療法食は何のためにあるの?
療法食って何?
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
皆さんは、愛犬や愛猫のお食事にペットフードを利用されているでしょうか。今回は、ペットフードの中の「療法食」についてお話したいと思います。
ペットショップやホームセンター、ネットなどでは、とても豊富な種類のペットフードが売られています。日本のお店で販売されているペットフードの包装には、ペットフード安全法やペットフードの表示に関する公正競争規約で定められている9項目が必ず表示されています。それは①名称(犬用か猫用かの明示も)、②賞味期限、③原材料名、④原産国名、⑤事業者名・住所、⑥用途、⑦与え方、⑧内容量、⑨成分です。
もしかすると、この項目を見て「『用途』って何?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。フードなのでもちろん食事ではあるのですが、私たちの食事と同じように「主食」や「おかず」、食事の合間に楽しむ「間食」などのように、ペットフードにも用途別にいくつかの種類があるのです。
この種類を正しく知り、用途に合った使い分けが必要です。特に療法食は、特定の病気に対する治療の一環として、病気の犬や猫の栄養管理を行うための特殊なフードです。そのため、病院の処方と関係なく自由に与えてしまうと、問題が起きることもあります。
そこで今回は、療法食についての考え方や注意点についてお話したいと思います。
獣医師の処方が必要な理由
ペットフードには、用途別に総合栄養食、一般食(副食)、おやつ(スナック・間食)、療法食があります。いずれもペットショップやホームセンター、ネットなどで売られています。そして総合栄養食、一般食、おやつに関しては、動物種や年齢に応じて、飼い主様がそれぞれ主食やおかず、おやつ(ご褒美)といった使い分けをされています。
しかし、療法食は飼い主様が自由に選ぶことはできません。必ず獣医師の処方により開始し、病気の進行に合わせて見直したりやめたりといった診断が必要です。その理由をご説明しましょう。
基本的に、ワンちゃんや猫ちゃんのお食事をペットフードにされている場合、総合栄養食を柱にしているでしょう。そのため、分かりやすくするために、総合栄養食と療法食を比較する形でお話を進めていくことにします。
総合栄養食は、いわば完全食のようなもので、水と総合栄養食だけを与えていれば、必要な栄養素をすべてまかなえる、栄養バランスの整ったフードです。そのため、健康なワンちゃんや猫ちゃんの健康維持には、総合栄養食と新鮮な水をきちんと与えていれば基本的に問題ありません。
療法食は、特定の病気に対する食事療法の主食や間食として利用するために、特定の栄養素を制限したり強化したりしたフードです。つまり、健康な犬や猫の食事としては、栄養バランスが整っていません。そのため、病気の進行具合やその時の体調によって、きめ細かく最適な療法食を選んで与えなければなりません。そうしなければ、特定の栄養素に過不足が生じて、ワンちゃん猫ちゃんの体調を崩してしまうことにもなりかねません。
また総合栄養食には、栄養基準が定められています。そのためどのメーカーのフードを選んでも、動物種と年齢に必要な栄養素をまかなえます。
しかし療法食には、そのような栄養基準が定められていません。代わりに、科学的に検証が可能な論文や専門書、学術団体の指針、特許、社内研究等を根拠に、栄養成分量や比率の調整などを行っています。そのため、同じ動物種の同じ病気に対する療法食でも、そのメーカーが採用している根拠によっては、栄養成分に違いがあることもあるのです。
さらに病気によっては、ステージ毎に必要なエネルギーや制限すべき栄養素が変化する場合があります。例えば慢性腎臓病の場合、初期段階では良質なタンパク質をしっかり摂らせて体重や筋肉の減少を抑える必要があります。そしてステージが進むにつれて、水やエネルギーを増やし、リンやタンパク質は減らしていかなければなりません。このように、同じ病気の療法食でも、それぞれのステージに応じて選ぶべき製品が異なる場合もあるのです。
