絶対に必要なの? 犬や猫の肛門腺絞りについて

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誤解されていることの多い肛門腺絞り

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

先日、初めて犬を飼ったという若いご夫婦が、11ヶ月のポメラニアンを連れて来院されました。

朝起きたら、敷物のタオルに500円硬貨くらいの大きさの黄色いシミがあり、インターネットで色々と調べたら肛門腺のことをお知りになって、肛門腺が破裂すると死んでしまうと心配して来院されたとのことでした。

 

このご夫婦は、この子犬をとても可愛がっておられたのですが、肛門腺絞りについては少し誤解されていらっしゃるご様子でした。

最近は、このご夫婦のように、肛門腺絞りについて誤解されておられる飼い主様が多いように感じています。

 

そこで今回は、犬や猫の肛門腺と肛門腺絞りについてお伝えしようと思います。

 

肛門腺の役割

お尻が見える犬

 

そもそも、肛門腺とは何なのでしょうか。

肛門腺とは、肛門の左右に一対ある分泌腺です。袋状をしているので、肛門嚢(のう)ともいいます。

肛門腺の中では強烈なにおいのする分泌液が生産され、溜まっていきます。

 

イタチやスカンクが身を守るために、お尻からとても臭い分泌物を出すという話を聞いたことのある方が多いかもしれませんが、これも肛門腺からの分泌物のことなのです。

肛門腺はイタチやスカンクだけにある訳ではなく、犬や猫にもあるのです。

 

肛門腺で生産される分泌液は、犬や猫それぞれの個体毎に異なるにおいをしているため、個体を識別するために使われています。

犬や猫同士がお互いのお尻のにおいを嗅ぎ合っているところをみたことがある方もおられるのではないでしょうか。

あれは、肛門腺のにおいを嗅いで、相手を認識しているところなのです。

 

また、この分泌液は個体を識別できる固有のにおいがしますので、犬や猫が自分の縄張りを主張するときに肛門腺を擦り付けてにおいを残す、マーキングにも利用しています。

 

犬や猫は、スカンクのように身を守るために分泌物を発射するようなことはありませんが、それでも強烈に驚いたり恐怖を感じたりすると、分泌物が飛び出すことがあるようです。

しかし通常は、排便の時に一緒に出されることが多いです。

そのため、通常の場合は肛門腺に分泌物が溜まってしまうということはあまりありません。

 

肛門線絞りをした方が良いのはどういう場合か

尻もちしている犬

 

しかし、インターネット等の情報を読み、「肛門嚢炎」とか「肛門腺破裂」などのリスクがあるので月に1回程度の頻度で肛門腺を絞らなければならないと思い込まれている方が多いようです。

特に、「肛門腺を絞らないと破裂してしまう」と信じておられる飼い主様が多いように感じています。

 

当院の場合、肛門腺破裂は月に1頭いるかどうかという程度で、発症率がそんなに高い疾患であるという実感はありません。

それは、前述のように排便時に分泌物が一緒に出されることで、肛門腺に分泌物が溜まってしまうということがそんなに多くないからだと考えています。

 

では、どういう場合に肛門腺を人為的に絞ってあげるべきなのでしょうか。

私は、肛門腺に分泌物が溜まるとお尻がムズムズするので後肢を前に出した姿勢でお尻を床や地面などに擦り付けてしまう子の場合は、肛門腺を人為的に絞ってあげる方が良いと思っています。

しかし、特に何の症状も起きていないのに、何がなんでも肛門腺は絞るべきであるとは考えていません。

犬でも猫でも、肛門腺を絞られる時にストレスを感じる子は多いですから。

 

もちろん、肛門腺に分泌物が溜まってしまうことで発症する肛門嚢炎や、肛門嚢炎を放置しておいたことで起こる肛門腺破裂を予防するために、肛門腺絞りは有効な手段です。

しかし、自然に分泌物が出てしまい、肛門腺に分泌物があまり溜まらない子にまで無理やり行うことはないと考えています。

 

肛門嚢炎について

獣医師と犬

 

せっかくですから、少し肛門嚢炎についてもお伝えしておきましょう。

肛門腺から肛門の脇に細い導管があり、そこから分泌物が排出されるのですが、何らかの原因によりその導管が閉じてしまうとか、分泌物が肛門腺に充満したところに細菌が感染してしまうことで発症する疾患です。

 

慢性的に下痢をしている場合や、小型犬、それから肥満体型の子が発症しやすい傾向にあります。

肥満の場合は、肛門括約筋などの筋肉の緊張力が低下することによって起こりやすいようです。

性別や年齢による発生頻度の差はあまりありませんが、ミニチュア・プードル、トイ・プードル、チワワなどの小型犬に多いようです。

 

症状には色々ありますが、肛門部の不快感に起因しているものが多いです。

具体的には、肛門部を舐めまわしたり噛んだりする、肛門部を地面や床に擦り付けて歩く、自分の尾を追いかけてぐるぐると回るなどです。

 

肛門嚢炎をそのまま放置してしまうと膿瘍になり、発熱、食欲低下などの症状も現れます。

さらに進行すると、皮膚が自壊してしまい、穴が開いてそこから膿汁が出、出血も伴います。

 

肛門周囲瘻孔について

トイ・プードル

 

肛門の周辺には、肛門腺以外にも、毛包や汗腺などが分布しています。

そのため、尾根部が太くて、かつ尾が垂れ下がっている犬の場合は、肛門の周囲が常に不潔で湿っていることが多く、それが原因で皮膚が化膿してしまい、肛門周囲瘻孔(ろうこう)という疾患を発症する事もあります。

 

この場合も、肛門嚢炎と似たような症状が現れます。

肛門周囲瘻孔の場合は、肛門を中心とした部分から常に膿みのような分泌物が出ていて、腐敗臭がするという特徴があります。

 

このような疾患もありますので、日々のお手入れの中で、お尻の部分のチェックも重要であることに変わりはありません。

しかし、インターネット等の情報に過敏になりすぎるのも問題ではないかと感じています。

犬にも猫にも、それぞれ個体差があります。

肛門腺絞りの場合も、自然に分泌物を排出できる子にまで、当然のように行う必要はないのではないかと思うのです。

 

ワクチン接種など、他の用件で動物病院にいらした時に、お気軽に「肛門腺、溜まっていますか?」と聞いて頂ければ、確認致しますしアドバイスを差し上げる事もできます。

 

当院の場合、肛門嚢炎の治療として肛門腺の中の分泌物を出しきる場合は獣医師が肛門に人差し指を入れ、親指と人差し指で圧迫して完全に分泌物を出しきる処置を行います。

予防やお手入れの一環として肛門腺の中の分泌物を排出させる場合はトリマーまたは看護師が肛門を下横方向から押し出して分泌物を絞ります。

 

その子の状況に応じて適切な方法を判断致しますので、あまり「絞らなければならない」と思い込むのではなく、遠慮なさらずお気軽にお声がけ頂ければと思います。

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