身近な野生動物との付き合い方

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ニュースで見る野生動物

アザラシ

 

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

テレビのニュースで、住宅街に現れた野生動物が取り上げられることがあります。最近では、クマやニホンザルが食糧を求めて現れ、危険を呼びかけると共になかなか捕獲できない様子を報道するニュースが多いでしょうか。

 

2002年には、多摩川に迷子のアゴヒゲアザラシが現れ、タマちゃんと愛称が付けられて連日話題になりました。2013年にはゴマフアザラシが小田原の海岸に現れ、やはりオダちゃんという愛称がつけられて人気を集めました。

 

このようにテレビの報道で取り上げられる野生動物は、人間を襲う恐ろしい動物か、愛すべきアイドル的な存在かの両極端のような気がします。前者は、野生動物との直接的な接触が発生したために問題が生じたのでしょう。後者は、直接的な接触が生じない距離にいたために、動物園的な感覚で鑑賞する人が増えたのではないでしょうか。

 

普段から山の中に入る必要のある方は、常に緊張感を持ち、人間も動物もお互いに相手の様子を監視しながら一定の距離を保って接しているといいます。決してお互いに相手を干渉することはありません。

 

本来の野生動物と人間との関係は、この緊張感を保ってお互いに干渉しないという姿が理想的なのではないでしょうか。ところが、人間社会と野生動物の生活圏がほぼ隔離されたことで、人間は野生動物との付き合い方を忘れてしまったように思います。

 

では人里に現れた野生動物や、親とはぐれた幼獣や幼鳥、ケガや病気で弱っている野生動物に出会った場合には、どうすればよいのでしょうか。

 

健康そうな動物の場合

ニホンザル

 

<野生動物に出会った時の注意事項>

前述の通り、本来野生動物と人間との付き合い方は、お互いに干渉しないことです。干渉することで、お互いの関係に悪い影響が生じることが多いからです。そのためには、下記のような点に注意しましょう。

 ・近付かない

 ・エサをやらない(食べ物を見せない)

 ・刺激しない

 ・目を直視しない

 ・家の中に入れない

神奈川県内には西湘地域におけるニホンザルの問題がありますが、2021年には横須賀市内にもニホンザルが現れました。最近は、丹沢などの群れからハナレザルが県東部の市街地までやってくることもあります。その場合も上記に注意して、過剰に接触しないようにしましょう。

また、バードウォッチングの対象も野生動物です。撒き餌をして鳥を集めるといった行為は慎みましょう。

 

<ドバトがベランダに巣を作った>

ベランダにドバトが巣を作るというのはよく聞く話です。鳴き声による騒音や糞の問題が生じます。翌年も同じ場所に巣を作りますので、毎年やってくるようになります。

法的には、産卵前なら巣を撤去できます。しかし卵やヒナがいる場合、巣の撤去は卵やヒナの捕獲・殺傷となるため、巣立つまで撤去できません。

つまりポイントは、産卵前に巣を撤去し、糞をきれいに掃除・消毒した上で、巣をつくれる隙間を塞いでしまうことです。

なお、ハトの糞には人獣共通感染症の病原菌が含まれているため、使い捨てのビニール手袋やマスクを使用して、直接触らないように注意しましょう。

 

<野生動物をペットにしたいと考えている方へ>

野生動物をペットにすることは、基本的におすすめできません。習性がよくわかっておらず、その動物にとってよりよい環境や適切な飼育をすることが難しく、病気に関してもまだわかっていないことが多いためです。また、野生動物を保護・捕獲してペットにすることは、鳥獣保護管理法でも禁じられてもいます。

野生動物の国際取引に関するワシントン条約は有名なので、ご存じの方も多いでしょう。日本にも、野生動物に関わる主な法律として「鳥獣保護管理法」「種の保存法」「外来生物法」があります。愛玩目的での捕獲・飼養の禁止以外にも、狩猟や有害捕獲できる動物の種類、絶滅させないために保存に務めるべき動物種などが定められています。

 

弱っている動物の場合

カワセミ

 

<気を失っている鳥を見つけた>

窓ガラスに衝突した鳥が気を失っているのを見つけることがあります。血を吐いていなければ、脳震盪を起こしているだけという可能性が高いので、そのまましばらく様子を見ても大丈夫です。大抵の場合は、意識が戻ると飛んでいきます。

 

