雨上がりのお散歩はレプトスピラ症に注意!
犬に多いレプトスピラ症
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
新型コロナ感染症の流行により、感染症は、治療はもちろんですが、感染の拡大を食い止めることも大切だということを、実感された飼い主様も多いのではないかと思います。また日本では、感染症法で、特性によって感染症を5つに分類し、特性に応じた感染の拡大対策をとっていることも、広く知られるようになりました。
感染症は大きく、人から人に感染するものと、他の動物から人に感染するものに分けられます。後者を人獣共通感染症と呼び、感染症法では4類に分類されています。よく知られている人獣共通感染症には、狂犬病、オウム熱、ライム病などが該当します。
そして、今日お話しするレプトスピラ症も、4類に分類される人獣共通感染症です。4類の発症を診断した獣医師は、国に報告しなければなりません。レプトスピラ症は、日本で毎年30件前後の発症が報告されており、神奈川県内でも時々発症しています。そして、その多くが犬への感染です。
そこで今回は、犬のレプトスピラ症についてお話ししたいと思います。
レプトスピラの感染経路
レプトスピラ症は、レプトスピラという細菌に感染することで発症します。レプトスピラ菌にはたくさんの種類があり、全ての哺乳類に感染します。特に私たちに身近な動物で感染が多く見られるのは、ネズミ、イヌ、ウマ、ブタ、コウモリ、タイワンリス、ハクビシン、タヌキなどです。
犬のレプトスピラ症は、日本でも毎年30件前後の発症が報告されています。地域的には関東以西での発生が多く、また月別では、9月〜11月の報告件数が特に多くなります。
神奈川県では2011年、2014年、2019年、2021年にそれぞれ1件ずつ発生しました。決して発生件数が多い地域ではありませんが、県内にレプトスピラ菌が継続的に存在していることは明らかだと考えています。三浦半島には野生のタイワンリスがたくさん生息しているため、お散歩中のワンちゃんへの感染リスクは高いと考えています。
レプトスピラ菌は、感染している動物の尿の中に排泄されます。この尿中の細菌が傷口や粘膜を通して体内に侵入し、感染するのです。そのため、タイワンリスのオシッコがかかった木の幹のニオイを嗅いだり、雨でレプトスピラ菌に汚染された尿が拡散され、そこに足を踏み入れたり舐めたりしてしまうことで、タイワンリスと直接接触をしなくても感染してしまうのです。
2021年に県内で発症したワンちゃんのお散歩コースは、逗子海岸でした。しかしレプトスピラ菌は、中性または弱アルカリ性の淡水を好み、かつ乾燥には弱いため、海水中や砂浜の中では生きていられないだろうと考えられています。そのため現在では、海岸ではなく市中での感染だろうと考えられています。
つまり、普段から海や川の近くをお散歩しているワンちゃんに限らず、公園や遊歩道などの野生動物が生息している場所でお散歩をしているワンちゃんたちも、感染リスクが高いということです。
特に最近は、毎日のようにゲリラ雷雨注意報が出され、一時的な豪雨が日常的になりました。雨上がりのお散歩では、濡れた木の幹やぬかるみに足を踏み入れさせたり、ニオイを嗅がせたりしないよう、特に気を付けましょう。
症状及び治療
感染してから発病するまでの潜伏期間は、数日〜2週間程度です。軽症から命に危険のある重篤なものまで症状はさまざまですが、免疫力が低い場合に重症化しやすいことがわかっています。
犬以外の野生動物は、感染しても発症しなかったり重症化しなかったりすることが多いですが、感染後数ヶ月、場合によっては一生涯、尿からレプトスピラ菌を排出し続けます。そのため元気そうに見えても、保菌者である可能性があることを知っておきましょう。
ワンちゃんと一緒に飼育している猫ちゃんは、完全室内飼育をおすすめします。猫ちゃんはレプトスピラに感染しても発症しませんが、尿中には病原菌を排出するからです。
初期に見られる症状は、発熱・食欲不振・元気消失・嘔吐・脱水です。重篤な状態になると、歯茎や舌などの出血、粘膜の充血、ぶどう膜炎や黄疸、皮下出血、血便などが見られ、場合によっては神経症状が現れる場合もあります。
レプトスピラ菌は肝臓や腎臓で増殖するため、進行すると肝不全や腎不全を引き起こします。特に犬の場合は、他の動物よりも重度な肝不全や腎不全を起こしやすいといわれています。
基本の治療は抗生物質の投与と、体全体のバランスを維持させるための対症療法です。抗生物質は点滴投与が望ましいため、入院あるいは連日の通院となることが多いです。症状が落ち着いたら、2週間程度の内服薬治療に切り替わります。ただし、非常に重篤で急激に進行する肝不全や腎不全を発症してしまった場合は、治療が病気の進行に追いつけず、命にかかわる場合もあります。
混合ワクチンでの予防
レプトスピラには数多くの血清型が存在するため、予防接種で全てのレプトスピラに対応できるわけではありません。しかし当院では、レプトスピラ症予防に年1回の8種混合ワクチンの接種をおすすめしています。
当院で扱っている8種混合ワクチンは、レプトスピラのカニコーラとイクテロヘモラジーという2種類の血清型に対応しています。日本国内で発症しているレプトスピラ症の内、急速に重篤化するタイプのレプトスピラはカニコーラとイクテロヘモラジーなので、このワクチンはレプトスピラ症の感染や重症化の予防に十分効果的だと考えています。
野生のタイワンリスやネズミ、ハクビシンなどの感染源が生息し、降雨後に溢れやすい川や下水などが多い環境にお住まいの場合は、ぜひレプトスピラ症への予防にも対応している混合ワクチンの接種をご検討ください。
統計的に、レプトスピラの抗体はあまり長期間保持できないようだということが分かってきています。そのため当院では、特にレプトスピラ濃厚地帯によくお散歩に行かれるワンちゃんには、秋の追加接種をおすすめしています。
以前のブログでも、レプトスピラ症について詳しく説明していますので、よろしかったらご一読ください。
ポイント
ポイント
・レプトスピラ症は感染した野生動物の尿から感染する人獣共通感染症です
・レプトスピラは全ての哺乳類に感染しますが、犬は特に重症化しやすいといわれています
・猫が感染すると発症しなくても尿中に病原菌を排出し続けるため注意が必要です
・公園や遊歩道など自然が多い場所での雨上がりの散歩は感染リスクが高まります
・レプトスピラに対応した混合ワクチンの接種は感染や重症化を予防できます