ワクチンで防げる感染症〜犬編〜

犬猫の病気や症状

犬の感染症の発生状況

具合の悪い犬

 

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

今月は、ワンちゃんや猫ちゃんの感染症についてお話したいと思います。初回となる今回は、ワンちゃんの感染症についてのお話しです。伴侶動物ワクチン懇話会という会が、2013年9月〜2015年8月にかけて調査をした結果をWEB上で公開しています。

 

全国600軒の動物病院に対して、犬パルボウイルス感染症、犬ジステンパーウイルス感染症、犬アデノウイルス1型感染症(犬伝染性肝炎)、犬アデノウイルス2型感染症(犬伝染性喉頭気管炎)、犬パラインフルエンザウイルス感染症の発生件数を調査しました。その結果、いずれかの感染症が確認された動物病院は、半数以上の56.8%に上ったことが分かりました。

 

公開された各感染症発生件数の県別数字を全国、関東、神奈川県で集計し、表にまとめてみましたので、ご紹介します。

 

感染症発生状況

このように、ワンちゃんのメジャーな感染症は、県内も含めて確実に発生しているということを、改めて認識していただきたいと思います。

 

基本的にワンちゃんは毎日お散歩に出かけるため、感染症に対するワクチンを定期的に接種させている飼い主様が多いと思いますが、まれに「外出しないので」または「他の犬と接触しないので」ワクチン接種は必要ないと思われている飼い主様がいらっしゃいます。

 

外出や他の犬との接触がない場合も、感染症のリスクはゼロになりません。空気感染する病気や飼い主様が病原体を家に持ち込んでしまうこともあるからです。また集団免疫は、地域のワクチン接種率が70%以上で獲得できるといわれていますが、伴侶動物ワクチン懇話会の調査では、日本の犬のワクチン接種率はわずか25%でした。

 

オランダで62%、フランスで68%、アメリカで84%の接種率と比較すると、日本の低さは比べ物になりません。感染の拡大を防ぐためにも、ワクチン接種率を70%に近づけることが望ましいといえるでしょう。

 

ご自身のワンちゃんや地域のワンちゃんのためにも、かかりつけの動物病院に相談し、定期的にワクチンを接種されることをおすすめします。動物病院では、お住まいの地域特性やワンちゃんの生活スタイルに合わせて、最適なワクチン接種のご提案をいたします。

 

感染症とワクチンの種類

予防接種を受ける犬

 

日本では、犬への狂犬病ワクチン接種が法律で義務付けられています。狂犬病の他にも、ワクチンで予防できる犬の感染症は複数あります。ワクチンで予防できる主な犬の感染症を挙げると、下記になります。

 

・狂犬病

・犬ジステンパーウイルス感染症

・犬パルボウイルス感染症

・犬アデノウイルス1型感染症(犬伝染性肝炎)

・犬アデノウイルス2型感染症(犬伝染性喉頭気管炎)

・犬パラインフルエンザウイルス感染症

・犬コロナウイルス感染症

・レプトスピラ感染症

 

狂犬病を除くと、これらのワクチンをすべて受けなければならないというわけではありません。お住いの地域やワンちゃんの生活スタイルに合わせて、より高リスクの感染症に対するワクチンを接種すれば良いのです。

 

日本国内における発生率や致死率の高さを元に、すべての犬が接種すべきだと考えられている感染症へのワクチンをコアワクチンといい、狂犬病、犬ジステンパーウイルス感染症、犬パルボウイルス感染症、犬アデノウイルス1型感染症(犬伝染性肝炎)の4つの感染症ワクチンが該当します。

 

コアワクチン以外をノンコアワクチンといい、地域環境や生活スタイルに応じて高リスクだと判断された感染症への予防接種が推奨されています。狂犬病ワクチンを除き、1回で複数種を接種できる混合ワクチンが複数種類出ています。コアワクチンとノンコアワクチンを混合したワクチンもありますので、かかりつけの動物病院でよく相談の上、接種するワクチンの種類や接種時期を決めましょう。

 

コアワクチン

診察中の犬

 

