箱があったら入りたくなるのが猫の気持ち
箱や狭い場所が好きな猫
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
このブログを読んでくださっている中には、「動物のお医者さん」という漫画を読んだことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。1987〜1993年にかけて連載されていた少女漫画で、獣医を目指す青年の物語です。漫画の人気と共に、主人公が飼っているシベリアンハスキーが実際に一大ブームとなりました。
主人公の家には、ミケという名のおばあちゃん猫もいました。ある回で、そのミケが主人公の家にもらわれることになった経緯が描かれています。引越し業者の手違いにより、段ボール箱の中に閉じ込められ、トラックの荷台で潰されそうになって命からがら逃げ出し、子どもに追いかけられ川に流され犬に吠えられて逃げ込んだ先が、凶暴な鶏のいる主人公の家の庭だったのです。
その回の〆の言葉は、『ミケの犬嫌いと子供嫌いとニワトリ嫌いはこのときの体験からきているものと思われる。しかしそれならせまいところにはいるのはどうしてキライにならないのか。それは謎である。』でした。
つまり、そのくらい猫は狭い箱のようなところに入るのが好きなのです。猫と一緒に暮らしている方は、荷物を取り出した箱の中にいつの間にか入り込んでいた、洗面台にすっぽりハマって眠っていたというような姿を、複数回目撃されているのではないでしょうか。
今回は、箱のような窮屈なところを見つけると入らずにはいられない猫の心理について、考えてみたいと思います。
猫の習性
猫の心理を探る前に、そもそも猫がどのような習性を持っているのかについて、整理しておきましょう。猫の祖先は、約6,500万年前〜4,800万年前に、ヨーロッパ大陸の森に生息していたミアキスというイタチのような姿をしている動物でした。そのまま森に残ったミアキスはリビアヤマネコを経て猫へ、草原へと出ていったミアキスはタイリクオオカミを経て犬へと進化したのだと考えられています。
森に残った猫たちは、群れを作らずに単独で樹上や岩陰などを利用し、小動物や鳥を捕食しながら暮らしていました。そのため、木登りは上手ですが、長時間平地を走って獲物を捕まえるのは苦手です。そこで、樹上や岩陰に身を潜めて獲物が射程圏内に入ってくるのをじっと待ち伏せする戦略を確立したのです。
また、猫たちは体が小さかったため、自らもいつ捕食されるかわかりませんでした。そのため岩陰などに身を潜めることは、自分の身を守ることにも繋がりました。
箱を見ると入りたがる理由
<安心できる場所>
オランダの大学が、保護施設に新しく保護された猫たちのストレス度を調査しました。その結果、ケージの中で身を隠せる箱が用意されたグループの猫たちは3日程度でストレス度が低下し、箱が用意されなかったグループの猫たちはストレス度が低下するのに約2週間を要したということでした。
つまり、箱があることで猫たちは安心して過ごすことができ、全く新しい環境にも早く順応できることが、科学的にも証明されたといえるでしょう。
箱のような狭くて外界から遮断される空間に入ることで、猫はストレスを低下させ、落ち着いて過ごせるのです。現代の猫にとっても、敵から身を守るための岩陰のような、外界から隔離された場所は必要なのです。
<箱の中は暖かい>
人間にとっての適温は26〜27℃程度ですが、猫にとっての適温は27〜28℃程度と、人間よりも高いです。逆に犬にとっての適温は20℃程度と低いです。そのため、一緒に暮らしている環境の適温が誰にあっているかが問題です。人間にあっていても犬にあっていても、猫にとっては寒すぎるのです。
そこで、猫は暖を求めて箱のような狭い場所に入り込むのが好きなのだと考える説もあります。狭いと自然と体を丸めることになり、体温を体に溜められるからです。
<獲物を待ち伏せ>
特に活発な子猫時代は、とにかくよく遊びます。猫にとっての遊びは、そのほとんどが狩りのシミュレーションです。そのため、箱の中や家具の裏などに身を隠して待ち伏せをし、通りがかったご家族の足などに飛びかかるといった遊びを好む子が多いようです。
特にストレスを感じたり寒かったりするわけでもないのに箱の中などに入りたがるのは、遊びとしての要素もあるのでしょう。
<狭い場所が好きな動物は多い?>
つい先日、タイの街中に現れたコブラを捕獲する際に、コブラが狭いところを好む習性を利用するという解説付きで、コブラの目の前に蓋を開けたペットボトルを置き、そこに自ら入り込むコブラの映像を目にしました。
また、人間の幼児も洗濯カゴなどの狭いところに入り込みたがることが知られています。確かに、かくれんぼは幼児の大好きな遊びの一つです。このように、実は猫だけではなく、狭い場所に隠れたがる動物は他にもたくさんいるようです。
「適度に強く押さえられる圧覚は心地よく、落ち着くと感じる」という説があります。ダンボールや洗濯カゴなどのように、周囲が囲われていて体が密着している窮屈な状態は、胎内の環境に似ているからだという説です。先のコブラの場合は、卵の中に似ているのだということかもしれません。いずれにしても、猫は窮屈な場所への執着が特に強いのかもしれません。
日常生活における注意点
基本的に猫ちゃんをシャンプーする必要はありません。しかし、濡れた猫を見たことのある方は、被毛がぺしゃっとなってしまった猫の体がとても小さいことをご存知でしょう。つまり、普段見ている猫ちゃんの体が入るとは思えないような狭い場所にも入り込めてしまうのです。
しかも、猫ちゃんの姿が見えずに一所懸命に名前を呼んでも、素直に鳴き返してくれる子は少ないものです。いつの間にか想像もしないような場所に入り込んでしまい、それと気付かずに閉じ込めてしまったり、あるいは猫ちゃん自身が入ったものの出られなくなってしまったりといった事故が起きる可能性は、十分にあり得ます。
戸棚の引き出しやふすまなどのごく狭い隙間から中に入り込んでしまい、それに気付かなかったご家族に閉じ込められてしまうとか、オーディオラックの背中側の穴から中に入り込んでしまい、いざ出ようとしたら壁が邪魔で出られなくなってしまうなどということもあります。
万が一家の中に猫ちゃんの姿が見えなくなってしまった場合は、そういった思いも寄らない狭い場所に入り込んで出られなくなっていないかどうか、確認してみましょう。
また、普段から鍋や洗濯機などの中に入ることを許していると、大事故につながる可能性も否定できません。危険な場所には入れないように、しっかりと管理することを心がけてください。
ポイント
ポイント
・猫は、自分の体がフィットするような窮屈な場所に好んで入りたがります。
・箱の中に身を隠すことで、猫はより速くストレスを下げることができます。
・寒い時には箱の中で暖を取ることができます。
・箱の中で待ち伏せをして、狩りごっこを楽しむことがあります。
・猫は見た目以上に体が小さいため、姿が見えない場合は「まさか」と思うような狭い場所も探してみましょう。
・引き出しや押入れの狭い隙間、オーディオラックのような背面に穴の空いている棚などへの閉じ込め事故に気をつけましょう。
・鍋、洗濯機などの入ると危険な場所の管理は特に気をつけましょう。
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