便は健康のバロメーター 犬や猫の下痢のお話

犬猫の病気や症状

 

犬や猫に多い下痢

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

前回は、犬や猫の嘔吐についてのお話をさせて頂きました。

犬や猫はよく嘔吐をしますが、下痢もまたよくみられる症状の一つです。特に夏の暑い時期になるとよくみられるのが「嘔吐」と「下痢」です。そこで今回は、前回の「嘔吐」に引き続き「下痢」を取り上げて、その原因や対処法などについてお話ししたいと思います。

 

下痢の概要

マテをする犬

 

下痢とは、通常よりも多く水分を含んだ状態の便のことを言います。通常の便は、水分が約70%ですが、80%以上含んでいると下痢に分類されます。水分が90%以上になると水のような状態になるので、水様便とも呼ばれます。

 

口から体内に入った食物は、食道、胃、小腸、大腸を通過しながら消化吸収され、残った食べ物のカスや腸内にいる細菌、死んだ腸の細胞などが便となって排泄されます。下痢になってしまうのは、小腸や大腸で水分をきちんと吸収できなかったから、または水分が腸管に出てきてしまったからです。

 

長い腸管を持っているのは草食動物で、次が人間のような雑食動物、そして一番短いのが肉食動物です。犬や猫のような肉食動物は腸が短く、そのために消化不良を起こしやすいとも言えるのです。

 

下痢の分類には、急性と慢性という分け方があり、3週間以上続くような下痢を慢性下痢と言います。元々、刺激要因となる物が体内に入ると、自然と体はそれを体外に急いで出してしまい、体を早く正常な状態に戻そうとします。それが嘔吐や下痢といった症状につながるため、一過性の下痢(急性下痢)の場合は、問題となる物が下痢により排出されてしまい、自然に治ってしまったり、整腸剤の投与だけで対処できたりする場合もあります。しかし慢性下痢の場合は、裏に病気が潜んでいることが多いため、必ず早めに動物病院に連れてくるようにしてください。

 

下痢の原因

元気のない猫

 

下痢の症状を引き起こす原因としては、下記のようにさまざまなものが挙げられます。

・消化不良

・ウイルス性や細菌性の感染症

・毒物や薬物などの中毒

・アレルギー反応

・寄生虫

・免疫力の低下による消化能力の低下

・肝臓や腸炎、腫瘍などの疾患

・異物

・熱中症

・ストレス 等

 

急性下痢の場合で、便に回虫がいる様子もなく愛犬や愛猫が元気そうな場合は、半日〜1日程度の絶食をさせて胃腸を休ませ、様子をみる時間をとっても大丈夫です。その場合、水分は常温の水を少しずつ飲ませてみましょう。このような場合、大抵は食べ過ぎ、食事の内容が変わった、ペットホテルに預けた等によるストレスといったことが要因となっていることが多いようです。それでも下痢が2〜3日続くとか、一旦治まった下痢がまた再発したというような場合は、病気が潜んでいる可能性がありますので、動物病院に連れてきてください。

 

緊急性が高いのは、毒物や薬物を食べてしまったことによる中毒、腫瘍や重度の膵炎、胃腸炎といった病気を持っている、子犬や子猫の感染症といった場合です。

 

症状が下痢だけではなく、嘔吐や発熱、腹痛など他の症状も出ている場合や、元気がない、体重が減少傾向にあるといった場合が、すぐに病院へ連れて来るべき見極めポイントになります。なお、犬や猫の場合、自分から「お腹が痛い」とは言ってくれません。愛犬や愛猫が背中を丸めてじっとうずくまっている、またその姿勢で震えているといったような場合は、腹痛を疑ってください。

 

小腸性の下痢と大腸性の下痢

診察台の上の猫

 

もう一つの下痢の分類に、小腸性の下痢と大腸性の下痢という分け方があります。これは、下痢を起こす原因となっている場所が小腸か大腸かによる分類です。下痢の原因が病気だった場合は、その原因を突き止め、治療しなければなりません。そのため、小腸性の下痢なのか大腸性の下痢なのかというのも、大切なポイントになります。