コアワクチンで予防できる狂犬病以外の感染症について簡単にご紹介します、

 

<犬ジステンパーウイルス感染症>

・感染経路

病原体のジステンパーウイルスは非常に感染力が強く、致死率も高い怖い感染症の一つです。感染犬のくしゃみなどの飛沫を吸い込んだり、尿や目ヤニなどに触れたりすることで感染します。犬やフェレットなどに感染しますが、人には感染しません。

・症状

3〜6日の潜伏期間の後に、食欲不振、発熱、元気消失といった初期症状が現れます。進行すると高熱、嘔吐、下痢、血便、膿様の鼻水、目ヤニ、咳、くしゃみも出てきます。末期になりウイルスが脳に達すると、異常な行動、けいれん、下半身麻痺なども現れます。

・治療

ウイルスに有効な治療薬はありません。免疫力の高い成犬なら、無症状や初期症状のみで治ることもありますが、免疫力の低い子犬や老犬の場合は、致死率がかなり高くなります。

 

<犬パルボウイルス感染症>

・感染経路

病原体のパルボウイルスは感染力が高く、消毒薬に対する抵抗力も強いため、自然環境の中で長期間生存しています。糞便中に排泄されたウイルスを直接または間接的に口や鼻から取り込むと、喉のあたりで増殖して血液に運ばれ、全身に広がります。

・症状

分裂が盛んな細胞で増殖するため、8週齢未満での感染では心筋細胞、それ以降の感染では骨髄や腸の上皮細胞などで増殖します。そのため、8週齢未満の感染では心筋炎を起こし、運動後の突然死や慢性心筋症を起こします。それ以降の感染では、腸炎を起こし下痢や嘔吐、白血球の減少が現れます。

・治療

ウイルスに有効な治療薬はなく、免疫未獲得の子犬が感染すると致死率が高くなります。特に腸炎を起こすと、細菌などの二次感染で敗血症を起こし、死に至ることが多いです。

 

<犬伝染性肝炎>

・感染経路

病原体の犬アデノウイルス1型は、感染犬の尿や唾液などを通して口や鼻から体内に入り、リンパ組織から血液に侵入して血管細胞で増殖し、肝臓、腎臓、目、リンパ節、骨髄など全身の臓器に広がって発病します。

・症状

2〜9日の潜伏期を経て、食欲低下、発熱、腹痛、元気消失といった初期症状が現れます。進行すると嘔吐や下痢が生じ、ぐったりし、血液の混ざった腹水や臓器での出血が起きます。重症化すると全身の微小血管に血栓が詰まるDICという状態になり、突然死することもあります。

・治療

ウイルスに有効な治療薬はありません。単独感染なら死亡率は10%程度ですが、混合感染だと死亡率が高くなります。症状が現れない不顕性感染型、2〜10日程軽い症状が続いて治る軽症型、肝炎が重症化して死に至る重症致死型、高熱と虚脱状態で急死する突発性致死型など、さまざまな経過を辿ります。

 

ノンコアワクチン

くしゃみをする犬

 

ノンコアワクチンで予防できる感染症を簡単にご紹介します、

 

<犬パラインフルエンザ感染症>

・感染経路

病原体となるパラインフルエンザウイルスは感染力が非常に強く、食器や寝床の共用による接触や咳やくしゃみによる飛沫の吸い込みで感染します。たくさんの犬が集まって一定期間を過ごすブリーダーやシェルター、ペットショップなどでの集団感染が起こりやすいのが特徴です。

・症状

ケンネルコフと呼ばれる犬風邪の原因となる病原体の一つなので、乾いたような咳、発熱、鼻水、くしゃみ、目の炎症、食欲不振、元気消失といった風邪によく似た症状が現れます。

・治療

ウイルスに有効な治療薬はなく、対症療法が主になります。咳の症状が数ヵ月続いても、やがて消えていくことが多いです。ただし、細菌感染などの二次感染を起こすと重症化し、肺炎になることもあります。

 

