楽しく遊んで賢いワンちゃんに!
おもちゃ遊びのすすめ
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
前回、一緒に暮らす動物たちの幸せを考える上で大切な、「5つの自由」をご紹介しました。
5つの自由とは、ざっくり説明すると「適切な食事と新鮮な水が与えられること」「ケガや病気の予防や治療を受けられること」「過度なストレスを受けないこと」「その動物に適した環境が整えられること」「正常な行動ができること」の5つでした。
ここで特に重要なのは、5つ目の「正常な行動ができること」だと考えています。なぜなら、最初の4つは一緒に暮らす家族に対する当たり前のことだからです。しかし5つ目の項目には、種を超えた壁が立ちはだかります。それは、犬にとっての「正常な行動」の中には、私達人間にとって「不都合な行動」であるものが多いということです。
犬の自然な行動の中で大きいのは、「狩りをする」ことや「能力を活用する」ことです。これらを満たしてあげられれば、ワンちゃんは心身共に健全な状態を維持できるでしょう。では、いったいどうすればワンちゃんに狩りをさせ、能力を活用させることができるのでしょうか。
実際の狩りをさせるわけにはいきませんので、代わりにおもちゃを使って狩りのシミュレーションをしてもらいましょう。子犬たちがじゃれ合いながら身体能力を鍛え、狩りの技を覚えていくのと同じ考え方です。
犬は、かなりの部分を嗅覚からの情報に頼っていることが分かっています。しかし、私達人間が犬と嗅覚でコミュニケーションをとることはとても難しいですよね。そこで、遊びの中で「ニオイを嗅ぐ」という能力を活用させましょう。活用すればするほど、その能力を伸ばしてあげられます。
今回は、おもちゃを使って狩りへの欲求を満足させる遊びや嗅ぐ能力を伸ばす遊びをご紹介します。
狩りごっこで本能を満たす
犬は、獲物のニオイを発見するとそのニオイを追跡して獲物を見つけ出します。そして、見つけた獲物に襲いかかります。逃げ出した獲物を追いかけ、噛み付いて振り回すことで息絶えさせ、引き裂いて食べます。これが、犬の狩りです。
この一連の行動をシミュレーションさせられれば、ワンちゃんの狩りへの欲求を満たしてあげられます。そこで、おもちゃを使って「追いかける」「捕まえる」「噛む」「振り回す」という行動をさせてあげましょう。
例えば、ロープで「持ってこい」遊びをさせ、持ってきたご褒美に「引っ張りっこ」遊びをすれば、「追いかける」「捕まえる」「振り回す」「噛む」のすべての行動を行わせることができるでしょう。
ロープに注意をひきつけて目で追わせ、遠くに投げます。そして「ゴー」などの指示で追いかけさせます。落ちたロープのところへ到着したら、「キャッチ」などの指示で咥え(捕まえ)させます。ワンちゃんがロープを咥えたら、「カモン」などの指示で呼び戻します。戻ってきたら褒め、ご褒美に持ってきたロープで引っ張りっこ遊びをします。ワンちゃんは、引っ張りっこ遊びをしながらロープを噛んだり振り回したりできます。最後に、ワンちゃんにロープを奪わせ、「チョウダイ」などの指示でロープを返してもらって終了です。
最初から上手に遊ぶことはできないでしょう。ワンちゃんが遊び方を覚えるまでは、追いかけさせる、咥えさせる、持って来させる、奪い取ったロープを返すといったことを、段階を追って覚えさせましょう。ルールが分かってきら、少しずつ高く遠くへ投げるなど難易度を上げていくと良いでしょう。
一番難しいのは、ロープを返させることかもしれません。この行動は、せっかく仕留めた獲物を奪われてしまうことになるためです。そこで、「チョウダイ」を教える時には「おやつとの交換」として覚えさせましょう。この遊びを通して「チョウダイ」を覚えてもらえれば、おもちゃや異物の誤飲防止にも役立ちます。
また引っ張りっこ遊びは、できるだけワンちゃんに奪わせるようにしましょう。せっかく仕留めた獲物を奪われてばかりだと、ワンちゃんはストレスを溜めてしまいます。途中経過はともかく、最後は必ずワンちゃんに奪わせて終わりにしましょう。
