夏の水遊びで気を付けたい愛犬の水分補給と水中毒の予防法

ペットの健康としつけ

水遊びに潜んでいるリスク

川で遊ぶ犬と飼い主様

 

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

地球規模で年々暑さが増してきており、愛犬への熱中症対策として一日中エアコンをつけて室温を管理したり、こまめに水分補給をさせたりしておられる飼い主様が多いことと思います。また休日や長期休暇を利用して、ワンちゃんと一緒に水遊びに出かけるというご家庭も多いのではないでしょうか。

 

水遊びをしている最中も、基本的には水分補給は必要です。ただし、ワンちゃんが水の中に入ったりホースの水を浴びたりしながら遊ぶ場合には、水中毒に対する注意も必要です。

 

水中毒とは、短時間に大量の真水を飲むことで体内の電解質バランスが崩れて生じる中毒症状です。中毒症状を引き起こすほど大量の水を、ワンちゃんが自分の意思で飲むことはほぼあり得ません。ワンちゃん自身も意図せずに大量の水を飲み込んでしまうような、川や湖、プールでの水遊び、ホースからの水浴びなどの最中に起きることの多い事故です。

 

水中毒がどのように起こり、愛犬にどのような症状が現れるのか、予防するためにはどうすれば良いのかについて、お話しします。

 

大切な電解質バランス

ホースの水で遊ぶ犬

 

まずは、動物の体内の水分調節とそこに溶け込んでいるさまざまな電解質のバランスについて簡単に整理しておきましょう。

 

動物の体は、水やタンパク質、脂質、糖質やミネラルなどで構成されています。中でも多くを占めているのが水です。哺乳動物の場合、体重の約60%が水です。その内の約2/3は細胞内にある細胞内液で、残りの約1/3は細胞と細胞の間にある体液や血液、リンパ液などの細胞外液と呼ばれるものです。

 

細胞内液や細胞外液には、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどの電解質が溶け込んでいます。ただし、細胞内液と細胞外液に溶け込んでいる電解質の割合は、かなり異なっています。この割合が異なっていることで、全身の電解質バランスが保たれ、体の多くの機能がスムーズに働くようにできているのです。

 

逆の言い方をすると、細胞内液と細胞外液の電解質バランスが崩れると、体が正常に働かなくなります。ひどくなると、命に関わるような場合もあり得ます。

 

この電解質バランスを維持する機能を担っているのが腎臓です。腎臓は、濾過によって血液中に溜まった老廃物や不要な毒素を取り出した尿の原液を作り、そこから必要なものを再吸収して最終的な尿にした上で、体外に排出します。腎臓は、この濾過と再吸収を行う過程で電解質バランスの調整も行っているのです。

 

水遊びは水中毒にご注意を

川でフェッチ遊びする犬

 

では、短時間に大量の真水を飲むと、なぜ体内の電解質バランスが崩れてしまうのでしょうか。

 

通常は、細胞外液にはナトリウムイオンが、細胞内液にはカリウムイオンが多く存在しています。ところが短時間の間に大量の真水を飲むことで、細胞外液のナトリウムイオンが一気に薄められてしまいます。短時間と大量の水という条件が揃うことで変化の振り幅が大きくなり、腎臓の調整能力を超えるスピードで体内のナトリウム濃度が低下してしまうため、血液中のナトリウムイオンが少なくなってしまうのです。

 

この状態が引き起こす症状を低ナトリウム血症といい、軽度の場合は元気がなくなる、無気力になる、ふらつく、よだれを垂らす、お腹が膨れる、嘔吐や大量のおしっこをするといった症状が現れます。重度になると、全身の力が抜ける、呼吸困難、意識の低下や昏睡、けいれん発作などを起こし、最悪の場合は命を落とすこともあります。

 

この低ナトリウム血症が水中毒の正体です。では、ナトリウムイオンがたくさん含まれている海水なら安全かというと、それも間違いです。高ナトリウム血症といって血液中のナトリウムイオンの濃度が高すぎる状態となり、倦怠感、食欲不振、嘔吐、下痢、昏睡、けいれん発作などの症状が現れます。

 

つまり、ワンちゃんと一緒に水遊びをする場合は、真水であれ海水であれ、水を飲みすぎないように飼い主様が注意する必要があることを覚えておいてください。

 

水中毒への予防策

水辺で休憩する犬と飼い主様

 

短時間に大量の水を飲み込みやすいのは、下記のような遊びです。

・流木等を水の中に投げ込み、それを咥えて持って来させるフェッチ遊び

・何かを咥えたり口を開けたりした状態での遊泳

・ホースなどから撒かれる水にじゃれついて口で受けるような遊び

 

これらの遊びをしてはいけないということではありません。意識していなくても自然と水が口の中に入ってきて飲んでしまうかもしれないような遊びは、こまめに休憩をとらせるというコントロールが必要だということです。

 

休憩をとらせることには、短時間で大量に水を飲ませないことの他に、飲み込んでしまった水分を尿として排泄させる時間を作るという目的もあります。例えば、10分程度水遊びをしたら必ず休憩を挟むようにし、しばらく休ませながら排尿の状態を確認するといった遊び方が良いでしょう。

 

水中毒の症状は、急に現れます。ただし、かなり時間が経過した後に症状が現れることも少なくありません。帰りの車の中や、宿泊先で体調が急変する場合も多いです。水遊びの最中だけではなく、その後もワンちゃんの様子をしっかり観察し、疲れてぼーっとした様子を見せる、ふらついてうまく歩けなくなるなどの様子の変化に注意をしてください。発症までにかかる時間には個体差がありますが、24時間は注意をしておくと良いでしょう。

 

水遊びをする場所や宿泊先、その移動中などにある動物病院と診察時間を予め調べておくことも大切です。

 

なお、水遊びで必ず大量の水を飲んでしまうとは限りません。水遊び中の飲水を制限してしまうと、逆に水分不足になってしまう可能性もあります。休憩中にワンちゃんが水を飲みたがった場合は、飲ませてあげましょう。

 

以前もブログに水中毒のことを書きましたので、よろしければこちらもお読みください。

<夏の水遊びで大量飲水。水中毒に要注意!>へのリンク

 

ポイント

泳ぐ犬

 

・哺乳類の体の60%は水分で、その2/3は細胞内液、1/3は細胞外液です。

・細胞内液と細胞外液は、含むイオンの比率が異なることでバランスを保っています。

・短時間に大量の真水を飲むことで水中毒(低ナトリウム血症)を引き起こします。

・水中毒とは異なりますが、海水の大量摂取では高ナトリウム血症を引き起こします。

・犬は、水遊びの際に無意識に大量の水を飲んでしまうことがあるため注意が必要です。

・口を緩めた状態で水中に入ったり、口で水を受けたりする遊びでは注意が必要です。

・水遊びの際にはこまめに休憩を取るように飼い主様がコントロールしましょう。

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