おしっこをしようとしても出ない時は病院へ
寒い冬はおしっこに注意
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
冬は、寒さから愛犬も愛猫も体調を崩しやすくなります。冬にかかりやすい病気にはいろいろありますが、今回は、おしっこの問題に着目してお話しします。
うんちと比べると、おしっこはその量や状態を確認しづらいために、愛犬や愛猫の排尿の異変にはなかなか気付けないかもしれません。しかし、おしっこをしようとしているけれども出ない場合は一刻を争う危険な状態です。
食物には、体を作り、そして活動するための栄養素が含まれています。が、同時に犬や猫にとってはよくない成分も含まれています。また、生きて活動していると、体内に残っていると悪い影響を与えてしまう老廃物なども作られます。
そういった毒素や老廃物を、腎臓がおしっこの中に排出します。おしっこは一旦膀胱の中に貯留されますが、最後には体外に排出されます。その時に、毒素や老廃物もおしっこと一緒に体外に排出されることで、健康が保たれているのです。
そのため、おしっこが出ない、またはほんの少ししか出ないといった状態になると、体の中に毒素が溜まってしまい、尿毒症を引き起こして命に危険を及ぼす状況になってしまうのです。おしっこが出ず、嘔吐をしている場合は強く尿毒症が疑われます。
適正なおしっこの量は、個体によって差があります。しかし、一般的な1日の排尿量は下記が目安となります。
犬:体重1kgにつき20〜40ml
猫:体重1kgにつき18〜25ml
いずれの場合も、体重1kgにつき50ml以上のおしっこが出る場合は多尿、7ml以下の場合は乏尿、2ml以下の場合は無尿といい、特に無尿の場合は、体内に溜まった毒素により尿毒症を引き起こし、命に危険を及ぼす状況です。迷わずすぐに動物病院に連れて来てください。
排尿困難を招きやすい要因
乏尿や無尿のように、おしっこが出にくくなる、出なくなるような状態を、排尿困難といいます。おしっこは腎臓で作られて一旦膀胱に溜められ、やがて尿道を通って排出されます。つまり、腎臓から尿の出口までの間(尿路)、特に膀胱から下の部分(下部尿路)に何らかの障害が発生すると排尿困難になるのです。
尿路に生じる何らかの障害とは、腫瘍であったり結石であったり、または尿路の近隣の組織が肥大化して尿路圧迫されるといったようなことで、尿の流れが阻害されてしまう状態になるということです。
尿路とその近隣の組織というと、具体的には下記の臓器が挙げられます。
1)腎臓、尿管、膀胱、尿道
2)前立腺
3)子宮、膣
4)直腸
1)は雄雌が共に持っている臓器で、炎症や尿中に含まれるミネラル分の結晶化により発生した結石で、尿を詰まらせてしまう可能性があります。2)は雄が、3)は雌が、そして4)は性別に関係なく持っている臓器ですが、いずれも腫瘍などの発症で下部尿路を圧迫する可能性があります。
この内、特に1)の尿路に生じる炎症や結石は、冬に起きやすい要素を抱えています。まず1つは、寒くて運動量が減るために飲水量が減ることです。飲水量が減ると体内の水分量が減るためにおしっこが濃くなります。おしっこが濃くなると、結石が作られやすくなってしまうのです。
もう1つの要素が、寒さのためにおしっこを我慢する機会が増えるということです。おしっこを我慢することで膀胱炎になりやすくなります。そして、膀胱炎になると、結石を作りやすい状態につながるのです。
少なくとも、尿路自体に生じやすい排尿困難の原因を排除するためには、冬の寒い時期でも積極的に運動をさせていつも通りの飲水料を確保させることと、室内の温度を適温に保ち、トイレを常に清潔に維持することで、おしっこを我慢させないことです。
