猫のシュウ酸カルシウムによる尿管結石とSUBシステム手術

犬猫の病気や症状

 

猫に増えてきている尿管結石

こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

最近、猫の尿管結石の治療で、SUBシステムというインプラント(装置)を設置する手術が増えてきました。猫の尿路結石(腎結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石の総称)については、以前ブログでお話ししましたので、全体概要についてはそちらをご一読いただければと思います。

<https://tsuda-vet.com/猫の尿路結石/ >

つだ動物病院 ブログ:猫の尿路結石

 

今回は、結石の成分とSUBシステムの手術に主眼を置いてお話ししたいと思います。

 

尿管閉塞の原因のトップを占める尿管結石

元気のない猫

 

最近は、尿管閉塞が猫の腎臓病の原因としてとても増えてきています。急性腎臓病の原因の内、3割以上が尿管閉塞ですし、慢性腎臓病の原因としても尿管閉塞が多いという報告が出ています。そして、その尿管閉塞の原因のトップが尿管結石です。

 

尿管とは、腎臓と膀胱をつないで尿を運ぶための直径1mm程度の細い管状の臓器です。ここに結石が詰まってしまい、排尿を妨げる病気が尿管結石で、完全に排尿できなくなるほど詰まってしまった状態が、尿管閉塞です。

 

結石は、その成分によって複数種類に分けられるのですが、主な結石成分はストルバイトとシュウ酸カルシウムです。以前のブログでは、尿路結石全体の内、シュウ酸カルシウムが42%、ストルバイトが41%で、ストルバイトは減少、シュウ酸カルシウムは増加の傾向にあるとお話ししました。ですが、尿管結石だけに着目すると、そのほとんどをシュウ酸カルシウムが占めていると言われています。

 

結石はミネラル分が結晶化したガラスの破片のようなもので、それが集まって徐々に大きくなっていきます。そのため、そのまま尿管の中に放置しておくわけにはいきません。排尿できないことは命の危険に直結しますし、尿管が傷ついて破裂してしまう可能性もあるからです。

 

結石がまだごく小さな砂状のうちは、ストルバイトであれば内科療法で溶かすことができます。しかし、シュウ酸カルシウムは小さくても溶かせません。そのため、シュウ酸カルシウムの場合や大きくなってしまったストルバイトは、手術による摘出が必要になります。

 

SUBシステムによる手術

SUBシステム手術後に横から撮影したX線写真

 

手術方法にもいくつかありますが、最近注目されているのがSUBシステムというインプラントを設置する手術です。これは、猫の尿管閉塞への手術として、アメリカ獣医内科学学会でも推奨されている術式です。

 

尿管は、腎臓で作られた尿を膀胱に運ぶ役割をしている管です。この管が詰まってしまっているので、シリコン製の太い人工カテーテルで腎臓と膀胱をつなぎ、尿管を通さずに尿をバイパスして膀胱へ流すというのがこの術式の概要です。

 

実際には、腎臓につなげたカテーテルと膀胱につなげたカテーテルの間に金属製のポートをつなげて、このポートからカテーテルの洗浄や採尿などのアフターケアができるようにします。SUBシステムとは、このカテーテルとポートの一式のことで、正式名称をSubcutaneous Ureteral Bypass(腎臓膀胱バイパスシステム)と言います。

 

上の写真は、尿管が2本とも閉塞してしまった猫にSUBシステム手術をした後、横から撮影したX線写真です。頭の方向が左側です。お腹の下に見える2つの丸い白い物がポートです。このポートの左側に見える2本の細いカテーテルが、左上の方の2つの腎臓にそれぞれつながり、ポートの右側に見える2本の細い管が、右側の膀胱につながっているのが分かると思います。

 

もちろん、閉塞してしまった尿管が1本だけの場合は、設置するSUBシステムも1式だけになります。同じ猫の、下から撮影したX線写真も下に掲載します。この写真も頭の方向が左側です。お腹の表面に延々と並んでいる線路のまくら木のような白い物は、手術で開いた皮膚をステープラーで閉じた痕です。術野の広さが分かると思います。