どの療法食が今のワンちゃんや猫ちゃんに最適なのかを、その都度正しく見極める必要があるため、獣医師が定期的な診療の中で治療効果や現状を確認し、療法食の継続や見直しについて適宜判断しなければならないのです。
自己判断が危険な理由
療法食は薬ではありませんので、通常のペットフードと同じように、飼い主様が自由に購入できてしまいます。そのため、時々療法食を自己判断で始めたり変更したりされる方がいらっしゃいます。それはとても危険なことなので、やめてください。
例えば、まだ健康なときから療法食を食べさせることで、その病気を予防できると勘違いされる方がいらっしゃいます。健康な犬や猫に療法食を食べさせても、病気の予防はできません。それどころか、栄養バランスの崩れた食事をさせることになりますので、健康を維持することすら難しくなってしまいます。
また先述のように、同じ病気に対する療法食でも、多くの種類が出ている場合があります。店頭に並んでいる療法食を自己判断で購入すると、ワンちゃんや猫ちゃんの状態には合っていない栄養組成のフードを間違えて買ってしまうかもしれません。間違いを起こさないためにも、療法食は受診時に病院で購入することが、最も安全かつ必要量を無駄なく購入できる方法だと考えています。
さらに、主食は療法食に切り替えてくださったのに、これまで通りに一般のおやつをあげてしまうため、療法食の効果が全く出ないといった例もあります。大抵の療法食は、特定の栄養素を制限しています。しかし、そこに通常のおやつをあげてしまうことで、せっかく制限した栄養素の摂取量が多くなりすぎてしまうためです。
療法食に切り替えた場合、おやつも控える必要があります。ただし、これなら食べさせても良いという療法食用のおやつが出ている場合もありますので、どうしてもおやつをあげたい場合は、獣医師に相談してください。特に、ご家族の中にこっそりと普通のおやつをあげてしまう方がおられると問題です。あげても大丈夫なおやつしかあげないということを、ご家族内で徹底する必要があります。
切り替えには根気が大切
いざ食事療法を始ようと決めた場合、フードの切り替えに苦労されるかもしれません。療法食は食べてもらわなければ意味がありませんので、メーカーも厳しい手順を踏んで、犬や猫への嗜好性を研究し製品化しています。それでも、フードの切り替えには時間がかかる場合が多いです。
療法食しか食べさせてはいけないと焦る必要はありません。療法食を食べてくれるようになるまでは、気長にじっくりと取り組む姿勢が大切です。今までのフードに少しずつ療法食混ぜていくことで、徐々に療法食に切り替えていきましょう。
目安は、療法食の比率を1割ずつ増やしていくという方法です。スムーズにいけば10日で療法食に切り替えられる計算になりますが、そううまくはいかないことも多いです。完全に療法食に切り替えられるまで、少しずつ、根気よくチャレンジしてください。
また、同じ栄養組成でフレーバーが異なる製品がある場合もあります。なかなか切り替えが上手くいかない場合は、ぜひ動物病院に相談してみましょう。試供品をお渡しできる場合もあります。
病気によっては、食事療法に高い治療効果を期待できます。効果を最大限に引き出すためには、飼い主様やそのご家族が団結して、ワンちゃんや猫ちゃんにしっかりと療法食を食べさせることが大切です。療法食による食事療法は、飼い主様ご家族と動物病院、そしてワンちゃん・猫ちゃんが一致団結して、病気に立ち向かっていく治療法なのです。
ポイント
ポイント
・療法食は獣医師の処方が必要なフードです。
・療法食は特定の病気に合わせて栄養バランスを調整しています。
・健康な犬・猫に療法食を与えても、病気の予防はできません。
・飼い主様の自己判断で療法食を始める・やめる・変更するのは危険です。
・時間をかけて根気よく療法食に切り替えましょう。
・療法食に切り替えても、普通のおやつをあげてしまっては意味がありません。
・飼い主様のご家族、動物病院、愛犬・愛猫が一致団結して病気に立ち向かうのが食事療法です。