赤い歯茎は歯肉炎のサイン!磨いていますか?愛犬愛猫の口腔ケア
はじめに
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
以前も何度かブログでご紹介していますが、ある程度の年齢になると、ほとんどのワンちゃんや猫ちゃんが、口の中にトラブルを抱えるようになります。口内のトラブルがすぐ命に関わるような問題になることは少ないため、あまり気にされないかもしれません。
しかし口内のトラブルは、進行すると食べられなくなって痩せてしまったり、口の中の菌が血液に入って全身に回り、心臓や腎臓などに重い病気を引き起こしたりと、最終的には命に関わるような問題になる可能性があるため、決して見過ごせることではありません。
犬や猫の口の中で繁殖しやすいのは、歯周病菌です。たとえ他の臓器にまで感染しなかったとしても、歯茎が赤く腫れる歯肉炎から始まり、歯周炎となり、さらに歯が抜けたり骨が溶けたりと、ワンちゃんや猫ちゃんをとても苦しい目に遭わせてしまいます。
初期症状の歯肉炎の段階で気付き、すぐに対処すること、そして普段から歯磨きによるお口のケア(口腔ケア)を習慣化することが大切です。今回は、お口のケアについてお話しします。
なお、歯肉炎や歯周病については、以前のブログをご一読ください。
<歯石の危険性と予防法について┃全身の健康に影響を与える!?>へのリンク
歯肉炎の見分け方
ワンちゃんや猫ちゃんの健康な歯茎は、全体的にピンク色をしていて、弾力性があります。また歯は白く、表面に歯垢や歯石はついていません。子犬や子猫の頃の口の中の様子をよく覚えておきましょう。
私たちは、毎日複数回歯を磨きます。ワンちゃんや猫ちゃんの歯磨きも、1日1回で良いので毎日行うのが基本です。飼い主さんが、唇をめくってしっかり歯茎と歯の状態をチェックしながら磨いてあげましょう。
歯が白くないのは、歯垢や歯石がついて汚れているからです。また、歯と境目になっている部分の歯茎が赤くなっていたら、すでに歯肉炎が始まっているサインです。
他にも、下記のポイントを意識しながら口の中をチェックしてください。
・歯の色が黄色や茶色に汚れている
・歯茎が赤く腫れている
・歯茎から出血している
・口臭がきつくなった
・以前より歯茎が下がってきている
・歯がぐらぐらしている
ライフステージ別の口腔ケア
ワンちゃんも猫ちゃんも、口腔ケアの中心は、歯磨きです。しかし、すぐに歯磨きを受け入れてくれるとは限りません。また成長過程により、ポイントも変わってきます。そこで、ライフステージ別の口腔ケアのポイントをご紹介します。
◯子犬・子猫期(〜6ヶ月)
ワンちゃんや猫ちゃんの乳歯は、生後2ヶ月頃までに生え揃います。そして、生後3〜7ヶ月頃までに少しずつ生え変わっていきます。できれば、乳歯が生え始めたら歯磨きのトレーニングを始め、永久歯に生え変わるまでの間に、嫌がらずに毎日歯磨きができるようにしておくことをおすすめします。
「乳歯は生え変わるのに」と思われるかもしれませんが、乳歯を守るためというよりも、歯磨きの習慣をつけることが目的です。たとえ歯ブラシを受け入れてくれなくても、飼い主様が口を開けて歯や歯茎の状態を見たり触ったりできるようになることが大切です。
まずは歯ブラシを口に入れられたらご褒美のおやつ、歯を1本磨けたらご褒美のおやつと、少しずつ進めていき、「歯磨きは楽しい、嬉しい」と思ってもらうようにすることが大切です。
◯若齢期(6ヶ月〜2歳)
永久歯が生えそろった頃に、1度動物病院で歯科検診を受けることをおすすめします。抜け残った乳歯があった場合、それが原因で噛み合わせに問題が生じたり歯並びの悪さから歯石ができやすくなったりすることがあるため、残っている乳歯を抜歯します。特に問題がなかった場合も、歯のケアについてのアドバイスを差し上げます。
また2歳を過ぎると、これまで以上に歯に歯石が付きやすくなります。2歳を迎える前までに、しっかり歯磨きができるようにトレーニングを続けましょう。
◯成犬・成猫期(2歳〜7歳)
毎日の歯磨きをきちんと続けてください。歯磨きの効果を補強するために、歯磨き効果を期待できるおもちゃなどを併用するのも良いでしょう。
それでも歯についた歯垢が残ってしまうと、唾液に含まれているカルシウムで石灰化され、硬い歯石に変わります。歯石になると、歯磨きでは除去できません。そこで、年に1回は歯科検診を受けることをおすすめします。
