フードの管理と食中毒のリスク

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犬や猫も食中毒に要注意

調理風景

 

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

梅雨が明け、暑い日々が続いています。気温が30℃を超える地域もたくさん出てきています。細菌が最も繁殖しやす環境が、30〜40℃の温度と適度な水分です。つまり、高温多湿の日本の夏は、細菌にとってとても天国のような環境であり、細菌性の食中毒には注意が必要です。

 

そこで今回は、一緒に暮らしている愛犬や愛猫を食中毒から守るためのフードの管理や、万が一食中毒になってしまった時の症状などについてお話ししたいと思います。

 

犬や猫の胃液は強酸性

獲物を狙う猫

 

人間の胃液はpHが2〜4程度の弱酸性です。それに対して肉食獣である犬や猫の胃液のpHは1〜2の強酸性です。そのため、骨や筋肉も消化することができますし、ある程度の細菌などの病原体も分解できると考えられています。

 

しかしそれでも、人と一緒に暮らす歴史が長くなった犬や猫は野生時代のままではなく、胃液の殺菌能力が弱まってきたとか、胃酸そのものの分泌量が少ない個体もいるなどといわれています。ましてや、胃液である程度の数の病原体を分解することはできても、病原体が産生した毒素を分解することはできません。

 

つまり、犬や猫も食中毒になるのだということをしっかり認識していただく必要があります。「だって、犬や猫は地面に落ちているものを拾い食いしてもお腹を壊さないじゃないですか」と思われる飼い主様もおられるかもしれません。でも、それは人間でも同じですよね。子供が親の目を盗んで落ちたものを拾って食べたからといって、必ずお腹を壊すわけではありません。それは、人も犬も猫も同じようなものなのです。

 

一応食中毒のタイプについて整理をしておきましょう。食中毒には、感染型と毒素型の2つのタイプがあります。

 

<感染型>
食品に付着し、そこで増えた細菌、ウイルス、原虫、寄生虫などの病原体を食べることで発症する食中毒です。代表的なものに、カンピロバクターやサルモネラ菌などがあります。

 

<毒素型>
食品で大量に増えた病原体が毒素を作り、その毒素を食品と一緒に食べることにより発症する食中毒です。代表的なものに、腸管出血性大腸菌(O157)や黄色ブドウ球菌などがあります。

 

基本的に、食中毒は1年中を通して発症する可能性のある病気です。しかし、先ほどご説明したように、梅雨時や夏は細菌由来の感染型が増えるなど、実際には食中毒にも季節性があります。

 

食中毒の症状

嘔吐する猫

 

まずは、食中毒の症状についてお話しします。犬や猫が食中毒にかかってしまった時に見せる主な症状は下記の通りです。

 

・嘔吐

・下痢

・元気消失

・発熱

・泡を吐く

・血便

・呼吸困難

・けいれん

 

嘔吐や下痢は、体内に侵入した病原体や毒素を体外に排出しようとするための生理的な作用により起こる症状です。また、呼吸困難は犬によく見られる症状です。もしも猫が呼吸困難な症状を呈した場合は、かなり危険な状況だと思って良いでしょう。

 

上の症状をご覧になってお気付きだと思いますが、食中毒の症状は、食中毒固有の症状ではなく、同じような症状が見られる他の病気もたくさんあります。そのため、食中毒の原因が見当たらない場合でも、上記のような症状が見られた場合はかかりつけの動物病院で診てもらうようにしてください。

 

その際に、実際の吐瀉物や便などをビニール袋などに入れて持参していただけると、より正確で速い診断の役に立ちますので、可能な場合は持参をお願いします。

 

なお、犬や猫にとって禁忌な食べ物(玉ねぎ、チョコレート、キシリトール、ユリ科の植物など)を口にした場合も、化学物質による毒素型の食中毒になります。この場合も命に関わる場合がありますので、何を口にしたのか、どのくらい前に口にしたのか等、できる限り詳しい情報を提供していただけると助かります。

