【獣医師解説】犬や猫の肛門腺絞り|必要な場合と正しい方法

ペットの健康としつけ

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

「肛門腺絞りは定期的に行うべき」といった話を耳にする飼い主様も多いのではないでしょうか。しかし、実際にはすべての犬や猫に必要な処置ではありません。むしろ、健康な場合は無理に絞る必要はなく、逆にストレスを与えることもあります。

 

今回は、肛門腺の役割や正しいケア方法、トラブルが起きた際の対処法について詳しく解説していきます。

肛門腺の基礎知識

肛門腺は、肛門の左右にある袋状の分泌腺で、「肛門嚢(のう)」とも呼ばれます。この腺では強い臭いを持つ分泌物が生成されます。犬や猫はこれを用いて、以下のような行動を行います。

 

・個体識別:犬や猫は、肛門腺の匂いを嗅ぎ合うことで相手を認識します。
・マーキング:肛門腺の匂いを擦り付けて縄張りを主張します。

 

通常は、排便時に腺が圧迫されて分泌物が自然に排出されます。そのため、健康な犬や猫では肛門腺が溜まり続けることは少なく、特別なケアが不要なことも多いです。

 

いつ肛門腺絞りが必要なのか

インターネットでは、「肛門嚢炎」や「肛門腺破裂」などのリスクがあるので月に1回程度の頻度で肛門腺を絞らなければ「肛門腺が破裂する」といった情報が広まっています。しかし、すべての犬や猫に必要なケアではありません。当院でも肛門腺破裂は月に1頭いるかどうかで、発生頻度はそれほど高くありません。

 

しかし、以下の症状が見られる場合は、肛門腺に異常がある可能性があり、絞りが必要になることがあります。

 

注意すべき症状
・床擦り行動:お尻を床に擦りつける動作を繰り返す場合。
・過剰な舐め行動:肛門や尾の付け根を頻繁に舐める場合。
・肛門周囲の異常:腫れ、発赤、出血、または悪臭がする場合。
・行動の変化:落ち着きがなく、座り方や動きがぎこちない場合。

 

肛門腺絞りが必要なケース
以下の場合には、肛門腺絞りが適切な処置となります。

 

慢性的な下痢が続いている場合(自然排出が難しくなる)
肥満や高齢の場合
小型犬(トイプードルやチワワなど)である場合
肛門嚢炎や過去の既往歴がある場合

 

肛門腺絞りの正しい手順

当院では、以下の方法で肛門腺の状態に応じたケアを行っています。

 

1.状態の確認
肛門周囲の腫れや炎症、分泌物の貯留状態を視診・触診で確認します。

 

2.内側からの処置(獣医師が行います)
重度の貯留や炎症の場合は、手袋を装着し、肛門内に指を挿入して親指と人差し指で腺を圧迫しながら分泌物を排出します。その後、洗浄と消毒を実施し、必要に応じて抗生物質を処方します。

 

3.外側からの処置(トリマーや看護師が行います)
軽度の貯留の場合、肛門の外側を押して分泌物を絞り出します。

 

自宅で処置する際の注意点
肛門腺絞りは力加減が重要です。過剰な力を加えると、腺や周囲組織を傷つけるリスクがあります。初めて行う場合は、必ず獣医師の指導を受けてください

 

肛門腺のトラブルと対処

健康な犬や猫では、肛門腺は排便時に自然に分泌物を排出する仕組みが備わっているため、特別なケアが不要なことがほとんどです。しかし、さまざまな理由でこの仕組みが正常に機能しない場合、肛門腺に分泌物が溜まり続けることで不快感を引き起こしたり、炎症などのトラブルに発展することがあります。

 

肛門腺に関連する主な疾患についてお伝えします。

 

肛門嚢炎
肛門嚢炎は、分泌物の貯留が原因で細菌感染が起きる状態です。
主な症状:肛門周囲の腫れ、赤み、強い痛み
治療:分泌物の排出後、抗生物質や消炎剤を使用

 

肛門腺破裂
肛門腺が破裂すると、分泌物が皮膚を通じて外に漏れ出し、炎症がさらに悪化します。
主な症状:肛門周囲の出血、膿、強い痛み
治療:排出後の患部洗浄、抗生物質、場合によっては手術

 

予防と日常のケア

肛門腺のトラブルを防ぐためには、日頃の生活習慣や観察が大切です。

 

日常の観察:定期的に便の形状や硬さ、お尻の周囲に異常がないかを確認してください。
適切な体重管理:肥満は肛門腺トラブルのリスクを高めるため、適正体重を維持することが大切です。
適切な排便管理:高繊維質のフードを与える、十分な運動を取り入れるなどして、便が腺を自然に圧迫できる健康な排便状態を維持しましょう。

 

飼い主様へのメッセージ

肛門腺絞りは、すべての犬や猫に必要なケアではありません。健康な場合、自然に分泌物が排出されるため、無理に絞ることでストレスやトラブルを招くこともあります。

 

肛門腺に関する不安や異常が見られた場合は、無理に自宅で処置せず、獣医師にご相談ください。当院では、一頭一頭の状態に応じた適切なケアを行っています。

 

まとめ

・肛門腺絞りは健康な犬猫には必要ありません。特定の症状がある場合にのみ実施します。
・注意すべき症状には床擦り行動、肛門周囲の腫れ、悪臭です。
・肛門嚢炎や破裂などのトラブルは早期に獣医師に相談することで予防可能です。
・健康的な生活習慣と定期的な健康診断が予防の鍵です。
・異常が見られた場合は、無理に処置せず、動物病院で診察を受けてください。

 

横須賀・三浦・逗子・葉山エリアを中心に診療する動物病院
つだ動物病院

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