もちろん、ボールで持ってこい遊びをし、別のタイミングにロープでの引っ張りっこをするといったように、4つの行動を切り出して遊んでもかまいません。
知育トイで能力を伸ばす
犬にとって、ニオイはとても大切な情報源です。犬同士の挨拶や縄張りのマークに使い、相手の健康状態や行動履歴といった情報もニオイから得ます。そして、狩りのときにもニオイで獲物を見つけます。それだけ、犬にとってニオイを嗅ぐということは大切な能力なのです。
しかし、私達人間はあまり相手とのコミュニケーションにニオイを使いません。相手を不快にさせないように、または相手の好みに合わせて香水を使うといったことはありますが、基本的に、人間用の香水はあまり犬の好みのニオイではないといわれています。
そのため、私たちがごく普通に愛犬と接するだけでは、あまり愛犬に嗅覚を使わせることができません。そこで積極的に取り入れたい遊びが、「ニオイを嗅ぐ」ことでおやつを見つける宝探しゲームや知育トイです。
基本的には「ニオイをもとに隠されている宝物を見つける」という遊びです。ワンちゃんが大好きなおやつを小さなコップや箱などにいれ、家具の裏などに隠して探させるというのが基本形です。慣れてきたら、食べ物以外のものを宝物にして、ニオイを嗅がせてからそれを隠して探させるといった本格的な宝探し遊びにも発展させられます。
市販の知育トイを使って宝探しをすることもできます。知育トイと聞くと、お留守番をする時によく利用されるコングを思い浮かべる方が多いかもしれません。最近は、いろいろな種類や難度の知育トイが市販されています。知育トイを利用して飼い主様も一緒に遊び、ワンちゃんのスピードがアップしてきたら難易度の高いものに変えることで、能力をどんどん引き出してあげましょう。
おもちゃで遊ぶ際の注意点
<おもちゃを返してもらおうとすると唸る>
遊んでいるおもちゃを返してもらおうとしたときに、ワンちゃんが唸ることがあります。鼻にシワを寄せている場合は、おもちゃを奪われたくなくて威嚇しているので注意しましょう。
日頃から、「チョウダイ」などの指示で咥えているものを渡してくれるようにトレーニングしておくことが大切です。指示を聞くと楽しいことや嬉しいことがあると思ってもらえるようにしましょう。
唸っても、鼻にシワを寄せていない場合は心配ありません。遊びに夢中になっていて思わず出してしまった声です。
<誤飲事故には注意しましょう>
遊びに夢中になってしまい、口に咥えているものを思わず飲み込んでしまうことがあります。おもちゃは、ワンちゃんの口の中にすっぽり入ってしまうような大きさのものは選ばない、簡単に噛み壊してしまうような材質のものは選ばないようにしましょう。
また、ワンちゃんは飲み込むつもりがなかったのに、飼い主様が咥えているおもちゃを取り上げようとしたのに抵抗して飲み込んでしまうことがあります。無理やり取り上げると誤飲事故につながることもありますので、指示通りに咥えているものを渡すトレーニングは必須です。
<犬用のおもちゃを使うこと>
ワンちゃんは、ロープ以外のおもちゃでもよく噛みます。「噛み付く」という欲求は本能からくる行動なので、止められません。柔らかすぎる素材のおもちゃは壊れやすく、硬すぎるおもちゃは歯が折れてしまうため危険です。
またご家族に小さなお子様がいらっしゃる場合、人間用のおもちゃで遊ばせてしまうと事故の元です。お子様と愛犬のおもちゃはそれぞれ別々に管理して、ワンちゃんが人間用のおもちゃで遊んでしまわないように気をつけましょう。
ポイント
ポイント
・遊びを通して「狩りをさせる」「嗅覚を活用する」ことで幸せな暮らしにつながります。
・おもちゃを使って「追いかける」「捕まえる」「噛む」「振り回す」行動をさせましょう。
・知育トイを活用して「ニオイを嗅いで獲物を見つけ」させましょう。
・引っ張りっこは犬に勝たせて終わらせましょう。
・咥えているものを無理やり取り上げようとするのは危険です。
・遊びを通して咥えているものを渡してもらえるようにしつけましょう。
・愛犬に適した安全なおもちゃを選びましょう。