 

小腸性の下痢の場合、便の状態は軟便から水様便までさまざまですが、排便回数や量が増えるのが特徴です。このタイプの下痢が続くと体重が減っていき、嘔吐も伴っている場合は重症化する危険が高いです。また、小腸から出血している場合、便の色が黒っぽい色になります。

 

大腸性の下痢の場合、ゼリー状の粘液が混じっている軟便の場合が多いです。便の量は従来と同じ程度か少なめの傾向があります。また「しぶり」といって、トイレに入り排便をしようとして力むのに排便できないという様子がみられることもあります。さらに、大腸から出血している場合は、明るい赤色の下血がみられます。

 

きちんと下痢の原因を究明するためにはさまざまな検査が必要になりますが、やはり早期診断のためには飼い主様から教えていただく情報が鍵になります。下痢の症状で来院された場合、飼い主様には下記のような質問をさせて頂きますので、意識して観察して頂けると助かります。

 

・いつ下痢が始まりましたか

・下痢は一過性ですか、繰り返していますか

・便の状態はどうですか(軟便、水様便、ゼリー状のものがある等)

・便の色はどうですか(黒っぽい、赤い、いつもと変わらない等)

・下痢になり、排便の回数や量はそれまでと変わりましたか

・下痢になる前にストレスになるようなことはありませんでしたか

・急に食事の内容を変えたりしていませんか

・普段の食事以外の物(薬や食べ物以外も含む)を誤食した可能性はありませんか

・下痢以外の症状はありますか。それはどのような症状ですか

・最近、愛犬・愛猫の体重が減ってきていませんか

 

また、実際の便を持ってきて頂けると詳細も分かりますし、必要に応じて便の検査もできるので、助かります。実物を持参できない場合は、写真でも参考になります。できればご持参ください。

 

下痢の時は脱水に注意

犬と猫のお昼寝

 

下痢や嘔吐の症状がみられる場合、怖いのは脱水です。特に子犬や子猫、高齢の犬や猫は、脱水により急激に症状を悪化させてしまいます。下痢が続くような場合は、脱水を起こしていないかどうかにも注意を払ってください。

 

脱水は、飼い主様も簡単にチェックすることができます。背中側の首の部分を掴んで持ち上げるか、または軽くつねった後に、手を離します。皮膚がすぐに元の状態に戻れば問題ありませんが、ゆっくりと時間をかけて戻っていく場合は、脱水を起こしています。脱水の程度が酷ければ酷いほど、戻るのに時間がかかります。普段健康な状態の時に、皮膚の戻り方を確認しておくと良いでしょう。

 

また、皮膚の状態では分かりづらい場合は、口唇をめくって歯茎を確認してみてください。濡れて輝いていれば問題ありません。しかし、歯茎が渇いていたり、ネバついたりしている場合は、脱水が起きています。普段、愛犬や愛猫の歯を磨く時などに、一緒に歯茎の状態も確認しておくと良いでしょう。

 

下痢の症状が軽い場合でも、脱水症状が見られる場合は、動物病院に連れてきてください。特に子犬、子猫、高齢犬・猫は要注意です。

 

また、暑い夏は特に、愛犬や愛猫の食事の管理や熱中症に気をつけましょう。犬や猫にとって危険なものを、愛犬や愛猫の手の届くところに置いておかないことも、予防策の一つです。

 

便の状態や回数、量は、愛犬、愛猫の健康を管理する上でとても重要なバロメーターになります。下痢や便秘は、愛犬、愛猫にとってもつらい症状です。日頃から可溶性繊維と非可溶性繊維のバランスが取れた食事内容を意識することで腸内細菌叢を整えたり、適度な運動をさせたり、ストレスを与えないようにしたりといったことを心掛けてあげましょう。

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