また、成猫の未去勢のオス同士は縄張り意識がとても強いため、うまくいかないことが多いようです。
もし、多頭飼いを望んでおられる場合は、最初から兄弟姉妹の猫を一緒に迎え入れるのが、最も成功するケースだと思います。後から2頭目以降を迎え入れる場合は、前述の準備をした上で、1〜2週間程度の隔離生活、ケージに入れて短時間の対面を数回繰り返し、大丈夫そうであればケージから出す時間を作るといったように、焦らずに時間をかけて、ゆっくりと馴らしていくようにしましょう。
常に心配りと改善を
最後に、猫のストレスサインと言われているものをご紹介します。常に猫たちの様子をよく観察し、ストレスサインが認められた場合は、生活環境を改善して猫たちが安心して過ごせる環境を作ってあげてください。
・頻繁に不適切な場所で排泄する
・暗くて狭い場所に閉じこもって姿を現さなくなる
・自分の体を舐め続けて脱毛や出血を起こす
・グルーミングをしなくなり毛艶がなくなる
・他の猫をしつこく追いかけ、追い詰める
・食欲不振、元気消失
・膀胱炎、便秘 等
またたとえ多頭飼いであっても、以下の項目は1匹1匹の猫に対して個別に管理する必要がありますので、注意してください。
・食事:フードの内容、給餌量、横取りさせない・されないように監視する
・排泄:排尿の回数や量の識別。正確な数値でなくても「多飲多尿」等を察知できること
・病気になった猫への看護や投薬(他の猫のお世話もこれまで通りに継続すること)
・老齢期になった猫への介護(他の猫のお世話もこれまで通りに必要)
ポイント
ポイント
・猫の多頭飼いは人間側の思いであって猫の思いとは異なる
・猫は自分の縄張りに侵入してくる相手を不審者だと思い排除しようとする
・多頭飼いをするのであれば、最初から血縁関係のある子猫を迎え入れるのがベスト
・後から2頭目以降を迎え入れる場合は先住猫を常に優先すること