老化?もしかしたら病気の症状かも!
シニア向けの健康管理
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
環境や生活様式、医学、栄養学の発達などにより、私たち人間と同様、ワンちゃんや猫ちゃんたちも長生きできるようになってきています。今では、犬も猫も平均寿命が15歳前後にまで伸びているのです。
もちろん犬種や個体による違いはありますが、概ねどのワンちゃんや猫ちゃんも、7歳を過ぎた頃から少しずつ老化の兆しを見せ始めることが多いです。そう考えると、いわゆるシニア期と言われる期間も伸びているということが分かります。
シニア期に入ると、ワンちゃんや猫ちゃんにも老化現象と言われる心身の変化が見られるようになります。その変化の一つに、免疫力の低下が挙げられます。免疫とは、自分の体に侵入してきた病原体と戦い、健康状態を維持する力のことです。この免疫力が低下することで、シニア期に入った動物たちは病気にかかりやすくなり、持病が悪化しやすくなり、病気が治りにくくなります。
飼い主様は、ワンちゃんや猫ちゃんの食事、健康管理や日々の運動に気を遣われていると思います。もちろん、若い頃から継続的にこれらを管理することは大切なのですが、免疫力が低下するシニア期に入ったら、シニア期なりの管理の仕方に切り替える必要があります。特に病気の早期発見・早期治療は、若い頃以上に大切になると言えるでしょう。
そのためには、病気の兆候を見逃さないことがとても大切です。特に飼い主様には、老化現象だと思い込んで病気の兆候を見逃さないように注意していただきたいと思います。なぜなら、老化現象の中には病気の症状とよく似たものがたくさんあり、気付いたときには手遅れだったということも少なくないからです。
そこで今回は、老化現象とよく似た病気の症状をいくつかご紹介します。気になる症状が見られた場合は、ぜひかかりつけの動物病院で診てもらうようにしてください。併せて、7歳以降は年に2回以上の定期的な健康診断の受診もおすすめします。
ワンちゃんや猫ちゃんの病気を早期発見・早期治療することは、シニア期のワンちゃんや猫ちゃんに過剰な負荷をかけずに長生きしてもらうサポートになります。
外見に現れる変化
◯全体的にやせてきた
人と同じように、動物たちも年を取るとやせてくることが多くなります。筋肉量が減ることで運動量が減り、そのためさらに筋肉量が減るという悪循環になりやすいからです。
しかし、慢性腎不全、心不全、糖尿病、肝臓病などが進行した結果、食欲がなくなった、または食べているものの消化吸収がうまくできなくなったという理由で痩せてきたというケースもあります。普段から食事の量と体重の変化を記録し、変化が見られた場合はかかりつけの動物病院で相談するようにしましょう。
◯お腹が出てきた
人の場合、歳を取るにつれてお腹だけがぽっこりしてくるケースがあります。同じように犬や猫も、特に太ってきたわけではないのにお腹がぽっこり出てくることがあります。その場合、子宮蓄膿症(未避妊メス)や副腎皮質機能亢進症、心不全、肝臓病などの症状で、子宮に膿がたまっていたり、腹水がたまっていたりする可能性も考えられます。
◯毛ヅヤが悪い、シミが増えた
人が歳を取ると、皮膚にシミができたり髪の毛の質が変化したりします。同じように、犬や猫もシミができたり毛ヅヤが悪くなったりします。特に毛ヅヤが悪くなると、すぐに気づかれると思います。
犬の副腎皮質機能低下症は、症状として毛ヅヤが悪くなったり皮膚の黒ずみやシミができたりします。また猫の副腎皮質機能亢進症や甲状腺機能亢進症の症状でも、毛ヅヤが悪くなりやすいです。毛ヅヤやシミも老化現象だけが原因とは限らないため、他の症状も見られないかなど注意を払いましょう。
行動に現れる変化
◯歩き方が変わった
人の老化と同様に、犬や猫も老化により筋力が低下し、歩く時にふらついたりよぼよぼしたりと、歩き方に変化が見られます。