 

食中毒予防のための管理法

ドッグフード

 

では、いよいよ予防のためのフード管理についてです。感染型、毒素型のいずれの場合も、基本的な考え方は、「菌などの病原体の繁殖を抑えること」と、「病原体が増殖する前に食べさせること」です。それを前提に、管理の方法についてみていきましょう。

 

【ドライフード】
ドライフードは、元々フードに含まれている水分含有量が10%程度と少ないのですが、湿度の高い場所に置いておくことで水分を含んでしまい、カビが発生してしまったり腐ってしまったりして食中毒の原因となることが多いです。それを前提にすると、注意点は下記の通りです。
・大袋で購入せず、せいぜい30日以内で食べ切れる量の袋にすること
・保存時は、袋から極力空気を抜いて密封すること
・大袋の場合は、1回分使い切りの分量に小分けし、密封した状態で保管すること
・保管場所は、直射日光の当たらない風通しの良い場所を選ぶこと
・室温保存をすること
(出し入れ時の温度差による結露でカビが発生してしまうので冷蔵庫には入れない)
・猫に置き餌をする場合も、半日で食べなかった分は廃棄すること

 

【ウェットフード】
ウェットフードは元々の水分含有量が80%程度あるため、基本的には毎回使い切りが原則になります。それを前提にすると、注意点は下記の通りです。
・保存はせいぜい2回までで、1日で使い切ること
・2回目の分の保管方法は、蓋付きの別容器に移して冷蔵庫に入れること
・ウェットフードの置き餌は厳禁。30分以上経過したら食べ残しは廃棄すること

 

【手作り食】
手作り食は、人間の食中毒の予防策と基本的には同じです。
・新鮮な食材を使うこと
・調理前は石鹸で丁寧に手洗いをすること
・包丁、まな板、鍋などの調理器具は毎回きれいに洗い、定期的に消毒すること
・原則は1回の食事をその都度作ること。多くても2日分まで
・どうしても作り置きが必要な場合は、3日目以降分を冷凍保存にし、1週間以内を目安に使い切ること
・食材にはよく火を通すこと。特に夏場は生肉や生魚を食べさせてはいけません。雑菌や寄生虫のついていない生肉はないと考えましょう。

 

【飲み水】
ワンちゃんや猫ちゃんの口の中には常在菌がたくさん生息しています。そのままのバランスでいれば何も害はありません。むしろ、ワンちゃんや猫ちゃんの健康を守ってくれているのですが、飲み水のボウルから水を飲む時に唾液が入ってしまい、増殖してしまう可能性があります。また、毛や埃も入ることを考えて管理しましょう。
・最低、朝晩の2回は水を総入れ替えすること
・ボウルはその都度きれいに洗うこと
・ペットボトルから給水する方式や、循環式の自動給水器も、水を継ぎ足しするだけではなく、朝晩水を取り替えてきれいに洗浄すること

 

【食器、調理器具】
・食器、飲み水のボウルなどは、給仕する都度きれいに洗うこと
(水の入った器の表面がぬるっとしてきたら雑菌が繁殖しているサインです)
・調理器具もその都度きれいに洗い、定期的な消毒を行うこと
・フードをスプーンで食べさせた後のスプーンを、そのままレトルトの袋に入れたままにしない
(袋の中で雑菌が増殖して食中毒を起こしたという事例もあります)

 

フード管理のポイント

食事する犬

 

ポイント

・犬や猫も食中毒にかかります

・特に夏場は生肉や生魚を食べさせてはいけません
(必ず加熱調理が必要です)

・ドライフードは小袋で密閉し、常温で直射日光の当たらない風通しの良い場所で保管すること
(冷蔵庫保管は厳禁です)

・ウェットフードは原則使い切り、2回目用に保存する場合は別容器に入れ蓋をして冷蔵庫保管

・手作り食は市販のフード以上に衛生管理をしっかりと

・手作り食の作り置きは、冷凍保管でも1週間以内を目安に使い切ること

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