<犬コロナウイルス感染症>

・感染経路

病原体の犬コロナウイルスは、感染犬の糞便を通して口から入り、小腸の上皮細胞から感染します。そのため、下痢、嘔吐といった消化器症状が現れます。

なおコロナウイルスは、あらゆる動物に感染しさまざまな感染症の原因となりますが、種特異性が非常に高いため、種の壁を超えて感染することは稀です。そのため、新型コロナウイルス(COVID-19)と犬コロナウイルスは、異なるウイルスだと考えてください。

・症状

単独感染の場合は比較的軽度の消化器症状で終わることが多いですが、子犬は重症化しやすく、特に犬パルボウイルスとの混合感染や細菌感染を併発すると重篤化します。

主な症状は、粥状もしくは水様状の下痢や嘔吐、脱水、食欲不振、元気消失です。

・治療

ウイルスに有効な治療薬はなく、対症療法が主となります。細菌による二次感染予防のために、抗生剤を投与することもあります。単独感染の場合は長期化しませんが、子犬の場合は食事ができなくなって低血糖になり、命に危険な状態になる場合もあり得ます。

 

<レプトスピラ感染症>

・感染経路

病原体のレプトスピラは、レプトスピラ菌という淡水や湿った土壌の中に生息している細菌で、人や多くの哺乳類に感染します。レプトスピラ菌には多くの種類が存在し、主にネズミやリスなどのげっ歯類が高確率で菌を保持しています。保菌動物の尿で汚染された土壌や水を口にすることで感染します。

横須賀地区には野生のタイワンリスが生息しており、過去にレプトスピラ感染症の発生事例もあるため、水辺によく行かれるワンちゃんにはワクチン接種をおすすめしています。

・症状

さまざまな臓器に影響が現れますが、特に肝臓や腎臓にダメージを与えることが多く、黄疸、出血、急性肝不全、腎炎などを起こします。DICを起こし、死亡することもあります。

・治療

病原菌の種類に合わせた抗生剤を投与します。また、腎不全や肝不全の治療として輸液療法を、急性腎不全の治療として利尿剤による管理などを行います。

レプトスピラ菌は乾燥に弱いため、感染拡大を防ぐために、感染犬の生活環境をこまめに洗浄・消毒した上で、しっかり乾燥させることが大切です。

 

<犬伝染性喉頭気管炎>

・感染経路

病原体は犬アデノウイルス2型ウイルスで、感染犬の分泌物や排泄物との接触や咳、くしゃみ、鼻水などの飛沫を吸い込むことで感染します。

・症状

犬アデノウイルス2型も、ケンネルコフの病原体の一つです。そのため、症状としては発熱、食欲不振、くしゃみ、鼻水といった風邪のような症状が現れます。

単体感染では軽症で治ることが多いものの、混合感染を起こすと重症化して肺炎になり、死亡することもあります。

・治療

ウイルスに有効な治療薬はなく、対症療法と二次感染予防のための抗生剤投与が中心になります。

なお、犬アデノウイルス1型感染症(犬伝染性肝炎)と犬アデノウイルス2型感染症(犬伝染性喉頭気管炎)は、犬アデノウイルス2型に対するワクチンで同時に予防できます。

 

ポイント

幸せそうな犬

 

ポイント

・伴侶動物ワクチン懇話会の調査では、代表的な犬の5つの感染症の発生率が、全国では56.8%、関東では53.5%、神奈川県では44.4%でした。

・神奈川県における発生率は全国や関東の発生率よりも低いものの、確実に感染症が発生していることが分かります。

・日本における犬の予防接種率は25%しかなく、集団免疫を獲得できる70%には遠く及びません。

・法律で義務付けられている狂犬病を除き、すべての犬が接種すべきであるとされているコアワクチンは3種類、犬の生活スタイル等に合わせての接種が推奨されるノンコアワクチンは4種類あります。

・お住いの地域や愛犬のライフスタイルをお伝えいただくことで、動物病院はワンちゃんに最適なワクチン接種計画をご提案いたします。

・有効な治療薬がなく、対症療法とワンちゃんの免疫力が快復のための鍵となる感染症が多いため、予防が大切です。

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