 

SUBシステム手術の流れ

SUBシステム手術後に下から撮影したX線写真

 

SUBシステム1式分の手術は、下記のような流れで行います。

(1) 豚の尻尾の様に先端がくるりと丸くなったピッグテール様カテーテルを腎臓の中で先が曲がるように設置してから整体用接着剤で固定

(2) 膀胱にも同様にピッグテール様カテーテルを設置して固定

(3) 2本のカテーテルをお腹側でポートに連結させ、ポートを皮下に固定し、縫合糸またはステープラーで傷口を閉じる

 

このポートは、その後針を刺してカテーテル内の尿を採取したり、カテーテルへの結石の詰まりを防止するために洗浄したりする際に利用します。

 

手術後は、平均的に1週間程度の入院が必要になります。入院期間中には、カテーテルが閉塞しないかどうかの確認や、X線によるカテーテルからの漏れがないかの確認、カテーテルの洗浄などを行います。

 

この手術のメリットは、他の術式と比べて短時間で実施できるため麻酔時間の短縮が可能なこと、尿管の再閉塞率が低いことなどが挙げられます。また前述の通り、術後に定期的な洗浄によるメンテナンスが行えることも、大きなメリットです。

 

しかし、SUBシステム自体が高価だということもあり、一般的な手術と比べると費用が高額になるというデメリットもあります。また、場合によってはカテーテルの劣化や閉塞が起こり、数年後に交換が必要になる場合もあります。

 

SUBシステム手術の今後

水を飲む猫

 

SUBシステムが臨床に応用されて10年程度というまだ新しい治療法なので、SUBシステム手術は心配だという飼い主様もいらっしゃるかもしれません。しかし、今のところ100頭以上の猫にSUBシステム手術を行った成績を報告する論文では、SUBシステム手術により94%の猫が退院するまでに回復し、治療前に平均6.6mg/dLであった血清クレアチニン濃度も、術後3ヶ月で平均2.6mg/dLまで減少したと報告されています。

 

もちろん、術後の合併症として、血餅による閉塞(8.1%)、SUBシステムからの尿漏れ(3.5%)、チューブのよじれ(4.6%)などの報告もありますし、長期間使用した場合の合併症としてカテーテルの石灰化が24%で発生した(平均463日)との報告もあります。

 

しかし、手術にはリスクや合併症はつきもので、ゼロリスクということはありません。今後も研究は進んでいくでしょうし、今のところSUBシステムは尿管閉塞の治療において画期的な可能性を持っていると考えられています。

 

もちろん、すべての尿管閉塞の患者様にSUBシステムの手術をむやみにおすすめする訳ではありません。患者様の病状や状態、生活環境等を考慮し、飼い主様にきちんとメリットとデメリットをご説明した上で、治療法をご相談して決めていくことになります。

 

最後になりましたが、腎臓は再生機能のない臓器です。一度機能を失ってしまうと、2度と取り戻すことはできません。愛猫の様子を日頃からよく観察していただき、「排尿時の様子がおかしい、トイレから出てきたのに実際には尿が出ていない、トイレに行きたがらない、元気や食欲がない」などが見られた場合は尿管閉塞の可能性を疑って、すぐに愛猫を動物病院に連れてきてください。発見が遅れれば遅れるほど、腎臓は次第に縮小していき、十分な機能を果たせなくなります。しかし、血液検査の数値や症状として明確に現れるのは、かなりの機能を失った後なのです。

 

腎臓系の疾患は、猫自身も苦しく、生活の質が著しく低下する傾向のある病気です。予防策として、ミネラル分の多いフードを与えすぎないことや、いつでも新鮮な水を好きなだけ飲める環境にしてあげる等の配慮をしてあげてください。飼い主様の観察と予防策で、愛猫を健康な状態で長生きさせてあげましょう。

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