猫の肥大型心筋症について┃猫で一番多い心臓病の1つ
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
肥大型心筋症をはじめ、猫の心臓病は飼い主様が気づいた時にはすでに進行しており、治療が難しい状態になっているケースがほとんどです。早い段階で治療を始めることができれば、予後が好転する可能性もありますが、レントゲン検査など画像診断を行わない限り、早期発見は難しいでしょう。
今回は猫で一番多い心臓病の1つ「肥大型心筋症」について、その原因や症状などを解説するとともに、当院での治療の進め方に関してもご紹介します。
原因
心臓には血液を全身と肺に循環させるポンプ機能を果たす役割があります。
しかし、肥大型心筋症では左心室の心筋(筋肉)が分厚くなるため、内部の空間が狭まり、さらに心筋の伸縮性も低下するため、心臓の動きが鈍くなります。
その結果、十分な血液が全身に送れなくなるため、全身の細胞が酸素不足や栄養不足に陥り、さまざまな障害が起こります。
その他にも、血液の渋滞から常に高血圧状態になり、肺高血圧から肺水腫を起こしたり、胸水が貯留したりもします。
発生の原因は良くわかっていませんが純血種(メイン・クーン、ペルシャ、ラグドール、アメリカン・ショートヘアなど)での発生が多いことから、遺伝的な要因が関与していると考えられています。
症状
肥大型心筋症は、早ければ生後4か月ごろから発症し、初期には目立った症状は見られず、気づかれないケースが多く見られます。
しかし、病気が進行すると呼吸困難、食欲不振や体重減少、運動をしたがらないなど症状が現れ、ここで初めて病気に気づく飼い主様も多くいらっしゃいます。
「愛猫の呼吸が苦しそう」という理由で来院された場合、すでに胸水が溜まっていることも少なくありません。
また、血液の流れが悪くなることから血栓が後足に続く動脈に詰まる(動脈血栓塞栓症)と、後足の足先が冷えて動かなくなり、強い痛みが見られます。
この状態は助かる見込みが低く、きわめて危険な状態です。
診断
肥大型心筋症の検査は、以下の検査で診断をします。
・聴診
聴診器を使って心雑音がないかどうかを確認しますが、必ずしも肥大型心筋症に心雑音があるとは限らないため、その他の検査が必要になります。
・超音波検査
心筋の厚さや心臓の動き、血流などを確認します。
・レントゲン検査
心臓の大きさや心筋の厚さ、肺、血管の状態などを確認します。
・血液検査
心臓の肥厚は脱水、慢性腎不全や甲状腺機能亢進症など高血圧を引き起こす他の病気にも見られるため、血液検査を行いこれらの病気を除外します。
その他にも、心電図検査や血圧検査、尿検査なども病状を確認するため重要な検査となります。
治療
肥大型心筋症を根治させることはできないため、治療は悪化を防ぐことが目的となります。
治療は進行度合いに応じて、定期検査での経過観察や抗血栓薬の内服、利尿剤や強心薬の内服、胸水の抜去や酸素給与などを行います。
当院では、レントゲン検査で心臓の肥大が確認され、かつ心拍数が上昇していた場合は、無症状であっても悪化を防ぐ治療を開始すべきと考えています。
残念ながら末期的な状態で初めて来院される飼い主様が多いものの、早い段階で治療を始めれば予後を好転させられる可能性もあります。
ただし、進行のスピードや治療への反応は個体差があるため、投薬のみで長期間安定して寿命まで生きる子もいれば、若くても早くに亡くなってしまう子もいます。
予防法
繰り返しにはなりますが、肥大型心筋症は早いと生後4か月程度で発症する病気です。遺伝的な要因が関与していることから予防法はありませんが、前述したように早い段階での治療の開始が重要です。
言葉を話せない猫は体調不良を飼い主様に伝えるのは難しく、心臓病は相当悪化してからでないと症状が現れません。そのため、定期的な健康診断が早期発見の鍵です。健康診断では血液検査のみならず、画像診断も行うことをお勧めします。
特に純血種を迎えられた飼い主様は、早い段階で一度検査のためご来院いただくことを強く推奨します。
ポイント
・肥大型心筋症は猫で最も多い心臓病です。
・かなり悪化しないと症状が出ないため、気づいたときには手遅れになっていることも少なくありません。
・早期に治療を始めれば予後が好転する可能性があります。
・猫は言葉を話せないので、定期的な健康診断なくして病気の早期発見は難しいでしょう。
・健康診断では血液検査だけでなくレントゲン検査など画像診断を必ず行いましょう。
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