歯石がついてしまった場合は、全身麻酔を行った上で、歯石を除去(スケーリング)し、歯の表面を磨いて整え(ポリッシング)、歯周ポケットの中の洗浄(ルートプレーニング)を行います。
◯シニア期(7歳以上)
シニア期に入ると、ワンちゃんも猫ちゃんも、全身麻酔のリスクが高まってしまうため、歯石の処置も簡単には行えなくなるかもしれません。そのため、より注意深く口腔ケアを行うことが求められます。
シニア期の口腔ケアも、基本は歯磨きです。もしも歯周病が進んでしまい、柔らかい毛の歯ブラシでも痛がったり出血したりする場合は、犬猫用の歯磨きシートやジェルなどを利用しても構いません。
また老化により唾液の分泌量が減少します。できるだけ運動をさせて代謝を上げ、唾液の分泌を促したり飲水で口の中の乾燥を防いだりさせるような工夫も大切です。
猫特有の課題と対策
猫ちゃんは、ワンちゃんと比べるとトレーニングが難しいため、なかなか歯磨きを受け入れてくれないかもしれません。特に慣れるまでは、どうしても体を拘束した状態になるため、逃げ出してしまう猫ちゃんも多いことでしょう。
それでも、歯ブラシで顎の下をマッサージするなどで、「歯ブラシって気持ちいい!」と思ってもらえれば、歯磨きを受け入れてもらえるチャンスです。とにかく歯ブラシに良い印象を持ってもらうようにして少しずつトレーニングを続けていけば、歯ブラシで歯磨きをさせてくれるようになる猫ちゃんもたくさんいます。
しかし保護猫の成猫を受け入れた場合などは、歯ブラシを使用するまでにかなりの時間を要してしまい、その間歯が磨けない状態が続いてしまうかもしれません。その場合は、飲水に投与するタイプや歯に滴下するタイプ等の液剤を利用しながらトレーニングを続けていきましょう。
また、シートであれば歯を磨かせてくれる子もいますので、市販の歯磨きグッズをいろいろと試して、最も受け入れてくれるタイプのケア用品を選ぶのも良いでしょう。
1度に全ての歯を磨くのは難しくても、数本ずつに分けて磨けば受け入れてくれる場合もあります。歯垢が歯石になるまでの期間は2〜3日なので、毎日少しずつ磨いて、3日で全ての歯を磨くという方法でも、猫ちゃんのストレスを抑えて歯磨きの効果を上げることができるでしょう。
よくある質問と回答
◯歯磨きを嫌がる場合、どう対処すれば良いですか?
まずは、歯ブラシが気持ちの良いものだと思ってもらうことが大切です。最初は歯ブラシで口の周りや顎の下などをマッサージして、歯ブラシを気に入ってもらうところから始めてみましょう。
飼い主様が焦ってしまうと、その緊張感がワンちゃんや猫ちゃんにも伝染してしまい、ますますうまくいかなくなります。どうしてもうまくいかない場合は、一旦諦めて、少し時間をおいてから再度挑戦してみてください。また、1度に完璧に磨こうとすると強いストレスを与えてしまうので、少しずつ複数回に分けて磨いてみてください。
◯歯ブラシではなく、シートで磨いていますが効果はありますか?
効果はありますが、歯ブラシほど高い効果は望めないかもしれません。まだ若いワンちゃんや猫ちゃんであれば、シートなどの代替えケアを利用しながら、少しずつ口や歯に触られることに慣れてもらい、徐々に歯ブラシでも磨けるようにトライしてみてください。
猫ちゃんでも、歯ブラシで顔のマッサージを続けていると、自分から歯ブラシに近づいて顔を擦り寄せるようになるので、根気良く続ければ歯ブラシでの歯磨きもできるようになるでしょう。
◯歯科検診の通院タイミングはどのくらいですか?
歯科検診は、最低でも1年に1回は受けることをおすすめしています。ただ、歯科検診のためだけに来院されるのは大変だと思いますので、健康診断やワクチン接種などと抱き合わせで来院されると良いでしょう。
ポイント
・歯肉炎を悪化させると、全身に重い症状を引き起こす病気の原因となります。
・犬や猫も、歯肉炎を予防するためには毎日の歯磨きが大切です。
・「歯の色」「歯茎の色」「口臭」「歯茎の状態」「歯の状態」をチェックしましょう。
・乳歯が生え始めたら、歯磨きトレーニングを始めましょう。
・永久歯が生えそろった段階で1度歯科検診を受けましょう。
・2歳以降になると歯石がつきやすくなります。
・歯ブラシでの歯磨きが難しい場合は代替えのケアでも良いので口腔ケアを続けましょう。
・トレーニングが難しい猫も歯ブラシを気に入れば受け入れてくれるようになるでしょう。
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