また、外でしかおしっこをしないワンちゃんの場合は、寒さや降雪などでお散歩に行けないことでおしっこを我慢させなくてすむように、室内でもおしっこができるようトレーニングを行うことが望ましいです。
排尿困難を起こす病気
では、前述の臓器に起こりやすい排尿困難を起こす病気をご紹介します。
<尿路結石症>
腎臓、尿管、膀胱、尿道のどこかに砂粒から小石程の大きさの結石ができる病気です。そのまま流れておしっこと一緒に体外に排出されてしまえば良いのですが、尿道の細くなる部分に詰まってしまうと、排尿困難を引き起こします。
栄養バランス、特にミネラル分のバランスが取れた食事を与え、適度な飲水量を維持することで予防します。
<膀胱炎>
膀胱が細菌などに感染することで炎症を起こす病気です。また、膀胱結石や膀胱腫瘍などが原因で炎症が起きることもあります。炎症によって剥がれ落ちた膀胱の内側の細胞や白血球、血の塊などが膀胱に詰まることがあり、結石と同じように尿道に流れ出て尿道を詰まらせることもあります。
しっかりとお水を飲ませ、トイレを清潔に保つことでおしっこを我慢させないことが予防に繋がります。
<前立腺肥大>
精巣から分泌されるホルモンのバランスが乱れることが原因で発症する、前立腺の良性腫瘍です。肥大した前立腺が尿道や腸を圧迫することで排尿困難を引き起こします。また腸が圧迫されることで、うんちが出にくくなる場合もあります。
繁殖させる予定がないのであれば、若齢時に去勢手術を行うことが予防になります。
<慢性腎臓病>
高齢の犬や猫に多い病気で、長い年月をかけて少しずつ腎臓の機能が低下していく病気です。腎臓の機能はかなり低下するまで症状に現れないため、飼い主様が気付いた時にはかなり悪化しているということが多いのが特徴です。愛犬や愛猫の飲水量や排尿量が増える、いわゆる多飲多尿の症状が現れたらすぐに腎臓の病気を疑い、動物病院で受診しましょう。末期になると、無尿になり尿毒症で命を落としてしまうこともあります。
若い頃から定期的に血液検査、尿検査、画像検査を組み合わせた総合的な健康診断を行うことが、早期発見早期治療に繋がります。
お家でのチェックポイント
排尿困難に陥ると見られる共通した症状が下記です。
・頻繁にトイレに行くが、実際にはほとんどおしっこが出ていない
・1回の排尿時間が長くなるが、実際にはほとんどおしっこが出ていない
・おしっこをする時に痛みを伴うために鳴き声を上げることがある
・おしっこに血が混じっている(おしっこの色が赤い)
・おしっこの中にキラキラと光るものや石のようなものが混じっている
こういった症状に気付くためには、常日頃から愛犬や愛猫のトイレの様子や排泄物の状態を観察しておくことが大切です。できる限り、下記の項目について意識的に観察・記録しておくようにすると、少しの異変にも早く気付けるようになるでしょう。
・トイレに行く回数
・1回の排尿時間
・排尿時の様子(痛がっていないか)
・排泄されたおしっこの量
・排泄されたおしっこの色
・排泄されたおしっこのニオイ
几帳面に事細かく観察・記録することは難しいと思いますが、ペットシーツを取り替える時に色やニオイを確認し、重さを量るだけでもかなりの状況を把握できるはずです。セットするトイレシーツと取り除く時のトイレシーツの重さの差分が排尿量だと思えばよいわけです。
ポイント
ポイント
・おしっこには、体内の毒素や老廃物を体外に排出する役割がある
・おしっこが出ないと、体内に毒素がたまり命に関わる危険な状態になる
・おしっこが出ず嘔吐をしている場合は、尿毒症の可能性が非常に高い
・冬でもいつも通りの飲水料を保つように、積極的に運動をさせること
・寒くてもおしっこを我慢させないこと
・日頃からおしっこの状態や様子を観察し、僅かな変化も察知できるようにすること