この場合も単なる老化ではなく、変形性関節症、変形性脊椎症、椎間板ヘルニアなどの病気が原因の場合があります。歩き方に変化が見られた場合も、かかりつけの動物病院に相談することをおすすめします。
◯物にぶつかることが増えた
老化に伴い、犬や猫も視力が低下してきます。それだけではなく、白内障や緑内障などの目の病気にもかかりやすくなり、ほとんど目が見えない、または失明してしまっていることもあります。
ただし、犬や猫は視力よりも聴力やひげなどの触覚、また室内の家具配置の記憶などにより、目が見えなくても生活できてしまうことが多く、見えなくなっていることに飼い主様が気付かないことがあります。歩く時に物にぶつかることが増えたなと感じた場合は、目の病気なども疑ってみましょう。
◯若かった時以上に元気
猫の場合、歳を取ったのによく食べるし若かった頃より元気で活動的になったという変化も、危険信号の一つです。甲状腺機能亢進症という病気の可能性が疑われます。よく食べる割には体重が減ってきた、落ち着きがない、よく吐く、多飲多尿など他の症状も見られないか、よく観察してください。
◯寒がりになった
犬の場合は、甲状腺機能低下症を発症しやすく注意が必要です。ぼーっとしていることが増え、以前よりも寒がることが増えたという場合は、この病気の可能性があります。他にも、疲れやすい、体重が増えてきた、体に左右対称の脱毛や尾の脱毛が見られるなど他の症状も見られないか、よく観察してください。
その他の変化
◯オシッコの回数が増えた
人は加齢に伴って頻尿になることがありますが、犬や猫の場合にお水を飲む量が増えてオシッコの量や回数が増えた場合、強く疑われるのが泌尿器系の病気です。尿石症、膀胱炎、膀胱の腫瘍、腎不全、そして非去勢オスの場合は前立腺肥大などの病気が疑われます。オシッコの量や回数、排尿時の様子などに変化が見られた場合は、迷わずすぐに診てもらいましょう。
◯ウンチを漏らすようになった
ウンチを漏らすのも、老化の他に病気が隠れていることがあります。大腸や直腸の病気で重度の下痢になった、巨大結腸症や会陰ヘルニアで腸や肛門周囲に便がたまりすぎた、脳神経系の病気によりうまくコントロールできなくなったなど、病気の種類もさまざまです。「介護に下の世話はつきもの」と諦めず、まずはかかりつけの動物病院に相談してみましょう。
◯口臭がきつくなり、歯が抜ける
犬や猫は虫歯にはなりにくいのですが、歯周病にはなりやすく、若い頃から歯磨きによるケアが大切です。あまり口内ケアができていなかった場合、歯周病が進行して口臭がきつくなり、歯が溶け、抜け、更に進行すると歯周病菌が内臓にまで感染してしまうことがあります。
犬も猫も、3歳以上になると8割以上が歯周病だという報告もありますので、シニア期の口臭の変化や歯の状態には、特に気をつけましょう。
◯よく咳をするようになった
シニア期の犬や猫がよく咳をするようになった場合、「体が弱ってきて風邪をひきやすくなったのかな」と思われるかもしれません。しかし咳には、風邪以上に深刻な病気が隠れていることがありますので、注意が必要です。
シニア期になると心臓の病気になる犬や猫が増えてきます。心臓の機能が低下すると、肺水腫と言って肺に水が溜まり、溺れているような状態になるため、呼吸が良くできず、咳をしたり荒い息遣いになったりするのです。咳=風邪と軽く考えずに、しっかりと診てもらいましょう。
ポイント
ポイント
・歳を取ると免疫力が低下して、病気にかかりやすく、かつ治りづらくなります。
・老化現象だと思い込んでいると、病気の兆候を見逃すことがあります。
・日頃から食事量や排泄の状況、体重などを記録し、変化に気づいたら診てもらいましょう。
・シニア期の犬猫は、特に「見た目」「行動」「排泄」の変化に注意しましょう。
・日頃の健康管理に加え、シニア期に入ったら年に2回以上の健康診断を受け、病気の兆候を見逃さないようにしましょう。