愛犬や愛猫の命を守るフィラリア予防〜開始時期と最新の予防薬
命を守るフィラリア予防
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
フィラリア(犬糸状虫)は蚊が媒介する内部寄生虫で、主な宿主は犬です。しかし感染するのは犬だけではなく、猫、フェレット、ライオン、ピューマ、コヨーテ、オオカミ、キツネなど多岐にわたります。稀にですが人にも感染します。
蚊が媒介するのは、フィラリアの幼虫のミクロフィラリアです。蚊は、感染した動物の血を吸う時に、一緒に感染した動物の血液中にいるミクロフィラリアも吸引します。蚊の体内で成長して感染能力を身につけたミクロフィラリアの幼虫(感染幼虫)は、その蚊が他の健康な動物の血を吸う時に、その動物の体内に侵入して成長し、感染するのです。
感染幼虫が成虫になると、人の目にも見えるほど大きくて細長い、素麺のような形状になり、肺や心臓にすみ着きます。成虫の外皮(クチクラ)は、死後も粉状の形態で残るため、毛細血管を詰まらせて肺組織を壊死させることがあります。そのため、感染したからといって安易に駆除薬で殺してしまうと、逆に感染したワンちゃんや猫ちゃんの命を奪うことにもつながりかねません。つまり、感染させないことが唯一の安全策なのです。
ワンちゃんや猫ちゃんを苦しめたり突然死させたりしないためにも、飼い主様にはしっかりと予防をしていただきたいので、今回はフィラリア予防の時期や予防薬についてお話ししたいと思います。
なお、ワンちゃんや猫ちゃんのフィラリア症についての詳細な説明は、以前のブログをご一読ください。
フィラリア予防の開始時期
フィラリア症の症状が出るのは、フィラリアの成虫が肺や心臓にすみ着いた後なので、感染状況によっては駆除薬を使うのが難しい場合もあります。
そこで飼い主様にお願いしたいのは、予防が必要な期間をしっかりと把握し、期間中は必ず薬効に合わせて定期的に投薬を続けていただきたいということです。現在一般的に言われている横須賀地区のフィラリア予防期間は、4月末から12月末までです。しかし近年は暖冬であることが多くなったため、当院では通年での予防をおすすめしています。
実際、私が獣医師になった35年ほど前は、横須賀地区での予防期間は5月末から11月末でした。温暖化が進み、現在は4月末から12月末となりました。しかし月日に関係なく、蚊の活動が見られた場合は速やかに予防を開始したり、予防期間を延長したりといった対応が必要になります。
なおミクロフィラリアは、平均外気温が14℃未満だと成長できません。そのため、平均外気温が14℃以上になったらフィラリア予防を開始するというのも一つの目安になるでしょう。
フィラリア予防薬の選び方
◯薬が作用するしくみ
現在一般的に使われているフィラリア予防薬は、作用するしくみによって2種類に分類できます。それは、月に1回投与するタイプと、年に1回投与するタイプです。
月に1回投与するタイプの薬は、1ヶ月の間に感染した感染幼虫を駆除し、薬自体はすぐに体外に排出されるしくみです。ほとんどのフィラリア予防薬が、このタイプです。
年に1回投与するタイプの薬は、感染した感染幼虫を駆除しながら薬自体は少しずつ排出されるように設計されています。次でご説明する、注射で投与する薬がこのタイプです。
◯薬のタイプ
当院で取り扱っているフィラリア予防薬には、3つのタイプがあります。
<チュアブル錠>
犬が好んで食べるような風味を付けた、飲ませやすいタイプの薬です。
ただし、風味を付けるために使われている材料に食物アレルギーがある子には、飲ませられない場合もあります。
特に問題がない場合、当院では飲ませやすさを優先してこのタイプをメインに使用しています。
<注射>
注射で薬を体内に注入するタイプの薬です。
前述の通り、このタイプの薬だけは効果が1年間持続するため、注射を嫌がらない子には向いている薬と言えます。
ただし大きな注意点があります。それは、1年間の体重変化が大きい子には使用できないということです。ワクチンではなく薬なので、体重に見合った投与量が重要になるからです。つまり、成長期の子やダイエットが必要な子などには、適用できません。
<スポット(滴下式)>
背中に垂らす(滴下する)タイプの薬です。薬を飲んでくれない子にも、確実に投薬できるタイプの薬です。特に、猫ちゃんにはおすすめのタイプだと言えるでしょう。
ただし、垂らした薬剤が全身に行き渡り、かつ乾燥するまでは触れ合えません。また稀に肌荒れを起こす場合もあるため、初めて使用する場合は注意が必要です。
◯薬効の範囲
薬によっては、フィラリアのみに有効なものと、ノミやダニ、さらには他の寄生虫にも効果のあるオールインワンタイプの薬があります。
ワンちゃんも猫ちゃんも、気をつけるべき寄生虫はフィラリアだけではありません。可能であれば、オールインワンタイプの薬を選ぶと良いでしょう。
チュアブル錠とスポットの薬に、オールインワンタイプがあります。ただし、いずれも薬効持続期間は1ヶ月です。
◯投薬開始前に必要なフィラリア抗原検査について
いずれの薬でも、毎年必ずフィラリア予防を始める前に受けていただきたいのが、フィラリア抗原検査です。前述の通り、感染したワンちゃんや猫ちゃんに予防薬(駆虫薬)を飲ませてしまうと、かえって命を落としかねないため、この検査でフィラリアに感染していないことを確認しましょう。
万が一感染していた場合は、感染状況などから別の処方を検討します。
なお、フィラリア予防薬の選び方の詳細については、以前のブログも参考にしてみてください。
フィラリアや他の寄生虫予防薬に関してご質問やご相談がある飼い主様は、遠慮なくご相談ください。その子の状態や飲みやすさ等を考慮した、最適な薬を処方いたします。
ポイント
・フィラリア感染症は、犬や猫の命に関わる病気の一つです。
・感染してしまうと治療が難しいため、予防することが大切です。
・蚊の活動時期および平均外気温14℃以上の間は、継続的な予防が必要です。
・近年は暖冬化の傾向があるため、通年での予防をおすすめしています。
・さまざまな予防薬があり、その子に適した薬を選ぶことが継続投与の秘訣です。
・注射タイプの薬は薬効持続期間が長いため、体重変動が大きい子には適用できません。
・毎年予防を開始する前には、必ずフィラリア抗原検査を受けてください。
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