<ケガをした野生動物を保護した>

ケガをしている野生動物は、必ず救護しなければいけないわけではありません。本来、自然の中で死亡することが当然であり、それが生態系を守ることにもつながるからです。

しかし、人間の活動によって傷つく野生動物もたくさんいます。そのため、神奈川県内には、ケガや病気の野生動物保護を受け入れている公立の施設があります。金沢動物園、よこはま動物園ズーラシア、野毛山動物園、自然環境保全センターです。保護施設に収容された動物は、必要な治療を受け、回復したら自然に戻されます。発見・保護した方が、直接持ち込むのが原則です。

ただし、カラス、ドバト、ハクビシンや、アライグマ・タイワンリスなどの特定外来生物、ノラネコを含むペットなどは保護の対象外です。詳しくは、神奈川県のホームページを参照してください。

<けがや病気の野生動物を見つけたら…:神奈川県>へのリンク

 

<野生動物のケガを減らすために>

神奈川県のホームページには、保護された野生動物の救護原因が掲載されています。

鳥類の上位5原因は、「ネコなど他の動物に襲われる」「衝突」「誤認保護」「交通事故」「釣り糸・釣り針」です。

哺乳類の上位5原因は、「伝染病・寄生虫症」「交通事故」「ネコなど他の動物に襲われる」「誤認保護」「罠等」です。

ペットの放し飼いや遺棄、使い古した釣り糸や釣り針の放置は、たとえ意図していなくても野生動物のケガの原因となっています。また違法な罠に限らず、ねずみ捕りの罠を屋外に設置することも、野生動物のケガの原因につながります。

さらに、誤認保護にも注意が必要です。ヒナや幼獣は、一見すると保護が必要そうに見えるかもしれません。しかし、親の帰りを待っている、休憩しているという場合も多いものです。誤認保護は、かえって生存率を下げることにもなりかねません。親が近づけるように、しばらく遠くから状況を見守った後に判断しましょう。

 

<野生小動物の死骸を発見した>

横須賀市の小動物火葬施設に連絡をすると、無料で収集してもらえます。

飼い犬や飼い猫の場合は、有料になります。

詳しくは、横須賀市のホームページを参照してください。

<死んだ小動物の収集と持ち込み:横須賀市>へのリンク

 

本当に弱いのは人間

秋谷の立石

 

自然破壊やそれに伴う異常気象の影響で、野生動物たちは本来の彼らの生息圏内では十分な食糧を得られなくなり、人里へ降りてくることが増えてきました。また、人間のための施設や設備、交通手段等によりケガをする野生動物も増えています。

 

私達は、身近な場所で野生動物と出会った時に、つい「感情」を優先した接触を図ってしまいがちです。かわいいから餌をあげる、かわいそうなので保護して飼ってしまう等々です。しかし、それは決して好ましい行為ではありません。

 

例えば善意のつもりでハナレザルに餌をあげたことがきっかけで、人から食べ物を奪うことを学び、人を襲うサルを作り出すことにつながります。またむやみに餌付けをすることで、特定の場所に特定の動物が増えてしまい、その地域の生態系を壊すことにつながるのです。

 

人間は、自然の回復力を上回る形で自然を利用し続けてきました。しかし、今では国連に加盟している193カ国が、2030年までに「持続可能でより良い世界」にしようと、SDGs(持続可能な開発目標)を掲げ、自然破壊の抑止や再生を目指した活動に取り組んでいます。

 

医学の領域においても、最近では「One Health」が大切だといわれています。これは、人間の健康を守るためには、人間だけではなく動物や環境の健康も守る必要があるため、人・動物・環境のすべてを一つと考え、それらが健全であるようにトータルで管理しなければならないという考え方です。

 

自然界を守るためには、生態の多様性、種の多様性、遺伝的多様性が維持されていることが不可欠です。これらの生物多様性が失われると自然界は崩壊します。その時、一番強い存在のように見える人間が、実は最も弱い立場にいたということが明白になるのかもしれません。

 

ポイント

三浦半島の一風景

 

ポイント

・野生動物は「恐ろしい襲撃犯」でも「かわいらしいアイドル」でもありません。

・野生動物とは、緊張感と一定の距離を保って接することが望ましいです。

・野生動物を捕獲して、愛玩目的で飼養することは禁じられています。

・野生動物と出会った場合、下記に注意しましょう。

 −近付かない

 −エサをやらない(食べ物を見せない)

 −刺激しない

 −目を直視しない

 −家の中に入れない

・生物多様性を守り、野生動物を含めた動物たちの健康を守ることは、人間の健康を守ることにもつながります。

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