ミニチュア・ダックスフンドだけじゃない椎間板ヘルニア
犬に多い椎間板ヘルニア
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
犬は、他の動物と比べて椎間板ヘルニアになる率が高いと言われています。好発犬種として有名なのは、ミニチュア・ダックスフンドです。しかし、椎間板ヘルニアという病気は、ミニチュア・ダックスフンドに限らず、どの犬種でも発症する可能性を持っています。
軽症の時には自力で歩くこともできますが、進行して重症化すると、脚が完全に麻痺してしまい、自力で歩くことも、思い通りにおしっこをすることもできなくなってしまいます。また、脊髄神経が壊死して最終的には死に至る、脊髄軟化症という病気もあります。
他の病気と同様に椎間板ヘルニアも、ごく軽症の頃に病気に気付き、治療を開始することが大切です。どういう症状に気をつけていれば早く気付けるのか、普段気をつけるべきことは何かなどについてお話します。
椎間板ヘルニアとは
背骨は、骨格の中でも体の軸となるとても重要な部分の骨です。体の軸となるだけではなく、脳から腰まで続く中枢神経である脊髄を守るという大切な役割も果たしています。首から腰まで連なる、小さな骨を総称して背骨と呼んでいますが、実際には首を支える7個の頚椎、胸を支える13個の胸椎、腰を支える7個の腰椎、骨盤に繋がる3個の仙椎と、犬種により数の異なる尾椎とから構成されています。
それぞれの骨は、しっかりとした椎骨から棘のような骨が飛び出したような形をしていて、椎骨と棘のような骨の間にできた空洞の中を中枢神経である脊髄が通っています。そして、一つひとつの椎骨の間には椎間板が挟まったような構造でつながっています。
椎間板は、ゼラチン状の髄核と、それを包むような形でコラーゲンを含んでいる線維輪からできており、これが椎骨に掛かる衝撃を吸収しているのです。椎間板は、このようにクッションのような役割をすることで、骨の周囲にある靭帯と共に背骨を守っています。
正常な場合、椎間板は椎骨と同じ大きさをしています。しかし、何らかの原因により椎間板が椎骨からはみ出してしまうと、すぐ脇の空洞を通っている脊髄を圧迫してしまいます。すると神経に異常が生じてさまざまな症状を引き起こします。これが、椎間板ヘルニアです。
椎間板ヘルニアの症状
椎間板ヘルニアは、首から腰までのどの部位で発症するかにより、症状が出る体の部位が異なります。また、発症箇所が一箇所であるとも限りません。さらに症状の重さは軽度から重度まで5つのグレードに分けられますので、さまざまな部位にさまざまな症状が出ることになります。
基本的に首の椎間板ヘルニアの場合は、首の部分に激痛があるため、首や頭を触ると痛がって鳴いたり、場合によっては攻撃的な様子を見せたりします。また、前肢と後肢に麻痺が出て、前につんのめるような歩き方になります。また、ひどくなると横たわったまま歩くことができなくなります。
胸や腰の椎間板ヘルニアの場合は、胸や腰の部分を触ると痛がって鳴いたり、攻撃的な様子を見せたりして嫌がります。また、後肢が動かない、後肢が突っ張ったままの状態になり曲げられなくなる、力が入らなくなる、腰を上げられなくなるといった症状が見られます。
症状の重さでは、下記の5つのグレードに分類されています。
【グレード1】
主な症状は痛みのみです。動かなくなった、抱っこすると痛がって鳴くなどの症状が見られます。
【グレード2】
自力で歩くことはできますが、フラフラとした歩き方になります。
【グレード3】
麻痺が見られます。自分で立って歩くことができず、腰が抜けたようになります。腰の椎間板ヘルニアの場合は、前肢だけで歩こうとします。
【グレード4】
浅部痛覚消失といって、体表面の感覚が麻痺します。そのため、足先の皮膚をつねっても痛がりません。また、腰が抜けた状態になるだけでなく、自分の意思でおしっこをすることができずに垂れ流しのような状態になります。
【グレード5】
深部痛覚消失といって、骨のある身体の深い部分の感覚が麻痺します。そのため、足を鉗子で強く挟んでも痛がりません。
椎間板ヘルニアの治療と予防
グレード1や2の段階であれば、薬の内服と安静による治療が可能です。また、性格的に安静が難しいワンちゃんや、飼い主様が外出などでずっとみていることが難しいという場合には、コルセットをおすすめしています。コルセットを装着すれば必ず回復するという訳ではありませんが、腰の安定化を図るのには有効です。
麻痺の症状が表れるグレード3以上の場合は、基本的には外科手術をおすすめしています。外科手術を行う前に、CTやMRIによる画像検査で椎間板ヘルニアが発症している部位と程度を正確に把握します。その上でワンちゃんの状況にあわせた最適な術式を選び、綿密な手術計画を立て、実際の手術に臨みます。
椎間板ヘルニアには、椎間板の線維輪が隆起して椎骨から飛び出してしまう場合と、髄核が線維輪を破って脱出してしまい、脊髄が通っている空洞に侵入してしまう場合があります。また、どの箇所に発生しているかも問題です。これらの状況を総合的に判断した上で、術式を決定します。多くの場合、首のヘルニアは腹側から、胸や腰のヘルニアはサイドからアプローチします。
そして手術後は再度CT撮影を行い、椎間板物質の取り残しがないかを確認します。また、術後は入院によるリハビリ治療により、回復を目指します。
当院ホームページの「診療科目−神経外科」のページで、更に詳しく椎間板ヘルニアの手術についてご説明していますので、ご興味のある方はぜひご一読ください。
椎間板ヘルニアは、遺伝的要素が原因の場合と加齢による場合とがあり、いずれの場合も完全に予防することはできません。しかし、普段から背骨に負担をかけないような生活を心掛けることで、発症するきっかけを抑えることにつながります。
背骨に負担をかけない生活としては、下記に挙げるようなポイントに気をつけていただけると良いでしょう。
・段差のある場所の上がり下りを控える
・抱っこをする時には背骨が地面と平行になるように注意する
・定期的に画像検査も含めた総合的な健康診断を受ける
・痛みの症状が見られた場合は様子を見ずに速やかに受診する
椎間板ヘルニアのポイント
ポイント
・犬は他の動物と比べると椎間板ヘルニアを発症しやすい
・発症部位により現れる症状はさまざま
・軽症のうちに治療を開始すれば内科的な治療も可能
・麻痺が現れたら外科手術による治療が必要
・普段から背骨に負担をかけない生活をすると発症の抑制につながる
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